音量の大小で音像が変わりづらい
ポップス/ダンス向きの3ウェイ
3ウェイという響きだけでなんとなく音が良い気がします。確かにユニットが増えると周波数レンジが広がるなどのメリットがありますが、ダイナミック・レンジが狭くなり、立体感が損なわれ、ヌメっとした印象が強くなるという傾向が一般的にあります。2030はツィーター&スコーカー(ミッドレンジ)用、ウーファー用と、2つのアンプを設けることでこの問題を見事にクリアしています。実際にビートの際立ち、スピード感はなかなかのもので、爆音で鳴らしても、小型スピーカーほどの出力で鳴らしても、その音像イメージの変化は少なく、低域のパワーが損なわれることもありません。“3ウェイは激しく大小を繰り返すリズムの効いた音楽に向かない”“ポップス、特にダンス・ミュージックには不向き”というのは、ひと昔前の常識となりそうです。
また、2ウェイであってもユニット間の位相差調整は難しいのですが、3ウェイとなるとさらに難しいところです。2030は左右対称にユニットが配置されていて、まるで小型2ウェイ・モニターの脇にウーファーを取り付けたような、特徴的なレイアウトになっています。しかし、その描き出す空間は至って“普通”です。この複雑なユニット配置でありながら、本棚にキッチリ並べたように、音があるべき帯域に収まっています。
スイート・スポット以外での音質変化も
積極的に使いたくなる
位相・定位がよいためか、スイート・スポットは見つけやすいですのですが、同時にこのスポットからわずかに外れただけでも音像が変化します。筆者がミックスする際には常にスイート・スポットで聴いているのではなく、上下・左右・前後とスポットを外れることで起こる位相差を利用し、聴こえにくい帯域や奥行きなどをチェックすることがあります。スイート・スポットが分かりやすく、それでいてリスニング・ポジションによる音像変化がつかみやすい2030は、使いこなせばきっと強力なパートナーとなるでしょう。
説明書通りに、ツィーターとスコーカーの中間辺りの高さに耳を持っていくと、中域がフッと膨らんで聴こえるポイントがあります。スネアやキックが太く聴こえ、ビートの効いたサウンドが感じられます。ツィーター軸上まで耳を上げると中域が少ないすっきりしたイメージに。逆にスコーカーの中心より下がると、それまでは“ドン”の周りを“ボワッ”と包み込むように感じられた軽い印象のキックが、一体感のある“ごつい”キックに変身するのです。“ゆがむ”でも“ひずむ”でもなくそれぞれに味わいがあり、まるで3種のモニター・スピーカーを切り替えているかのような感覚はなんとも不思議でした。もちろん±3dBの補正用EQでコントロールすれば、推奨スポットでの“スッキリ”も“ごつい”も自在です。
2030は普段使っている2ウェイ・モデルよりもサウンドは控えめに感じますが、整理されつつも自然なキャラクターだと思います。脚色された派手なスピーカーに異を唱えているようにも思えます。とはいえ高域/低域はしっかり存在するので、デッドよりも多少響きのある広い空間で聴けば印象は一変すると思います。
“デカい&高価”が当たり前の3ウェイにしてこのサイズ、ペアでこの価格には脱帽です。ことごとく常識を覆された2030は、一見ならず一聴の価値あり。ぜひともお試しあれ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2013年11月号より)