Studio機能をアドオンできるアンプ・シミュレーター・アプリ最新版

IK MULTIMEDIAAmplitube 3.0
プラグインのアンプ・シミュレーターとして定評のあるIK MULTIMEDIA Amplitubeは、早くからAPPLE iPhone/iPadに最適化したアプリ版をリリースし、“モバイル・アンプ・シミュレーター”として絶えず先進的なポジションから新たなビジョンを提示してきました。今回リリースされたAmplitube 3.0はアプリ内で課金される“Studio”をアドオンすることにより、ついにDAW同様の操作性で複数トラックへの録音や編集/ミックスを実現しました。それでは注目のStudio機能を中心に紹介していきましょう。

8trのオーディオ録音が可能
録音したクリップは指先でエディット


まずiPad版で、Amplitube Studioの主な機能や特徴をピックアップします。●8trのオーディオ録音が可能●録音したオーディオ・クリップを指先で編集可能(画面①②

▲画面① Amplitube Studio上のクリップ。下部の三角をドラッグしてトリミング、上部でフェードを調整できる ▲画面① Amplitube Studio上のクリップ。下部の三角をドラッグしてトリミング、上部でフェードを調整できる
▲画面② クリップをタップすることで表示される編集メニュー。ノーマライズも用意されている。“Copy Track”は、ほぼ同じ音色(アンプ・セッティング)で左右に振り分け同じフレーズを弾く“ダブル・トラック”を作る際などに便利 ▲画面② クリップをタップすることで表示される編集メニュー。ノーマライズも用意されている。“Copy Track”は、ほぼ同じ音色(アンプ・セッティング)で左右に振り分け同じフレーズを弾く“ダブル・トラック”を作る際などに便利
●先述したオーディオ・トラックとは別に設けられたドラム専用トラックを装備。新たに用意されたLoop Drummerモジュールから気に入ったパターンを選択し、並べるだけでドラム・トラックの制作が可能●iTunesのミュージック・ライブラリーやWi-Fi経由でコンピューターから直接楽曲やバック・トラック読み込んで再生可能●ユーザーが操作する必要がなく、録音後も全トラックのエフェクト/アンプの設定を変更可能にしつつCPU負荷を軽減するAuto Freeze機能●Audiobusに対応し、さまざまなアプリケーションとの連携を実現●録音したトラックは、WAV/m4aなどの形式でオーディオの書き出しが可能。E-MailやFTP経由でファイル共有できる以上が特筆すべきポイントで、順を追って詳細に説明していこうと思いますが、今回チェックするにあたり、同時発売されたIRig HD(写真①/オープン・プライス:市場予想価格12,480円前後)をインターフェースとして使用しました。
▲写真① IRig HD(左)。Lightning、30ピンDock、USBという3本のケーブルが付属し、iPhoneやiPad、Macで24ビット/48kHzでのギター録音が可能。Amplitube 3.0では、IRig HDユーザー限定でアンロックされるアンプ/エフェクト・モデルも用意されている ▲写真① IRig HD(左)。Lightning、30ピンDock、USBという3本のケーブルが付属し、iPhoneやiPad、Macで24ビット/48kHzでのギター録音が可能。Amplitube 3.0では、IRig HDユーザー限定でアンロックされるアンプ/エフェクト・モデルも用意されている
いや、これは“買い”です。24ビット/48kHzの解像度は、これまでのIRigでは手に入らなかった倍音が得られます。また従来よりレスポンスが速く感じるので、演奏自体が楽しくなるでしょう。ほかにも、アナログ入力端子使用時の最大の問題点であった物理的にアウトプットと近いこと(同一プラグで入出力がまとめられている)によるハウリングも解消されているので、ハイゲイン系のアンプを多用する人には特にお薦めです。入力ゲイン・ノブが付いているので、ギターを替えた際のピックアップの出力差の調整も可能。USBでコンピューター(Macのみ)にも接続でき、35gと軽量で電源不要のUSBバス・パワー駆動と、今後スタンダードの一つになりそうな製品です。 

ドラム・トラックを手軽に構築
Loop Drummer機能


それではAmplitube Studioの各機能をチェックしていきます。実際の作業はクリック(メトロノーム)やリズム、もしくはバック・トラックを用意してギターのダビングを開始することが多いと思いますので、その手順を説明していきましょう。まずメイン画面下にある“RIG(ストンプ&アンプ)”“MIXER”などモードの切り替えボタンの中にある“STUDIO”をタップしてStudio機能にアクセスします。モード切り替えボタンの上列に“PLAY”“RECORD”などトランスポートや操作に関するボタンが並びますが、その中央にあるのがメトロノームのON/OFFボタン。このボタンをホールドするとメトロノーム音がミュートされ、代わりにボタンがテンポに合わせて明滅するモードが用意されるなど、気が利いています。テンポはインターフェース右のテンポ表示ボタンをタップして設定したり、ボタン長押しで小数点以下の細かさで指定することも可能です。Amplitube 3.0からの新機能がLoop Drummerモジュール(画面③)。
▲画面③ Loop Drummerモジュール。画面ではRock→Groove 1→INTROを選択。ドラム・トラックが曲の展開に応じてドラッグするだけで完成するのは本当に便利。アドオンは全バリエーションそろえたくなってしまう ▲画面③ Loop Drummerモジュール。画面ではRock→Groove 1→INTROを選択。ドラム・トラックが曲の展開に応じてドラッグするだけで完成するのは本当に便利。アドオンは全バリエーションそろえたくなってしまう
“INTRO”“MAIN A/B”“FILL”“OUTRO”など曲の展開に応じてコンストラクション・キットとして用意されたパターンを専用トラックに並べるだけで、ドラム・トラックが用意できます。ダブル・タップでパターンがリピートできたり、トラック・レーンの外にドラッグするとデリートされるなど、エディット方法もシンプルにまとめられています。デフォルトでインストールされているのは1バリエーションのみですが、アドオンで“Rock”“Funky”“Pop”“Metal”など8つのジャンルごとに8つずつ、計64種類のバリエーションが用意されています。ほかに便利なのが“CYMBAL”ボタン。選択したパターンの小節頭にシンバルを加えることができ、曲構成にメリハリをつけられます。次に、外部よりオーディオ・ファイルをインポートするためのモードが“SONG”です。iPad本体内のiTunesのライブラリーはもちろん、Wi-Fi接続でWebブラウザーを使い外部からファイルを手軽にインポートできます。“NO VOICE”というボーカル・キャンセル機能も搭載しており、メイン・ボーカルやリード・ギターなどを抜いた練習用のバック・トラックが手軽に作れるのもうれしいポイント。選択したファイルは“TO REC”を実行することで任意のトラックに読み込まれ、録音されたクリップと同様さまざまなエフェクト処理が可能になります。一つ残念なのは、SONGにはピッチはそのままでテンポを半分(−50%)から倍(+200%)まで変化させる機能もあるのですが、この結果はTO RECの対象とならないこと。現時点ではあくまでも耳コピや練習時の補助機能という位置付けですが、将来バージョン・アップでTO RECにもピッチ変更が反映されるようになれば、トラック・メイクのツールとしても使えるようになるのではないでしょうか。 

CPU負荷を抑えるAuto Freeze
iPhone版の機動性の高さも魅力


以上のような方法でバック・トラックが用意できたら、いよいよギターの録音です。iPad版Amplitube Studioのトラック数はオーディオ×8+ドラム・トラック×1の計9トラックで、各トラックには3バンドEQと2系統のAUXが用意されています。小節番号が表示されているレーンを左からなぞると再生用、右からなぞると録音用のループ・ポイントが設定でき、ダブル・タップでON/OFFが可能です。それにしても直接オーディオ・クリップにタッチして編集が行えるのは本当に気持ちいいですね! 状況に応じてグリッドのON/OFFを使い分けるのがコツですが、慣れてくればコンピューターよりも使いやすく感じる人も多いのではないでしょうか。一見地味ながら、実はとても大きな進化と言えるのがAuto Freeze機能です。実はAmplitube Studioはエフェクト処理されたシグナルと、処理前のドライなシグナルの両方を録音しています。実際は複雑な動作をしているのですが、それをユーザーに意識させずに状況に応じて切り替えることにより、iPadのCPU負荷を抑えつつ、全トラックのエフェクト/アンプの設定をいつでも自由に変更可能にしています。Amplitube Studioは、複数のアプリ間でリアルタイムにオーディオ信号の入出力接続を行うプロトコル“Audiobus”に対応しているのも大きなポイントです。どういうことかと言うと、iGrand PianoやSampleTankなどiOS対応の自社製品に限らず、APPLE GarageBandやKORG iKaossilatorなど他社の音源を演奏し、それをAmpli
tube Studioに録音したり、Amplitube Studioを他社のエフェクターにつなぎリアルタイムで処理することが可能になるのです(画面④)。
画面④ Audiobusのセッティング画面。外部の音源(この場合はSampleTank Free)をAmplitube Studioに録音する場合のセッティング。アウトプットはスピーカー・アウトを選択。なおバックグラウンドで起動しているアプリをすべて停止してからAudiobusを起動した方が、筆者の環境では動作が安定した 画面④ Audiobusのセッティング画面。外部の音源(この場合はSampleTank Free)をAmplitube Studioに録音する場合のセッティング。アウトプットはスピーカー・アウトを選択。なおバックグラウンドで起動しているアプリをすべて停止してからAudiobusを起動した方が、筆者の環境では動作が安定した
Audiobusについて説明するには誌幅が足りないので省略させてもらいますが、 現時点で200種類以上のデバイスが対応しています。Amplitube Studioも機能をアプリ内で完結させるのではなく、ほかのデバイスとつながることで、計り知れない可能性を手に入れられるのです。こうしてエフェクターやアンプを調整してバランスを取ったテイクは、“PROJECT LIST”内にある“EXPORT”でオーディオとして書き出せます。ファイル・フォーマットは、“File Sharing”を選択した場合はWAV、“E-Mail”を選べばm4aといった具合に、対象によって最適なものが選択されます。特に便利なのがFile SharingによるiTunesでの共有で、2ミックスだけでなく録音したドライ・シグナルやAuto Freezeによってエフェクト処理したパラのファイルを一括して書き出すことができ、DAWとの連携をスムーズに行えます。また本アプリから直接SoundCloudに音源をアップロードすることも可能です。最後にiPad版とiPhone版の違いですが、iPhone版はトラック数がiPad版の半分となる4trだったり、チャンネルEQが省かれている上、AUXも1系統になるなど、カタログ的に比較するとiPad版に比べて見劣りする感は否めません。ですが、実際に使用してみると操作感を優先させた機能の絞り込み方はなかなか理にかなっており、機能的な差をあまりストレスとは感じませんでした。何より、iPhoneの機動性の高さは強力な武器と言えます。スマートフォンが、ここまで本格的なアンプ・シミュレーター&DAWの機能を備えるのは、画期的なことです! 三連系のアクセントのあるクリックを用意してほしいなど、もちろん細かな要望はあります。しかし率直に言って、すべてのAmplitubeユーザーにとって、Amplitube Studioはマストだと感じました。特にIRig HDとのコンビネーションは、音質とモバイル性の両立という点で格段の進歩。何より、ピックをマウスに持ち替えなくてもDAW的な操作が行えるのは新鮮で快適です!   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年9月号より)
IK MULTIMEDIA
Amplitube 3.0
1,700円(Studio機能のアドオンはiPad版:1,300円、iPhone版:850円が別途必要)
▪iOS:iPhone4以降、iPod Touch(第5世代以降)、iPad Mini、iPad 2以降