
モジュラー式で任意の構成を選択
視認性の良いOLEDやマルチカラーLED
S6には、M40とM10という2種類のモデルがありますが、まずはS6を構成するモジュールを個別に見ていくことにしましょう。●フェーダー・モジュール8本のムービング・フェーダー、ソロ/ミュートなど基本的なチャンネル・コントロールのボタン、文字情報を表示するチャンネル・ウィンドウ、最下部にShift、Ctrl、Option、Command/Altなどの特殊キー・ボタンが用意されています。●ノブ・モジュールプラグインなどのパラメーターをコントロールする、マルチカラーLEDを搭載したノブを8ch×4個搭載。パラメーター名や値を表示する有機EL(OLED)ディスプレイを用意しています。●プロセス・モジュールこちらも各チャンネルごとに1つずつ、計8個のノブとOLEDディスプレイを装備。インプット、インサート、ダイナミクス、EQ、センド、パンといったチャンネル・ストリップ上の基本項目にアクセスできるボタンに加え、ユーザー・カスタマイズ可能なボタンも用意されています。●ディスプレイ・モジュール高解像度TFTディスプレイ。オーディオ・メーター、シグナル・ルーティングに加えて、現状ではPro Tools HDのみの対応ですが、上から下にスクロールする波形&MIDIピアノロールなども表示できます。以上が各チャンネル(8ch単位)のモジュールです。このほかセンター・セクションには角度可変式の12.1インチ縦型マルチタッチ・スクリーンが鎮座しています。タブレットPCのように複数のポイントを同時に指で触って操作可能。両サイドにマルチカラー・ノブが4つずつ、計8個並び、こちらからもスクリーンでアクセスした項目をコントロールできます。センター・セクションにはオートメーション・モジュールも用意。ジョグ・ダイアルの上部にOLEDディスプレイが用意され、その周辺のボタンにDAWソフトのファンクション、ショートカットなどが並びます。加えてロケートに欠かせないテン・キーやメモリー・ロケーション設定ボタン、Enter、Deleteなどコンピューターのキーボード上にある使用頻度の高いボタンも用意。ジョグ・ダイアルはその周辺の垂直&水平ズーム、トリムなどのファンクション・ボタンと組み合わせて使用することも考慮されています。M10とM40、2つのラインナップの大きな違いは搭載できるモジュール数です。M10は各チャンネルにフェーダー、プロセス、ノブ・モジュールを1つずつ装備し(つまりチャンネルごとにノブ×5)、8/16/24chという構成。ディスプレイ・モジュールには対応しません。M40はそれよりも構成が自由に選択でき(具体的な構成については検討中とのこと)、ディスプレイ・モジュールの有無も決められます。いずれのラインナップもマルチタッチ・ディスプレイやオートメーション・モジュールのあるセンター・セクションは共通です。
EQカーブも画面タッチで操作可能
トラック選択やグルーピングも容易
実機を前にひと通り説明を受けて印象に残ったポイントは……①モジュール式でブロックごとに組み合わせができる②本体からのビジュアル・フィードバック(セッションに関する視覚情報)がとても多い③センター・セクションにマルチポイント・タッチ・スクリーンを採用している……という3点でした。ポスプロ・スタジオなどで16フェーダーのIcon D-Commandを使用することがありますが、音楽しか扱わない私から見ると、一度も触らないボタンや長期間使用することの無い機能があったのは事実で、プロジェクトによってはもう少し小規模で取り回しの良い製品があってもいいように思っていました。S6のモジュール・システムはイーサーネットによって連携され組み替えも簡単なので、大規模なシステムだけでなく必要な機能のみを厳選したミニマムなシステムを構築することもできるでしょう。チャンネル・セクションで特に印象に残るのは派手なマルチカラーのノブです。このノブのカラーはダイナミクスが緑、EQがピンク、センドが黄色などと色分けされます。色のカスタマイズはできませんが、十分に輝度のあるLEDがビビッドな配色に色分けされる様子はとても奇麗で、配色を覚えてしまえば瞬時にS6上の機能の振り分けを把握できるようになると思います。ノブへの各機能(ダイナミクス、EQ、センドなど)の振り分けも、Iconでの8ch単位から各チャンネルごとになり、大きなアップデートと言えます。各モジュールに配置されているOLEDディスプレイの表示も高精細で、各ノブごとに英数6文字表示だったIconと比べてもより多くの情報が表示されていました。ノブの数値を表示するモードでも、実際のノブの動きと遅延無く連動するので、アナログ卓の感覚に近いです。またムービング・フェーダー、各ノブなどハードウェアとしての質感はIconのそれを継承しており、長年にわたる確かな製品作りが生きていると思います。センター・セクションで目を引くのはやはりニョキッと立ち上がったAPPLE iPad……いやiPadではありません(笑)。この画面にはチャンネルごとのプラグイン設定、EQカーブ、ダイナミクス、複数チャンネルのレベル・メーターなど、クリップ波形やオートメーション編集以外の考え得るほとんどの項目を表示できます。マルチタッチに対応しているためEQカーブも指2本で操作可能(画面①)。


S6上に表示される情報が多く
DAW画面に頼らず操作が可能
またオートメーション・モジュールのディスプレイ&その横のボタンにはDAWのトランスポート、オートメーションに関するあらゆるショートカット・ファンクションが並べられており、第1階層でアクセスできるようになっています。初回出荷時は1ページのみの固定設定ですが、ファームウェア・アップデートにより複数ページ切り替えでアクセスできる機能が増える予定だそうです。気になるサード・パーティ・プラグインへの対応は本システムそのものがEUCON 3.0をベースに駆動しているため、互換性もEUCONの対応範囲に依存します。これはArtist Mixなどと同じですね。試しに開いたサード・パーティ・プラグインはそんな心配をよそに、センター・ディスプレイでさくさくコントロール可能となっていました。またEUCON対応なので、Pro Tools HDに限らず、EUCONに対応する他のDAW(APPLE LogicやSTEINBERG Cubaseなど)もS6でコントロールできます。ただし、ディスプレイ・モジュールでの波形&MIDIピアノロール表示は現時点でPro Tools HDしか対応していないそうです。多くの機能をかなり駆け足で見ましたが、ビジュアル・フィードバックの正統進化によって、あらゆる編集機能やチャンネルへのアクセシビリティが大幅に向上しているように感じました。このアドバンテージはトラック数が150を超えることも多い昨今の巨大セッションにおいて、オペレーターが求めるトラックやグループ、パートへ到達時間を大幅に短縮させます。その意味でポストプロダクションだけでなく、ミュージック・プロダクションにおいてもオーディオを素早く処理し、アーティストやプロデューサーの要望を反映していくミキシングにとても役立つでしょう。S6だけで多くの編集/操作を行えるため、DAWの画面を見なければならない回数も大幅に減ります。この点でIconと比較しても大きく前進したと思います。音に集中しながら、また映像を見ながら、直接触ってミキシングする……現代のテクノロジーをうまく利用して、コントロール・サーフェスに課せられた一番大切なファクターのアップデートが的確になされているように感じました。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年1月号より)