「STUDIO ELECTRONICS Boomstar 5089/4075/SEM/3003」製品レビュー:往年の名機のフィルターを搭載したテーブルトップ型アナログ・シンセ

STUDIO ELECTRONICSBoomstar 5089/4075/SEM/3003
20年ほど前、本物のMOOG Minimoogを4Uラックに詰め込んだシンセが登場し、多くのプロ・ミュージシャンたちから熱烈歓迎を受けたことがありました。そのMidiminiと名付けられたシンセを生産したのがアメリカ西海岸を拠点に置くSTUDIO ELECTRONICSです。Midiminiはその後生産中止となりますが、そこで培われたDNAはラック型プログラマブル・モノシンセのSE-1やATCシリーズ、モンスター・ポリシンセのOMEGAといった自社開発による個性的シンセに受け継がれ、現在も入手可能です。そんなマニアックな個性派集団であるSTUDIO ELECTRONICSが久しぶりに新製品をリリースしたので早速レビューしていきましょう。

2VCO/1VCF/1VCAという基本構成
豊富なモジュレーション経路を搭載


Boomstarはテーブルトップ型のアナログ・モノシンセです。5089/4075/SEM/3003という名前の4つのモデルが用意されており、それぞれ異なる仕様のフィルターが搭載されている点がユニークです。フィルター以外は基本的に同じ仕様ですので、本稿では最初にオシレーターなど共通する部分を中心にした概要を紹介させてもらい、途中からフィルター個別の話にフォーカスすることにします。

▲Boomstar 4075 ▲Boomstar 4075
▲Boomstar SEM ▲Boomstar SEM
▲Boomstar 3003 ▲Boomstar 3003
Boomstarのパネル面は20cm四方くらいで、大きさ的にはちょうどいい感じ。とてもしっかりした作りなので簡単に壊れることも無いでしょう。大小のツマミやスイッチに混じってCV用のミニ端子が搭載されている辺りにマニアックさが見え隠れします。マニアックと言えば、内部の基板は現在普及している表面実装方式(パソコンでよく見かける米粒のようなパーツを中心に組まれた基板)でなく、昔ながらの基板に穴をあけ、パーツを差し込みハンダするというスルーホール実装方式(ディスクリートとも呼ばれる)を採用しています。本体はアメリカ国内にて一台ずつ手作りで組み上げているそうで、この辺りにも同社のこだわりが感じられますね。Boomstarの基本構成はオーディオ系が2VCO/1VCF/1VCA、モジュレーション系は2EG/1LFOという極めてシンプルなものですが、豊富なモジュレーション経路の存在により、見た目以上に幅広い音作りが可能になっています。VCOの波形はVCO1がサイン、三角、ノコギリ、矩形の4つ、VCO2は三角、ノコギリ、矩形の3つです。ピッチ・レンジはMinimoogのようにロータリー・ノブでカチカチと切り替えるタイプで、どちらもLO(Low Frequency)、すなわちLFOとしての使用が可能になっています。VCO1にはシンクとサブオシレーター・スイッチ、そしてPWMツマミが、VCO2はピッチ調整ツマミと音程固定スイッチ、2つのEGどちらかで変調をかけられるツマミがそれぞれ用意されています(写真①)。
▲写真① 2VCOは、4機種ともMOOG Minimoogをモデルに設計された共通のオシレーターを搭載しており、サブオシレーターとオシレーター・シンクも内蔵している(写真はSEMのトップ・パネル) ▲写真① 2VCOは、4機種ともMOOG Minimoogをモデルに設計された共通のオシレーターを搭載しており、サブオシレーターとオシレーター・シンクも内蔵している(写真はSEMのトップ・パネル)
この辺りはなかなか熟れた設計になっていて、例えばピッチを切って、EGツマミを回すだけで即座にキック音が作れたりとか、ピッチ調整ツマミを回しながらシンク・サウンド時の細かいカラーをコントロールしたり、VCO1の元音に対してVCO2で3度や5度の音を加えたりと、狭いパネル・スペースを最大限利用できていると感じます。また最近はあまり聞かなくなったクロス・モジュレーション・ツマミも搭載しています。クロス・モジュレーションという言葉の解釈はメーカーにより多少違いはあるのですが、Boomstarでは“VCO2でVCO1のピッチを調”と“VCO2でVCO1のPWを変調”の2つを可能にする変調用ツマミで、いわゆるFMの仲間と考えてくれればOKです。ゴォーンというくぐもった響きの鐘や、ギュワワワワーンというピッチが上昇しながら倍音が変化していく、いかにもアナログ・シンセらしいサウンドを次々に生み出すことができます。 

VCAにオーバードライブを内蔵
MIDIシンクに対応したLFO


2つのVCO出力はミキサーでミックスされた後、VCFに入るわけですが、そのミキサーはパネルの右下に配置されています(写真②)。
▲写真② トップ・パネル部右下に配置されたミキサー・セクション。VCO以外に、リング・モジュレーター、ノイズ、フィードバックを備え多彩な音作りが可能。また、右端にはエクスターナル入力端子も備えられ、入力音に対し、フィルターをかけたりすることも可能となっている ▲写真② トップ・パネル部右下に配置されたミキサー・セクション。VCO以外に、リング・モジュレーター、ノイズ、フィードバックを備え多彩な音作りが可能。また、右端にはエクスターナル入力端子も備えられ、入力音に対し、フィルターをかけたりすることも可能となっている
このミキサーにはノイズとリング・モジュレーター(以下リンモジュ)、フィードバックも用意されており、多彩な音作りに役立てることができます。リンモジュはあらかじめ内部でVCO1と2からの信号が結線されているのでツマミを回せばすぐに音が出せます。リンモジュは2つの周波数の掛け算が基本なので、前述したVCOのLOモードから高い帯域まで移動させると面白い結果になります。過激な鐘などの金属系から不思議な不協和音などがリンモジュ音の特徴ですが、クロス・モジュレーションとかぶる部分も多いです。ただ、どちらもそれぞれ個性があるので、適材適所で使い分けるとよろしいかと思われます。VCAにはオーバードライブが搭載されていますが、とても良い質感なので重宝するでしょう。前述したようにVCO2とEGだけで作ったキックにこのオーバードライブをかけた音はかなりの中毒性があると感じました。もちろんキックだけでなくベースからリード、SE系まであらゆる音に使ってみると、いつもと違う新鮮な世界を垣間見ることができます。2つのエンベロープはスタンダードなADSRタイプで、EG1は極性反転とループのトグル・スイッチが、EG2は反転とLFOトリガー・スイッチが用意されています。ループはAD間を繰り返すので特殊なLFO波形のように変調ソースとして使えるもの。LFOトリガーはLFOでENV2をトリガーしてくれ、いずれもちょっとしたフレーズ・シーケンス作成時に使うと面白いです。LFOの波形は9種類で、MIDIシンクにも対応します。
 

4機種それぞれのフィルターで
往年のサウンドを生成可能


さてここから4機種のフィルター関連解説を交えつつ、筆者独断と偏見による購入アドバイスも書いてみようと思います。まずフィルター以外の4機種の違いは、見た目ですぐ分かるのはパネルのカラーですね。共通するパラメーターはカットオフ、レゾナンス、キーボード・フォロー、エンベロープ・アマウント、そしてLFOかVCO2によるモジュレーションです。ブラック・パネルの5089はMOOGタイプでおなじみの−24dB/octのスロープを持ちます。今現在流通する多くのアナログ・シンセでさえ、いまだにこのラダー・フィルター(梯子のようにパーツが組まれていることでそう呼ばれます)を手本とするほどの素晴らしい回路です。BoomstarのVCOはMinimoogのオシレーター・ボードを基本にリファインされたものなので、理論的に5089は一番MOOGらしい音ということになります。実際4機種中、最もバランスの取れた音なので、特に初心者で迷う人には5089がお薦めと言えましょう。グレイ・パネルの4075は、2600やOdysseyなど、ARPが後期に製造したシンセ(ブラック&オレンジのデザインで見分けることが可能)に搭載されていたフィルターをベースにしています。そもそもMOOGフィルターの代用(MOOGはパテントがあった)として開発されたものだけに、特性的にも音的にもかなりMOOGに近いです。しかもある状況下においてはMOOGにはない独特のサウンドを奏でることができたため、今でも伝説の仲間入りをしているというわけです。筆者個人のこじつけ的印象ですが、Boomstarの仕様はOdysseyを手本にしている気がします。実際ほとんどOdysseyで出せるサウンドは再現できるので、既にOdysseyを持っている人、あるいは購入を考えているのだけど高価過ぎて手が出ない、といった人たちは、こちらの4075を試してみたらいいと思います。白パネのSEMは1970年代に活躍したOBERHEIM SEMに搭載されていたフィルターを元に作られてます。このモデルだけローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチの4種類を切り替えるマルチモード仕様なので、パネルにツマミとスイッチがひとつずつ追加されています(写真③)。
▲写真③ トップ・パネル右上に配された端子類。写真はSEMで、ノッチとバンドパスを装備したマルチモード仕様となっている。そのほかの端子は4機種共通となっている ▲写真③ トップ・パネル右上に配された端子類。写真はSEMで、ノッチとバンドパスを装備したマルチモード仕様となっている。そのほかの端子は4機種共通となっている
特性的には−12dB/octなのでいわゆるMOOGサウンドをコピーするには少々厳しいわけですが、逆に言えばMOOGには出せない独特のOBERHEIMサウンドが今も多くのファンたちに支持され続けています。というわけで、既にMOOGは持っているので違うキャラが欲しいとか、アナログ・マルチモード・フィルターを使いたい。さらにこのフィルターで外部音の加工もしたいという人は要検討です。銀パネの3003はROLAND TB-303のフィルター・クローンです。MOOGとOBERHEIMの中間である−18dB/octという特性がキモで、結果的にどちらでもない独自のサウンドを奏でることが可能になっています。ぶっちゃけTB-303だけのサウンドが欲しいなら市場に出回っている既存のもので事足ります。3003を選択したい人はTB-303サウンドはもちろん欲しいけど、さらにシンセとしてさまざまなサウンド・トリップもしたいという方にはジャスト・フィットでしょう。最後に余談。Boomstarは非常に多彩なサウンドを奏でることができることは本文でも書いてきましたが、どこか懐かしい音がするのも面白いと思いました。新品のパーツでMinimoogやOdysseyを作るとこんな音になるんじゃないかな?と妄想が膨らんだりしました。 
▲リア・パネル(4機種共通)には、左から、オーディオ・アウト(フォーン)、OVER FLOWスイッチ、MIDI(OUT/IN)、LE ARNスイッチ電源ジャックを備える ▲リア・パネル(4機種共通)には、左から、オーディオ・アウト(フォーン)、OVER FLOWスイッチ、MIDI(OUT/IN)、LEARNスイッチ電源ジャックを備える
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年10月号より)
STUDIO ELECTRONICS
Boomstar 5089/4075/SEM/3003
オープン・プライス (市場予想価格:120,000円前後/4機種共通)
(VCF以外4機種共通) ▪サウンド・ジェネレーター:アナログ回路 ▪構成:VCO1(サイン/三角/ノコギリ/矩形)、VCO2(三角/ノコギリ/矩形)、VCF(MOOGラダータイプ/5089[−24dB/oct]、ARP 2600タイプ/4075[−24dB/oct]、OBERHEIM SEMタイプ/SEM[−12dB/oct]、ROLAND TBタイプ/3003[−18dB/oct])、VCA×1、EG×2、LFO×1(9波形) ▪ミキサー:VCO1、VCO2、リング・モジュレーター、ノイズ、フィードバック ▪その他:マスター・チューン、ベンド、グライド、ダイナミクス、ENV1→PW1 ▪外形寸法:221(W)×93(H)×179(D)mm ▪重量/約2.2kg