「SENNHEISER HD25 Aluminium」製品レビュー:映画/放送/テレビ業界の人気ヘッドフォン誕生25周年記念モデル

SENNHEISERHD25 Aluminium
長らく映画、放送業界、ライブ・エンジニア、クラブDJらに愛されてきたHD25。その誕生25周年記念モデル、HD25 Aluminiumが登場した。“Aluminium”ということで、イア・カップがアルミニウム仕様と見るからに豪華になっている。早速チェックしていこう。

しっかりとした装着感で
優れた遮音性を実現


アルミニウム仕様となったことによって重量が222gと60gほど重くなり、装着感は耳をしっとりと包み込むようでありつつ密閉感も増している。試しにスピーカーから爆音で音を出した状態で装着してみると、外部の音は全く気にならないほど遮音してくれた。この遮音性は大音量の中でヘッドフォンを使用するクラブDJやエンジニアにとってはこれ以上ない使用感だろう。回転式イア・カップの動きも非常にスムーズで、片耳でのモニタリングでも装着感は落ちない。では肝心のサウンド面に移ろう。まずいくつか自作曲をモニタリングしてみた。システムは、DAWにSTEINBERG Cubase、オーディオI/OにLYNX STUDIO TECHNOLOGIES Aurora8、モニター・コントローラーはPRESONUS Central Station。筆者は同社のダイナミック・オープン型の名機HD650を長年愛用しているが、両者はサウンドの方向性は当然ながら違うものの、共通しているのは左右の分離がとても明確であることだ。まずHD25 Aluminiumの第一印象は低音が結構強いと感じた。HD650やSONY MDR-CD900STなどに比べると低音が割とブーストされているが、全くわざとらしいものではなく、しっかりと締まった印象だ。EDMやハウス的な打ち込みはより強調され、ビートに躍動感が出るのでむしろ気持ち良い。また、ハイエンドまで高い解像度を誇り、アタックが明確に見えてきて、低音が強いながらも各楽器のラインがしっかりと聴こえてきた。装着感と密閉感が強いので長時間作業するには向いていないかもしれないが、ループやベース・ラインの低音確認に使うのにはかなり有効だろう。さらにMDR-CD900STよりも音漏れが少ないのでボーカルや楽器レコーディングなどの際にも気にせず使えそうだ。良いモニタリングは歌や楽器のテイクに非常に大きな影響を与えるので、特に上記のような打ち込みサウンドを得意とするミュージシャンやエンジニアは重宝するのではないだろうか。 

ライブ・ハウスやクラブで聴いているような
スピード感のある迫力のサウンド


次に筆者がリスニング用に使用しているネットワーク・デジタル・プレーヤーLINN Majik DS-Iを使い、さまざまな曲をモニタリングしてみた。  HD25 Aluminiumのサウンドの奥行きはHD650に比べると全くないと言っていいが、この製品で奥行きを求める人はいないだろう。むしろ張り付くようなサウンドで、HD650とは比べ物にならないくらい非常にスピード感がある。正直クラシックやジャズには向いているとは言えないようで、カール・リヒター指揮によるバッハの「マタイ受難曲」は、弦や木管の柔らかい響きと荘厳なコーラスがやや平面的になり全然受難してない曲になってしまったし、サラ・ヴォーンの「アフター・アワーズ」などは細やかな息遣いやニュアンスが弱まってしまい、作品の表情が薄くなってしまった。しかし派手なサウンドの音楽は得意としていて、打ち込みだけではなく特に1990年代以降のコンプレッションの効いたロック・サウンドは別マスタリングかのように生まれ変わって聴こえた。ややドンシャリ気味のミックスになっているパンクなどの作品を聴くとよりスピード感が増し、まるでライブ・ハウスにいるかのような感覚になる。特に感動したのはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの1stアルバム『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』。この作品は決してつぶれた音の作品ではないし音数も多いとは言えないが、バンドの一体感と躍動感、静と動が視覚的に見えてきて、ついつい音量を上げたくなってしまったほど。ジャズが苦手と書いたが、フェラ・クティの『ゾンビ』などは、アタックがはっきりしたことからサウンドの角が明確になり、ミニマル・テクノを聴いているような気持ち良さがあった。こうやってオーディオ・ヘッドフォンとして使うと、スピーカーから聴くのとはまた違った発見ができる。
 今回HD25 Aluminiumを使って思ったことは非常に“ライブ”的であるということだ。ライブ・ハウスやクラブのスピーカーから聴いているような迫力とスピード感。そしてさまざまな曲をモニタリングすることによって楽曲の新たな可能性を発見でき、“この曲、実はEDMにできるのでは?”などリミックスの幅なども広がるかもしれない。さらにこの高級感あるルックスなわけだから、SENNHEISERはHD25 Aluminiumユーザーに実用性とファッション性の二物を与えてしまうのだ。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年10月号より)
SENNHEISER
HD25 Aluminium
オープン・プライス (市場予想価格:33,000円前後)
▪形式:密閉ダイナミック型 ▪周波数特性:16Hz〜22kHz ▪インピーダンス:70Ω ▪音圧レベル:120dB ▪端子:ステレオ・ミニ(フォーン変換アダプター付属) ▪ケーブル:2mストレート・ケーブル、片出し ▪重量:222g