「SONY Spectralayers Pro 2」製品レビュー:音声を三次元表示により可視化し加工できるオーディオ編集ソフト

SONYSpectralayers Pro 2
ユニークなスタンドアローンのオーディオ編集ソフト、SONY Spectralayers Proがバージョン・アップした。これまでの波形編集ソフトとは全く異なる操作性と機能を備えたソフトだけに、筆者も興味深々。早速チェックしよう。

周波数と音声を縦/横軸で表示
レイヤーに要素を抽出し編集する


一般のオーディオ編集ソフトが、音を波形で表示して、それを元に編集操作を行うのと異なり、Spectralayers Pro 2では、スペクトログラム形式で音を表示する。横軸が時間なのは波形での表示と同じだが、縦軸が音量ではなく周波数になっているのが特徴。テレビ番組などで見かける、声紋分析するときに使われているアレだ。音量はどう表示するかというと、通常は明るさ(色の濃さ)で示すのだが、Spectralayers Pro 2では、三次元形式に切り替えて、高さ(立体感)で表すことも可能。高さを左右斜め、どの方向にするかも簡単に変更できる。表示はとても美しく、音を聴きながら眺めているだけでも楽しめる。特に、周波数要素の時間変化が一目で分かるので、EQポイントなどは簡単に把握できるだろう。もちろん見ているだけでなく編集も可能で、その方法がまたユニークだ。任意の部分を矩形ツールで選択してコピー&ペーストできるのだが、ペースト先が別のレイヤーになるのだ。レイヤーは、画像編集ソフトなどではよく使われている概念で、透明のシートのようなもの。現在の表示の上に、幾つでもレイヤーを重ねることができ、そこへペーストしていく。レイヤーそれぞれに音量の調節と位相の反転が可能なので、元のオーディオと打ち消しあったり強調されたりすることになる。これによって、任意の区間、特定の周波数範囲を増減できるというわけだ。 

高機能なツールで
オーディオからさまざまな要素を抽出


矩形ツール以外にも編集ツール(画面①)が用意されていて、ドラッグすることでさまざまな要素をレイヤーに抽出できる。Spectralayers2_1312▲画面① 画面左側に表示されている編集ツールのアイコン。ここで、効果を加えたい(無くしたい)を機能を選択して加工する。画面はExtractのツールで、Area/Frequency/Harmonics/Noise/Shapeのアイコンが並ぶ。そのほかにModify、Drawのツールが下に続く Frequencyツールでドラッグすれば、ある周波数をピンポイントで抽出できる。ハム・ノイズの消去などは、これで簡単に行えるわけだ。さらに強力なのがHarmonicsツールで、ドラッグすると、そのピッチだけでなく倍音も抽出してくれる。実際に使ってみたのだが、オケのかぶってしまったライブ録音のボーカル・チャンネルから歌だけを抽出するといった操作が簡単に行えた。若干、子音成分などを取り逃がすのだが、それもピンポイントでドラッグした音のみを抽出するAreaツールを使って追い込んでいくことができる。打楽器やコード・パートのように、倍音構成が複雑なサウンドの場合には、Shapeツールが使える。これは、画像ソフトで画面上の輪郭を基に特定の部分を選択するような動作をするツールで、ある音とそれに関連する成分を抜き出してくる。ブレイクビーツを、キック/スネア/ハイハットに分けるといった操作が簡単に行えた。なお、ノイズの除去には、専用のNoiseツールも用意されている。例えばルーム・ノイズなどの場合、音楽が演奏されていない部分でそのパターンを登録し、それをドラッグした部分に適用することで抜いていくことができる。プラグインなどでも同様のものがあるのだが、画像を見ながら効き具合を細かく調節できるのがいいところだ。さらに、今バージョンから搭載されたCast/Mold機能を使えば、あるレイヤーの周波数成分を別のレイヤーに適用できる。この場合、時間変化もそのまま適用されるので、ボコーダーのような独特の変調になる。ノイズやサイン波のオシレーターも装備しているので、それをレイヤーに描いて、ドラムやボーカルで変調してやると、とても面白いトラックが作成可能だ。Spectralayers Pro 2は、同社の波形編集ソフト、SoundForge11と連携して、波形とスペクトル両方からのアプローチによる編集環境を実現する。そのほかにもほぼすべてのDAWとの連携も可能で、例えばAVID Pro ToolsならAudioSuiteプラグインとして、APPLE Logic Proなら外部波形エディターとして登録できる。さらに、Spectralayers Pro 2上でVSTプラグインを併用することも可能。抽出したレイヤーにさまざまなエフェクトがかけられる。 ツールとレイヤーを駆使して波形編集するのは、まさに画像編集ソフトを扱っているような感覚だ。従来のオーディオ編集ソフトとは異なるエディット結果が得られるだけでなく、発想そのものも変化するので、使っているうちにさまざまな操作を思いつく。単に音を整えるだけでなく、積極的に変形するのもとても面白く、ついつい夢中になってしまった。実用的なツールとしても、自由な音響エディターとしても強力なソフト、試用版もあるのでぜひ一度手にとってみてほしい。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年12月号より)
SONY
Spectralayers Pro 2
39,000円
▪Mac:Mac OS X10.7/10.8、INTEL製デュアル・コアCPU以上、Core Audio対応 ▪Windows:Windows Vista/7/8(すべて32/64ビット)、デュアル・コアCPU以上 ▪共通項目:2GB以上のRAM、2GB以上のハード・ディスク空き容量、OpenGL 2.1準拠グラフィック・ボード、1,280×720解像度のディスプレイ・モニター、インターネット接続環境