「MANGER Zerobox 109IIE LE」製品レビュー:独自のスピーカー・ユニットMSWが搭載されたパッシブ・モニター

MANGERZerobox 109IIE LE
ADAMやMUSIKELECTRONIC GEITHAINといったドイツのスピーカーのスタジオ・シーンでの台頭は目覚ましく、今やスタジオ・モニターの標準となってきたと思う。筆者も自身のamp'box Recording studioではADAMを使用しており、その技術は高く評価している。今回のMANGERもドイツ・メーカーであり、レビューするZerobox 109IIE LEはペアで約100万円という、高価な物なのでそのサウンドが大変興味深い。ハイレゾ音源でじっくりとチェックしていこう。

MANGER MSWを搭載し
360Hzのクロスオーバー・ポイントを実現


まずは、本機の技術的な解説からしていこう。本機は発明家のジョセフ W. マンガー氏によって創設されたMANGERのニアフィールド・パッシブ・スピーカーである。サイズは260(W)×490(H)×360(D)mm、重量17.3kgと今時のニアフィールドとしては標準的なサイズだ。今回試聴したのはGlossy Red Blackという塗装の美しいモデルで、スタジオ・モニターというよりはハイエンド・オーディオのような外装で高級感があふれている。本機の最大の特徴は“MANGER MSWトランデューサー”というManger氏の発明したスピーカー・ユニットをメインに搭載していることだ。“MANGER MSW”は単一ユニットで、80Hzから40kHzという極めて広い周波数の再性能力を持つ。そして本機は、MSWユニットの利点を最大限に生かし、他社のユニットでは成し得ない360Hzのクロスオーバー・ポイントを実現。理想的な点音源モニタリング環境を創出している。マンガー氏によると、人の耳は音の定位は1ms以内で認知され、その後10msまでで音源のサイズ、そして10ms以降で音のピッチが判別されるそうで、上記の理由から音の再生には、乱れの無い、正確な初期応答を再現することが重要な要素だとのこと。MANGER MSWユニットは13μs(マイクロ秒)と極めて早い音の立ち上がりを実現しているので、正確な音の再現が可能になっているということだ。カタログによれば、周波数特性40Hz〜40kHz、インピーダンス4Ω、パワー・ハンドリング50〜200W、センシティビティ88dB 1W/1mということである。本機はパッシブ・スピーカーなので、チェック用の再生アンプには、筆者がいつもモニター・スピーカーに使っているSTUDER A68を用いた。 

奇麗に伸びた高域
音楽的で気持ちの良いバランス


は、実際に音を聴いていこう。本機の試聴音源にはe-onkyo musicより高音質配信されている、筆者のamp'boxレーベルのJOSEI ACOUSTIC PIANO TRIO『BLU IN GREEN』とNobie『"Especial" Live @ praça 11 Special Edition』を使用した。まずは前者のピアノ・トリオ演奏から試聴。第一印象は濁りが無く奇麗に伸びた高域だ。ハイレゾ音源の奇麗に伸びたピアノやシンバルの音が心地良い。奥行き感やダイナミック・レンジの広さも余すところ無く再現している。一聴するとモニター・スピーカーというよりも高級オーディオを聴いているような、音楽的で気持ち良いバランスだ。定位も派手な分離は無くナチュラルに、そして音楽的に聴こえる。低域は決して多くはないが、今時のスピーカーのように、低域が不自然に作られた感じは無く気持ち良く聴ける。そして何より自然なのが良い。本機はまだ届いたばかりなので、エイジングが進めばもう少し低域も出て来ると思う。ひずみは少なく音の立ち上がりが速くとてもクリアな印象だ。次にボーカルとアコギがメインのNobieを聴くと、アコギの弦と指が擦れる音や、ボーカルの息づかいまでもがリアルに聴こえる。リップ・ノイズも分かりやすいのでボーカル編集時のノイズ除去もすごく楽にできると思う。また、ロック系のCDを試聴するとオーバー・コンプな感じがとても分かりやすい。この解像度はさすがである。どちらかというとクラシックやジャズといったアコースティックな録音やミックスに向いていると思うが、もちろんロックでも良いミックスが可能だと思う。また、この解像度はマスタリングにもお勧めだ。ただ、本機は最低再生周波数が40Hzなので、マスタリングやミックスに使用する場合は、ラージ・モニターなどで低域のグラウンド・ノイズやマイクが拾った振動の確認は必要かもしれない。
 
▲リア・パネルにはバイワイアリング対応の入力端子を装備。その下はジョセフ W. マンガー氏の直筆署名 ▲リア・パネルにはバイワイアリング対応の入力端子を装備。その下はジョセフ W. マンガー氏の直筆署名
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年1月号より)
MANGER
Zerobox 109IIE LE
1,050,000円(ペア)
▪構成:190mmベンディング・ダイアフラム+200 mmウーファー ▪周波数特性:40Hz〜40kHz ▪最大出力レベル:88dB ▪インピーダンス:4Ω ▪クロスオーバー:360Hz ▪外形寸法:260(W)×490(H)×360(D)mm ▪重量:17.3kg(1本)