
音像に乱れがなくクリアな音色
ミキシングもやりやすい
本機の入力はアナログ入力のみ。バランス入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)とアンバランス入力(RCAピン)の2系統です。デジタル入力を一切排しているのは潔いですね。フロント・パネルには、4ピンXLRによるBTL接続と通常のステレオ・フォーンという2種類のヘッドフォン端子と、ミュート・ポジションの付いた入力切り替えスイッチ、3段階のゲイン切り替えスイッチ、0.5dBステップの高精度電子ボリュームが配置されています。聴感上、ボリュームのステップはほとんど感じられないので違和感なく使うことができます。機能の説明は必要無いほどシンプル。本機の電源はACアダプターを使用しますが、本体との接続部分にロック式のコネクターが採用されており、抜け落ちの事故を防止します。目立たない部分ですがとても気が利いています。まずはCDプレーヤーのアウトからRCAピン接続にて試聴してみます。デモ機にはBTL仕様に改造された900STも同梱されていましたので、こちらで試してみます。BTL接続のヘッドフォンを試聴するのは初めてなのですが、そのサウンドには驚かされました。位相が奇麗に合っているので音像に乱れがなく、ひずみ感が少ないせいなのか、音色も雑味がなくクリア。高域もきれいに伸びて聴こえます。定位はビシッと決まっており、L/Rに振っている音色はもちろん、パンで言うと10〜45°くらいのセンター寄りの中間定位もきれいに聴き取れます。センターに定位する音色の前後の位置関係も奇麗に表現されており、900STが苦手な低域のディテール、キックとベースのタイミングなども比較的分かりやすいです。一方、通常の接続に戻したところわずかながら定位と音像に乱れを感じました。通常接続は中低域がやや太くなる印象もあって悪くはないですが、本機はBTL接続で使うのがベストだと思います。続いてXLRにAVID Pro Toolからのアウトを接続してミキシングを行ってみます。これは個人的な慣れかもしれませんが、昔からヘッドフォンのミキシングは、最終段階に近くなったときに使用するようにしています。特に900STのみでEQを決めるのは難しいので、ヘッドフォンでは定位の確認やマスキングが起こっている可能性がある場合の原因を探るのに役立ちます。今回も同じように使ってみましたが、細かい音色のバランスや定位をより追い込むことができ、クリアな音質のため、ミックスで意図せずひずんでしまっている部分も分かりやすく、コンプの調整もやりやすかったです。リファレンスCDでのチェックでも感じましたが、ひずんでいる部分もクリアに聴こえるため、レベルを突っ込んだ音源はひずみが気になるかもしれません。モニターとしては優秀ですが、ロック中心のリスニングに使いたいという用途には不向きでしょう。ひずみ感がかっこ良く聴こえてくるタイプではありません。
マイク・スタンド設置用パーツを用意
自身でBLT駆動モディファイが可能
900ST自体は、すべての音色が張り出してくる元気のいい鳴りの良さがあり、アタックや音の長さが分かりやすいため演奏時のモニターとして定番化しました。しかし、ある程度キュー・ボックス/アンプでドライブする必要があったため、音量も上がりがちであったと思います。本機と900STのBTL接続を演奏モニター環境に使用した場合、解像度が高いため自分の音ばかりでなく周りの音も良く聴こえて非常に演奏しやすいのではないでしょうか。ですので、音量も今までより下がると思います。問題は単独送りやクリックのモニターですが、本機はキュー・ボックスのヘッドフォン・アウトに接続して使う使用例も推奨されており、マイク・スタンドに固定できるオプション・パーツも用意されています。今回は残念ながら試すことができなかったのですが、ぜひ本番のレコーディングで使ってみたいと思いました。また、既に900STを持っている人のために、BTL用に改造できるケーブルなども販売しているとのこと。改造の仕方もUMBRELLA COMPANYのWebサイトに詳しく説明されているので腕に自信のある方は試してみてはいかがでしょうか。
