「ZYNAPTIQ Unfilter」製品レビュー:過剰な処理などによる音質変化をリニア特性へ補正するプラグイン

ZYNAPTIQUnfilter
昨年3月号でレビューしたZYNAPTIQのリバーブ除去プラグイン、Unveilは素晴らしかったです。今回試すのは同社のUnfilter(Audio Units/VST/RTAS/AAX/AudioSuite対応)。リアルタイムで不自然な音を解析して、自然な音にする効果があるそうです。その名の通り、”フィルター効果を除去する”のが主目的で、例えばノイズ除去処理や過剰なEQなどで音質が変わってしまったファイル、あるいは反射の影響で音色そのものが変わってしまった録音などを、本来あるべきリニアな特性へと補正するのに適しています。ただ、そうした補正にとどまらない機能もたくさん備えているようです。使用しながらどういうものなのか確めていきたいと思います。

リアルタイム周波数特性表示で
原音と処理済みの音の比較が容易


インストール後、STEINBERG Nuendo上でVSTプラグインとして立ち上げると、32ビット/48kHzのステレオ・ファイルに対してCPU(INTEL Core i3/2.93GHz)のパフォーマンスが60%ほどと負荷は高めです。インターフェースは中央に大きくグラフィック部があり、再生した音源の周波数とダイナミクスがリアルタイムで表示されます。入力=原音が紫、出力=プロセス済みの音が緑、この画面だと分かりづらいのですが重複している部分が青。プロセスされてる周波数とダイナミクス、変わっていない周波数とダイナミクスがリアルタイムで確認できるのは便利です。そして赤で推定されるフィルターの特性が表示されるようになっています。画面下部にはUnfilterのメインとなるPROCESS部があり、左からフィルター除去の量を調整するINTENSITY。続いて適用される周波数特性のアルゴリズム動作を調整するfResolution。これは低い値にすると倍音成分が原音より増えていくので、前に出てくるピークは少なく、アタックが減り、音に埋もれていきます。上げていくと倍音成分が減っていくので、アタックやピークが前に出てきてすっきりしたイメージになります。次が若干広い狭帯域のブースト /カットをもたらすfSMOOTHING。こちらは最小にしていくと音源のリリース成分が減っていき、上げていくと音源のリリース成分がどんどん増えていきました。±6dBの7バンド・グラフィックEQを挟んでWEIGHTNINGでは、フィルター除去を強めにかけたときに自然な処理になるよう調整できます。最小にしていくと100Hzを中心に広めのカーブで低域が減り、最大にしていくと低域が増えていきます。キックにサイン波を足した音源で試してみると、音の変化は自然で、前に出したい音/引っ込めたい音など感覚的に扱える感じです。 

ブレイク・ポイント・エディターで
積極的な音作りにも使用可能


Unfilterは、周波数帯域をグラフィカルに操って音質補正できるブレイク・ポイント・エディターも搭載しています。これはINTENSITYの強さに対して加算/減算するINTENSITY BIAS(青線で表示)と、フリー・ハンドEQ(黄線で表示)とで切り替えが可能です。このエディターで面白いのは、カーブを5種類で変えられること。まずLINEARはブースト/カットのポイントが直線のカーブになっているので、ブーストすると音が平面的に前に出てきます。この音の変化はADT AUDIO Niveau Filterととても似ています。Niveau Filterの場合、1kHzを基準に高域をブーストするとシーソーのようにその分低域がカットされます。楽器のバランスは変わらず、明るいイメージになったり暗いイメージになったりといった変化にはとても向いています。UnfilterではNiveau Filterよりも基点になるポイントをたくさん作れるので、ジェントルなマスタリングに向いた使い方もできます。LINEARからEASE I/Oに変えると、なじみのベル/シェルビングに。EQのバンドが密集している部分のカーブは急に、間隔の空いてる部分はなだらかなカーブに、LINEARより音楽的な変化になります。続いてPEAK/DIPは急峻な特性を持ったノッチ・フィルター的なもの。音の変化もあまりフィルター的な感じはせず自然にブースト&カットできました。さらにSTEP EDGEは各バンドのブースト/カットが直線かつ直角に変わるので、フィルターのカーブは階段状の変化に。音もギザギザしたフィルターっぽい音です。STEP MIDも同様に直線&直角ですが、こちらはポイントがバンドの中央に来るのでブースト/カットのポイントがSTEP EDGEと異なります。そのほかのセクションも見ていきましょう。グラフィック・ディスプレイの左下にはLEARNINGの設定があり、ここで音源の周波数特性などを記憶できます。計測した周波数特性をインパルス・レスポンス(IR)ファイルとして保存、読み込みが可能。マッチングEQのようにリファレンス音源の特性を保存し、自分の曲にその特性を適応させるといった使い方もできます。こうして処理したときも、音の感じはとても自然に聴こえました。最後に、PROCESSの右隣にはOUTPUTの設定があり、0〜200Hzまでのハイパス・フィルター、リミッター、ゲインなどがあります。このフィルターやリミッター、ゲインに至るまで、音のクオリティはさすがです。
 こもってしまった音や本来の音質からかけ離れてしまった音の補正はもちろんですが、積極的な音作りにも使えるクオリティを持ったプラグインだと感じました。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年1月号より)
ZYNAPTIQ
Unfilter
オープン・プライス (市場予想価格:39,800円前後)
▪Mac:Mac OSX 10.6以降、2コア以上のINTEL CPU、Audio Units/VST 2.4/RTAS/AAX/AudioSuite対応DAWソフト ▪Windows:Windows XP SP3以降/Vista/7、2コア以上のCPU、VST 2.4/RTAS/AAX/Audio Suite対応DAWソフト