往年のコンソールを復刻したような
物として素晴らしいデザイン
まずは本製品を説明するために用いられているワードをチェックしてみると、ミキサー、アナログ、クラスAディスクリート、デスクトップ、DAWコントロール……などと言った、さまざまな言葉が目に飛び込んでくる。そして次に実物の造形を目にすると、それらの言葉を一瞬忘れてしまい、美しさ、そして物としての素晴らしいデザインを瞬時に感じる取ることができた。我々の世代をニヤッとさせる懐かしさや、かわいらしさまでを感じてしまうのは、まるで1970年代のQUAD EIGHTのコンソールが、ミニチュアになって復刻されたかのようだからだ。白系のパネル、赤い色のボリューム・ノブ、そしてそれらのアルミニウムの質感、サイドに使われている温かみのある木製のパネル、そして昔ながらの大きなVUメーター。
また違う意味で目を引くのが、本体右側にある大きな回転ホイールとその下にあるトランスポート・セクション部分だ。後述するが、まるで、テープ・レコーダーのロケーターのようだし、5060の全体を見てもハード・ディスク・レコーダーのようにも見える。もっと言ってしまうと、1980年代に存在した大きなシーケンサーのようにも見える。そのセクションには再生/録音/巻き戻し/早送り……といったボタンが使いやすそうなレイアウトで並んでいる(写真①)。
実際に一通り使ってみて、筆者がこの5060の正体を言うなら、“サミング・アンプを搭載したDAW用のモニター・コントローラー”というのが簡略化した表現だ。しかし、RUPERT NEVE DESIGNSがそんな簡単なモノを製品化するはずがなく、さすがに奥が深い。それでは詳しく説明していこう。
フェーダーは100mmストローク
全入力チャンネルに独自のトランスを搭載
本機の入力チャンネルはステレオで12系統分(24ch)用意されている。ゆえに、レベルを調整できるフェーダーおよびボリューム・ノブは合計12個ということになる。ch1〜8に関しては100mmストロークの白いフェーダーで操作することができ、背面のDIPスイッチで、Lchのモノラル・フェーダーとしても使用可能。また、各フェーダーのすぐ上にはインサートとミュートの2つのON/OFFスイッチがある。インサートのセンドに関してはON/OFFに関係なく常に送られている状態なので、センド/リターンの、リターンのカット用スイッチというのが正しい表現になるであろう。ONのときは緑に点灯する。そして右側のミュート・スイッチはミュート時に赤く点灯する。
この4つのフェーダーに関しては、インサート後のフェーダー前後にクラスAのオペアンプおよび、RUPERT NEVE DESIGNS独自のトランスを搭載しており、フェーダー突き上げで+10dBになる。そして、赤いフェーダーはマスター・フェーダーで、ほかのフェーダーと同様に、インサートのON/OFFのスイッチが上部に配置されている。ちなみにマスター・フェーダーは突き上げで0dBである。
ch9〜24に関しては、上部にある赤い8個のボリューム・ノブで操作する。それらch9〜24に関してはch1〜8とは違い、ミュートやインサートは使用できず回路も簡素化されたアッテネーターのボリュームで、回し切りが0dBになる。
さて、ここまでの説明ではいわゆるサミング・アンプとして理解ができる。しかし、さすがはRUPERT NEVE DESIGNSで、インサートに関しては、昔ながらのバランスの入出力(D-Sub25ピン)であることや、24chすべての入力にRUPERT NEVE DESIGNS独自のトランスを搭載しており、こだわりを十分に感じられる。フェーダーやボリューム、スイッチを使用した印象は、非常に高級感があり、特にフェーダーに関しては100mmストロークということもあって、普通のコンソールを使用しているイメージで操作できる。いわゆるDAWのコントローラーとは一線を画しているのは明白で、フェーダーやボリューム・ノブに音がまとわりついてくる感じでミックスができた。表現が難しいのだが、5060のようにアナログのフェーダーやボリュームはレベルを変動するカーブを持っていて、実際にフェーダーやボリュームを動かす量と、音の変化が感じられることが人間の感性に一致しているのだ。
極めつけはRUPERT NEVE DESIGNSが既にリリースしているPorticoシリーズや5059 Satelliteに搭載されているSILKという機能(写真②)。
これは、ディストーションのキャラクターおよび倍音成分を発生させ、ルパート・ニーヴ氏設計のビンテージ・クラスAデザインのサウンドをほうふつさせてくれるものだ。スイッチによりSILK RED/BLUEを選択し、スイッチの上にあるボリュームを回すとREDでは高域〜中高域を、BLUEでは低域〜中低域を強調することができる。
この機能のチェックをした際、非常に興味深いことがあったので記載しておこう。今回この5060のチェックには、筆者が行っているとあるセッション(スタンダードなJポップ。編成はすべて生楽器で、4リズム+ストリングス+ボーカル)を、AVID Pro Toolsである程度ステムでまとめたものを使った。それをPro Tools上でのミックス、5060でのミックス、弊社のNEVE V1でのミックス、同じく弊社のSSL Gシリーズでのミックスを聴き比べたのだ。
5060、NEVE V1、SSLも単純にフェーダーは0dBに設定し、EQ、コンプなどはかけずにサミング・アンプとして使用。ここで優劣を述べると、この記事とは別なものになってしまうので伏せておくが、なんと5060で、SILK機能のREDを選び、ツマミを半分ぐらいに回すと、面白いくらいNEVE V1の音と同じようなサウンドになったのだ。これには筆者も驚いた。中高域の切れの良さだったり、スピード感だったり、低域のまとまり感だったり、質感、スピード感が非常によくシミュレートされていることが分かった。ただ、SILK REDとSILK BLUEは同時には選択できず二者択一なので、そこは悔しいところでもある。またこのSILK機能はトータルの2ミックスにのみ使える機能なので、RUPERT NEVE DESIGNSが推奨しているように、5059 Satelliteをインサートなどに併用することで、NEVEサウンドに広がりを持てると思う。
トークバック・スイッチ/マイクを装備
USB接続でDAWのコントロールが可能
本機ではヘッドフォン・ボリューム、DIMスイッチおよびDIMレベルの操作が可能となっている。トークバック・スイッチとマイクも搭載されているので、レコーディングのシステムとしての使い勝手も良いだろう。このトークバックのシステムは、インサート出力の1&2および3&4のどちらかに割り込ませることが可能なので、キュー・システムなどを構築するために考慮されていると考えられる。
残すは謎のテープ・レコーダーのようなトランスポート・セクションだが、これは5060本体の機能とは別に考える方が分かりやすく、USBで接続したコンピューターのDAWアプリケーションのコントロールができる(MCU/HUI)。筆者のPro ToolsにUSB接続するとすぐに5060が選択でき、普通のコントローラーを使用するのと同様にストレス無く動作してくれた。これを使えば5060だけで、DAWを軸にしたシステムを構築できるわけだ。そして、最後に大きな存在感のある2つのVUメーター。やはりVUメーターがあると視覚的にもすぐに音量を確認でき、何より落ち着くのだ。
以上で説明は終わるが、筆者自身の感想は、とにかく高級なミニチュアNEVEといった印象で、見た目もサウンドも素晴らしいのひと言。最後に難点を言わせてもらうと、なぜソロ・スイッチを付けてくれなかったのか……切に感じた。ここまで完ぺきなのに、もし、ソロ・スイッチがあればリズム録りなどのときでも、非常に助かるのになと。それ以外は完ぺきである。強いて言うなら、インサートが使えるということはそれなりにアウト・ボードが必要になり、出費もかさむだろうな、という心配ぐらいだ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年2月号より)