「SLATE DIGITAL Virtual Buss Compressors」レビュー:3種類の音質キャラクターを自在に使い分けられるプラグイン・コンプ

SLATE DIGITALVirtual Buss Compressors
SLATE DIGITALと言えばマスタリング用プラグイン・コンプ/リミッターのFG-Xが人気を博しました。FG-Xに関しては自分も一時期かなりミックスで使用していましたし、音の印象もとても良かったので、このVirtual Buss Compressors(以下VBC)は、“デモするまでもない”くらいの勢いで購入しました。現状、購入当日から使わない日が無いほどです。

乱暴な設定にしても音が破たんしない
アナログ機材的な操作感


プラグインのUIに記載されている通り、アルゴリズムの設計はFG-X同様ファブリース・ガブリエル氏なのですが、その音質キャラクターは正反対。FG-Xはナチュラルにゲインを上げるのが得意ですが、このVBCはサウンドにかなり色付けします。その理由として、VBC最大の特徴である“非線形の変化”モデリングの採用が挙げられます。アナログ機材はあるレベルで急に倍音成分が多くなったり、ある設定以下で独特なアタックのつぶれ方になったりと、位相ひずみや倍音/タイミングをグラフ化すると、非線形の変化を表す結果になります。これこそがアナログ機材ならではの面白さですし、さまざまな定番機材の設定において、エンジニアのノウハウとして受け継がれたテクニックであったりもします。初めてVBCを試した際、この基本設計を知らなかったため、音色変化の大きさにビックリしました。プラグインなのに乱暴な設定にしても“音”として破たんすることがなく、どちらかと言うと面白いニュアンスになるのがいかにもアナログ的で、とにかく触っていて楽しいです。さらに驚いたのは、何もしなくても音が変わること。アナログ機材のテクニックとして“通すだけ”という使い方は珍しくないですが、通すだけでここまで音が変わるプラグインは経験がありません。 

FG-MUは通すだけで
高域にいい感じの倍音が加わる


ではVBCの詳細を見ていきます。対応フォーマットはRTAS/VST/Audio Units/AAX(32ビットのみ)で、3種類のコンプを直列につなげられる“VBC Rack”が基本になっています。3種類の内訳はFG-GREY(SSL SL4000をシミュレート。以下同)、FG-RED(FOCUSRITE Redシリーズ)、FG-MU(FAIRCHILD 670/MANLEY Stereo Variable Mu Limiter Compressor)。これらの順番はドラッグして入れ替えることもできますし、それぞれのコンプにはDry/Wetのツマミが用意されているので、パラレル・コンプレッションも手軽に実現します。また、各コンプは単独のプラグインとしても使用可能。マスター以外のチャンネルで使用する場合、効率的にCPUの負荷を抑えられる実戦的な仕様と言えます。またコンプの大敵と言えば、“つぶした際の低域の量感の消失”ですが、各プラグインはハイパス・フィルターを装備しているので、低域だけをコンプレッションから逃すことができます。FG-GREYはオリジナルSSLを忠実に再現するのではなく、実機における低域の問題を改善しています。具体的にはディスクリートのトランスをバーチャルな回路に対して追加し、ハードにコンプレッションした際の中域〜低域のつぶれ過ぎを抑えることに成功しています。SSLのバス・コンプは派手につぶすと低音がペラペラになるのですが、FG-GREYは低域がしっかり残るので、非常に使い勝手が良いです。個人的に最も気に入ったのは、FG-MUのサウンドでした。サチュレーションによる音色変化を期待していたのですが、完全に予想を超えていました。コンプレッションしない設定でこのFG-MUをON/OFFしてもらうと分かると思いますが、通しただけで真空管による倍音成分が良い感じのチリチリした高域として付加され、カッコいい音になります。一方、ラインナップにFOCUSRITE Redシリーズが入っていたのは意外だったのですが、Webサイトに「クリス・ロード=アルジのスタジオでFOCUSRITEのバス・コンプの設定を見せてもらい、それを試したら相当バッチリ!」とかなり機材好きをこじらせたエピソードが掲載されていて好感が持てました。ちなみにそのセッティングは、レシオが1.5:1、アタックは10〜11時、リリースはオートの状態でゲイン・リダクションを2〜3dBに調整するとのこと。試しに記述通りにセッティングして試聴してみたところ、確かにちょっとほかにない良い感じのコンプ感。音に独特のうねりが出てグルーブが増します。若干効果が強い気もしましたが、FG-GREYを前段に配置するとちょうどいい案配でした。またF
G-REDに関しては、メーカーが推している“DRIVE”というパラメーターがあるのですが、これが確かに地味ながら良い味が出る機能で、マスタリング・エンジニアがこれを目的にFOCUSRITEを使うのもうなずける感じでした。 VBCはコンプではありますが、SOUNDTOYS DecapitatorやWAVES NLSのようなアナログ回路による音の変化を狙った目的の使い方でもバッチリいけます。モデリングの精度は音楽的で素晴らしく、ほかのコンプレッサーもいろいろとプラグイン化してほしいと思いました。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年11月号より)
SLATE DIGITAL
Virtual Buss Compressors
オープン・プライス (市場予想価格: 24,990円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6以上、INTEL Core Duo 以上のプロセッサー、4GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7以上、INTEL Core Duo 以上もしくはAMD製プロセッサー、4GB以上のRAM ▪共通:iLok2 ※旧iLokでは動作しません ▪重量:3kg