
中域を大切にした素直なサウンド
低域の色付けが少ないのも良い
外観は大きめに見えるが240gとかなり軽量で、AKG K701とほぼ同じ。何と言っても、ハウジングが高級マイク・ホルダーのようなサスペンションで“浮いている”のがユニークで、あまり側圧を感じないのに耳をしっかりと覆ってくれる構造が素晴らしい。イア・パッドは一般的な楕円形の合皮なのだが、着け心地は確実に他機種とは違って感じる。装着感が良い上に軽いので、何時間でも着けていられそうだ。気付いた人もいるかもしれないが、本機は実はMB QUARTで発売していたQP 450 Proとほとんど同じデザインである。細部のチューニングは少し違うようだが、本機は十分な実績を持ったヘッドフォンがベースになっていると考えていいだろう。57mm径と大型のドライバーはネオジム・マグネットを使用したもので、大きな音量もかなり余裕を持って鳴らせてひずみも少ない。サウンドは比較的中域が充実しており、とても素直な印象。1〜2kHzがしっかり出ている一方で、ヘッドフォンでは耳障りな4kHz辺りがしっかりと抑えられており、ベル系の素材でも聴き疲れしない。高域は8kHz辺りがピークとなっていて歌やギターも伸びやか。10kHz辺りのエッジがさほど立っていない割には音の粒立ちや定位感も良く、アレンジ作業がしやすい。低域は適量で色付けが少ないので、コンガのような楽器も聴き取りやすい。それでいて50Hz辺りのキックの風圧もしっかりモニターできる。必要以上に低域が出過ぎていないので声の帯域も埋もれることが無く、歌やナレーション収録にも向いている。現代的なリバーブ感は少し物足りないかもしれないが、基本的には時代を問わず幅広い音楽に対応できる音色だと思う。放送局やスタジオで使われていることが納得できる音質だ。同社ハイエンドに位置する本機は音質重視で、下位機種よりもインピーダンスが300Ωと高くなっている。そのためゲインは低くなる点には注意が必要だ。今回はオーディオI/O付属のヘッドフォン端子でもボリューム上げれば十分にドライブできたが、重量感やリバーブ感など音色的には単体ヘッドフォン・アンプを使った方がいい結果が得られた。低域に無理な色付けが無い機種だからこそ、音色的なマッチングのいい再生アンプを選びたいところだ。
コードにも実用的な独自の工夫
スタジオ・ユースに特化した設計
ヘッドフォンで演奏していて困るのがコードの取り回しだ。イスから立ち上がったときにヘッドフォンが落ちたといった経験は皆さんもよくあるだろう。本機では装着したときに胸元に来るコードの個所だけ20cmほどクルクルとカール処理してある。不注意でコードに力が掛かってもこの部分でうまく吸収されるので、落下や断線が起こりにくいだろう。またR側のコード出口が赤く色付けされているので 左右が一目りょう然なのはうれしい配慮だ。さらにハウジング中央には点字でもL/Rが刻まれており、この辺りにも放送局での使用に耐える設計であることが理解できた。アームの構造としてはかなりシンプルで折り畳みができない上、可動部の遊びも最小なので携帯性は良いとは言えない。ハウジングも反転できず、DJ用途には構造上向かないと思われる。しかしその割り切ったデザインのおかげで使用するときの形状を常に保っており、装着時にいちいち形を整える必要が無いのが良い。機構が少ない分、軽量とも言えるだろう。特に着脱回数の多い楽器演奏用にはメリットが大きい仕様ではないだろうか。