「DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet 12」製品レビュー:名匠デイヴ・スミスのProphetシリーズ最新機となる12ポリ・シンセ

DAVE SMITH INSTRUMENTSProphet 12
伝説の名機としていまだ中古市場で高値を呼ぶSEQUENTIAL Prophet-5。その開発者であるデイヴ・スミス氏は2002年にDAVE SMITH INSTRUMENTS(以下DSI)を興し、これまでにEvolverやProphet'08、Mophoシリーズといったシンセをリリースし続けております。Prophet-5が発表されたのは1978年ですから、スミス氏も“イイ歳のお爺さん”となっておられるわけですが、今なお血気盛んにシンセを作り続けるパワーには驚かされるばかりです。そんなスミス氏の新製品は超ド級のモンスター・シンセ、Prophet 12。じっくりレポートさせていただきます。

解像度の高いLEDディスプレイ
ロゴが赤く光る魅惑のバック・ライト


Prophet 12は名前から想像できる通り、12ボイスのポリフォニック・シンセです。箱から取り出してみると、“こんなにコンパクトにまとめたんだ”という印象。両サイドの素材にはDSI製品でおなじみの、そしてProphet-5からの伝統でもある木が使われていますが、さらに鍵盤下まで木で囲まれているのはProphet-5とProphet-T8以来で、なぜかうれしいです。木の部分と硬質なツマミ群とのバランス感がとても良いです。パネルを眺めてみましょう。まずはProphetシリーズ共通(同じという意味ではない)である黒字にシルバーのアクセントが入ったツマミ(59個!)が壮観。大きさ&回した感触も良好。大きく上下の2段に分かれ、下段は左からオシレーター>フィルター>アンプと信号の流れ通りに、上段はモジュレーション系を中心に配置され、もうパっと見ただけですぐに使えそうです。中央には有機ELディスプレイ。解像度が細かいので非常に見やすく、また後述する波形表示などでも威力を発揮します。左手のピッチ・ベンドとモジュレーション・ホイールはLEDバック・ライトで浮かび上がるような演出がされ、DSIのフラッグシップ・モデルならではの高級感を漂わせます。その上には指の動きと押す強さでコントロールができるアサイナブル・タッチ・センサーが2個装備され、ホイールやツマミとは一味違う操作が楽しめます。パネルには赤いLEDがあちこちに配備され、視認性と操作性を高めるだけでなく、ロゴの“12”という数字までもバック・ライトで浮き出るような効果が施され、スミス氏の並々ならぬ気合いが伝わってくるようです。ロゴのすぐ下には2段×6列のLEDが並び、現在どのボイスが発音しているかを知らせてくれるのですが、これが見ていて飽きません。鍵盤はベロシティ/アフター・タッチにセンシティブな反応をする61鍵セミウェイテッド仕様で、良好なタッチ感です。リアの端子もチェックしましょう。オーディオ関連はステレオ・アウトが2系統(フォーン)とヘッドフォン(フォーン)。またMIDI IN/OUT/THRUに加えてUSB2.0もあり、これでパソコンとMIDIの双方向通信が可能になります。そしてサステイン/フット・スイッチ端子が1個ずつ、エクスプレッション端子が2個用意されています。 

基本の4波形+12の複雑波形を搭載
SHAPE MODで波形モーフィングも可能


それでは仕様の細かいチェックに入りましょう。Prophet 12は減算合成方式のシンセです。オシレーターで波形を生成し、フィルターで倍音を整え、アンプで音量の時間的変化をコントロールするわけですね。この減算合成で多様な音を作ろうと思ったら、まずはオシレーター波形がキモになります。少々極端ですが、仮にどんなにキレの良いフィルターを用意したところで、1種類しか波形が無かったら出せる音色はすぐに尽きてしまいますからね。Prophet 12はどうかと言うと、オシレーターはDSP、つまりデジタル・プロセッシングで波形を作ります。サンプリングと違って演算で波形を生成するので、ワイド・レンジにわたって自然なサウンドが展開できるのが良いところ。と言っても何百もの波形が用意されているわけではありません。波形を紹介しますと、まずはおなじみのノコギリ、矩形、三角、サインという代表的波形が4種類。そして複雑な倍音を持つちょっと変わった波形が12種類、そしてノイズが3種類になります(表①)。
▲表① オシレーターにスタンバイする波形一覧。基本の4波形のほか、複雑な12のオリジナル波形、レッド/バイオレットといった変わり種を含む3種類のノイズを用意 ▲表① オシレーターにスタンバイする波形一覧。基本の4波形のほか、複雑な12のオリジナル波形、レッド/バイオレットといった変わり種を含む3種類のノイズを用意
ちょっと拍子抜けしたかもしれませんが、これらはあくまで素材となる波形であり、実際にはここから複数の波形を重ね合わせたり、変調をかけることでバリエーションが作り出せますから、この程度の数がちょうど良いと思います。肝心の音ですが、基本の4波形に関してはクセの無い非常にナチュラルな質感。デジタルであると言われなければ、多くの人はアナログだと思うかもしれません。さてProphet 12は1ボイスあたり4つものオシレーターを装備します。なので先ほど紹介した波形の中から最大4つまでを組み合わせて使用可能です。なおサイン波固定のサブオシレーターも用意されているので事実上5つと考えても結構ですが、説明がややこしくなるかもしれないので、ここではとりあえずメインの4つを対象に話を続けます。波形のチョイスは1つでも2つでも構いません。ROLAND TB-303的な音なら1つでもいいですし、MOOG Minimoogのような極太ベースを作りたければ3つという具合です。いずれにせよ、ただ重ねるだけではほとんど意味が無く、変調してナンボなのはシンセの基本です。なので、どのような変調ルートが用意されているかがシンセの実力を測るバロメーターとなりますが、この点Prophet 12はすごいです。とりあえずパネルに用意された変調関係のパラメーターを紹介すると、Pitch、Fine、SHAPE MOD/PULSE WIDTH、FM、AM、Sync、Slopなどがあります。後でも触れますが、これらをLFOやエンベロープを併用し、時には2重3重で使うことで練り上げていくわけで、音作りの楽しみでもあります。ではこれらの中から、とりわけ面白いものを解説してみましょう。まずはFM(Frequency Modulation)とAM(Amplitude Modulation)です。FMは周波数でピッチをコントロールします。いわゆるLFOを使ったビブラートが代表例になりますが、シンセの機能説明でFMと呼ぶときはLFOより高速な速度(つまり普通に聴こえる周波数帯域)での変調を指すのが一般的です。“ギュルルルル”といういかにもテクノチックなサウンドから、“ガキーン”というエグい金属系など多彩な音を作ることができるのが特徴です。FMは多くのシンセで採用されていますが、意外と奇麗(あるいは過激とも言う)にかかるモデルは少ないです。しかしProphet 12はお見事で、特に高域での金属音がここまで奇麗なシンセは鍵盤型では思い当たらないほど傑出していると感じました。AMは周波数で波形の振幅をコントロールします。単純に波形で説明すると、FMは左右(すなわちピッチ)に、AMは上下(音量)に動くと言えば理解できるかもしれません(図①)。
▲図① あるオシレーターの振幅をもう1つのオシレーターで変調するというのがFM/AMの基本。FMの場合、変調によってオシレーターが左右に振幅し、詰まって見える部分(赤矢印)は高い音程になる。AMの場合、振幅が大きい(赤い矢印)ほど音量が大きくなる。Prophet-12が使いやすいのは、この2つのオシレーターをボタン1つで瞬時に切り替えながら、即座に任意のパラメーターを設定できるところだ ▲図① あるオシレーターの振幅をもう1つのオシレーターで変調するというのがFM/AMの基本。FMの場合、変調によってオシレーターが左右に振幅し、詰まって見える部分(赤矢印)は高い音程になる。AMの場合、振幅が大きい(赤い矢印)ほど音量が大きくなる。Prophet-12が使いやすいのは、この2つのオシレーターをボタン1つで瞬時に切り替えながら、即座に任意のパラメーターを設定できるところだ
AMはVCAとセットで使われるのが普通ですが、オシレーターにも搭載されているのは一部のモジュラー・シンセ以外では珍しい仕様ですね。効果はいわゆるトレモロ状態が分かりやすい例になります。周波数を速くすると“ブルルルン”と独特の質感が得られるのですが、全体的にFMほどの派手さはありません。モジュラーの世界ではFMと同時にかけたりしますが、パッチ・ケーブルがすぐに煩雑になるので信号を追い掛けるのが大変。ところがProphet 12はこれらを実現するにあたり、4つのオシレーター同士の関係をうまく利用して非常に合理的に音色が追い込めます。例えばオシレーター1を2で、2は3で、3は4で、4は1で変調できるよう、あらかじめ内部でプログラムしてあります。パネルには1オシレーター分のツマミしかありませんので、例えばオシレーター2で1を変調する場合、オシレーター選択ボタンを切り替えながら操作をすることになります。でも、すぐ横にボタンがあるので2つのオシレーターを切り替えながら瞬時に追い込めるところがミソなのです。ちなみに“俺はオシレーター4で2を変調したい”という頑固なお兄さんはモジュレーション・ページでそのようにパッチをすれば同じことが可能です。さて前述したFM/AMの続きですが、例えばオシレーター2でノイズをチョイスし、オシレーター1の矩形波をFM/AMで同時変調する、なんていうモジュラー・シンセもびっくりの技があっけないほど簡単に実現できてしまいます。こんなのが鍵盤型シンセでできたのは筆者の知る限り初めてであり、このオシレーターの段階で言うのは早いのですが、FM/AMだけでProphet-5を超えてしまっていると思いました。もちろん“できる/できない”というレベルではなく“音として使えるかどうか”を基準にしての話です。もう1つ筆者的にイチ押しの機能がSHAPE MOD/PULSE WIDTHです。PULSE WIDTHは昔からおなじみのパルス・ワイズ・モジュレーションの意味で、ほとんどのシンセに付属する機能です。手動あるいはLFOやエンベロープで矩形波の幅を変化させ、独特のサウンドを出したいときに使いますが、Prophet 12がすごいのは、矩形波のみならず、ノコギリ波や三角波にも適用できる点です。これはとても強力な機能で、基本波形が本来持つ可能性を飛躍的に拡張することができます。変化させた波形がどのような形になるかは有機ELディスプレイに表示されるので、音を出しながらツマミを回せば実際に波形の形が変化します(写真①②)。
▲写真① ノコギリ波を呼び出したところ。SHAPE MODは0なので通常の形状だ ▲写真① ノコギリ波を呼び出したところ。SHAPE MODは0なので通常の形状だ
▲写真② SHAPE MOD値を26(左)から50(右)にしていくと波形表示も変わっていく ▲写真② SHAPE MOD値を26(左)から50(右)にしていくと波形表示も変わっていく
見ていて面白いし、概念的にも理解しやすいというわけです。また前述した12種類の複雑波形にも適用することができるのですが、この場合は基本の4波形とは少し違う方法でシェイピングがかけられます。まず12種類のどれかを選択したら、その波形(ここではセンターと呼びます)を中心に、さらにレフトとライトの波形を選択するのです。例えばセンターをA、レフトをB、ライトをCという波形に設定し、LFOで動かすとA>C>A>B>A>C……という具合に変化させることができるわけです(写真③④)。波形Aと波形B、あるいは波形Aと波形Cの中間に関してはDSPが計算してノイズも無くうまくつないでくれます。
▲写真③ 複雑波形は3つの波形間でモーフィングが可能。画面は“Shrill”という波形だ ▲写真③ 複雑波形は3つの波形間でモーフィングが可能。画面は“Shrill”という波形だ
▲写真④ SHAPE MODを左に回し切って“Gothic”(左)、右に回しきって“Church”(右)の波形を表示させたところ。3波形の中間となる形状も選べる ▲写真④ SHAPE MODを左に回し切って“Gothic”(左)、右に回しきって“Church”(右)の波形を表示させたところ。3波形の中間となる形状も選べる
ここまでの説明は、1つのオシレーターでの話です。実際には4つのオシレーターにアサインした波形をそれぞれ動かすなり、各オシレーター同士をミックスしたりすれば事実上無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。FM/AMのソース波形にこの12種類のどれかが常時変容するように設定する、なんて想像するだけでも面白そうです。ちなみに、この“4つのオシレーターをつないだり、出し入れしてミックスしたりする”というアイディアの源泉は、スミス氏が1980年代のSEQUENTIAL在籍時にリリースしたProphet VSじゃないかと思ったりするのですが、どうでしょうね? 12種類の複雑波形もどこかProphet VSを想起させるようなものが多い気がします。余談はさておき、4つの基本波形と12種類の複雑波形に加え、3種類のノイズもSHAPE MODに適用できます。ただし、移動できる波形はノイズ同士だけです。こうしてオシレーターで作られた信号は、次にキャラクターと呼ばれるセクションに入ります(図②)。
▲図② オシレーター信号はキャラクター(CHARACTER)を経てローパスとハイパス・フィルターに入り、VCAの出力信号は3系統に分かれる。1つ目はパンを経てマスター・アウト、2つ目は4つのディレイ、3つ目はフィードバックでキャラクターの前に信号が戻される。図はオーディオ信号の流れだけを示したもので、実際にはモジュレーションなどのコントロール信号がクモの巣のように張り巡らされることになる ▲図② オシレーター信号はキャラクター(CHARACTER)を経てローパスとハイパス・フィルターに入り、VCAの出力信号は3系統に分かれる。1つ目はパンを経てマスター・アウト、2つ目は4つのディレイ、3つ目はフィードバックでキャラクターの前に信号が戻される。図はオーディオ信号の流れだけを示したもので、実際にはモジュレーションなどのコントロール信号がクモの巣のように張り巡らされることになる
その名の通り、オシレーターで生成された波形をさらに変容させるエフェクト・セクションです。内容はGirthとAirという2種類のフィルター、HackとDecimationというビット/サンプル・レートのリダクション、そしてテープ・サチュレーションを模したDriveです。中でもオシレーターをリダクションしてしまうというHackとDecimationの考え方が面白いと思いました。このセクションもモジュレーションの対象となるので、コントローラーやLFOでパフォーマンスしつつ音を崩すなど、面白い使い方ができそうです。 

自由度の高いモジュレーション
アサインも直感的に行える


Prophet 12はフィルターとアンプはアナログ回路ですので、ハイブリット・シンセサイザーということになります。フィルターはProphet-5にも使用されていたCURTIS製チップ(型番は別物)が採用され、ローパスの後にハイパスが直列に接続されてます。ローパスは2ポール(−12dB/oct)と4ポール(−24dB/oct)の切り替えが可能。レゾナンスによる自己発振もできます。フィルターの設計はさすがによくできていて、カットオフやレゾナンスを増減させたときの質感は実に心地良いです。後段のハイパスは2ポール(−12dB/oct)でレゾナンス付き。ローパスと併用すればバンドパス・フィルターとしても使えます。Prophet 12には全部で4つのエンベロープ(EG)があり、そのうち2つはデフォルトでフィルターとアンプにアサインされています。このEGがなかなか面白いので紹介しておきましょう。基本仕様は定番のADSRタイプで、現代風にアレンジされている点として1つはADSRの前……つまりアタックが始まるまでの時間を調整できるディレイが付いていることです(図③)。
▲図③ EGは多くのモデルに採用されているADSRに加え、動作を始めるまでの時間をD(ディレイ)で設定できる ▲図③ EGは多くのモデルに採用されているADSRに加え、動作を始めるまでの時間をD(ディレイ)で設定できる
もう1つはエンベロープをループさせることができること。こちらは個人的にもトピックです。もともとエンベロープを使った変調はワンショットが基本であり、連続した変調にしたければLFOを使うことですみ分けできます。でもLFOだと波形が固定なので決まったパターンを繰り返すだけ。そこでエンベロープを使い、ADSRを調整しながらコントロールすることで、言わばリアルタイム波形生成器のようなことができるわけです。これらの機能はアンプ部のEGでも同じことができます。EGと一緒にLFOも登場してきたので、ここらでProphet 12の変調関連をざっくり紹介することにします。基本はパネルにツマミがあり、それらにアクセスすれば即座に必要な機能を得ることができます。でも、すべてのパラメーターがパネル上にあるわけではありません。本機にはLFOやEGは4基ずつありますが、“それぞれが何をコントロールしているのか?”“これからアサインしたい場合どうすればいいのか?”と迷った際はモジュレーション・ページをディスプレイに呼び出せば、適宜情報の確認/追加/修正/変更などが行えるようになります(写真⑤)。
▲写真⑤ モジュレーション・ページ。本機には、モジュレーターを名前でソートして、すぐにパッチングの状況確認ができる便利機能もある ▲写真⑤ モジュレーション・ページ。本機には、モジュレーターを名前でソートして、すぐにパッチングの状況確認ができる便利機能もある
例えば、前述した4つのオシレーター波形を変容させながらリズミカルにモーフィングさせたいとしましょう。とりあえずここではLFOをテンポ同期させ、4分音符ごとに1→2→3→4→1……というように変化させてみる方法が考えられます。もちろん答えは1つではないのですが、分かりやすいところで4つのLFOを各オシレーターのレベルにアサインし、LFO波形(三角波が分かりやすい)の読み出し位相をそれぞれ90度ずつずらしてあげるだけ、という具合ですね。本機で使えるモジュレーション・ソースは26種類で、4基のLFO、4基のEG、そして冒頭で紹介したパネルにあるタッチ・スライダーはポジション(位置)やプレッシャー(押す強さ)がそれぞれアサインできます。デスティネーションは97種類にも及びます。言うまでもなく1つのLFOでカットオフとパンニングというようにダブって使うこともできるので、実際の組み合わせは膨大となります。しかも、パネルにあるモジュレーション・ソースやディスティネーションのアサイン用ボタンを押しながらツマミやスライダーを動かせば設定完了という簡便さ(写真⑥)。これ、すごく便利です。まるでモジュラー・シンセでパッチしているかのようです。ですからモジュラーで遊んでるとよく発生する“思わぬ効用”を発見する機会も激増するでしょう。
▲写真⑥ LCDディスプレイの左にあるMODULATIONセクションでは、Assign Mod SouceとAssign Mod Destinationボタンを用意。長押し→任意のツマミ/ボタンをいじると、簡単にモジュレーション・ソース/デスティネーションのアサインが行える ▲写真⑥ LCDディスプレイの左にあるMODULATIONセクションでは、Assign Mod SouceとAssign Mod Destinationボタンを用意。長押し→任意のツマミ/ボタンをいじると、簡単にモジュレーション・ソース/デスティネーションのアサインが行える
 

4基のステレオ・ディレイに加えて
伝統のフィードバック機能も搭載


話を再びフィルター/アンプに戻します。前出の図②を見ると分かりやすかと思いますが、アンプを出た信号は3つに分かれます。1つはメインの信号経路であり、最終的に2系統あるどちらかのステレオ・アウトから出力されます。Prophet-12は別々の音色を重ねるスタック機能や、鍵盤上のあるポイントから左右で違う音色を振り分けるスプリット機能があるのですが、こうした複数の音色が異なる端子から出力できるように2系統用意されているのです。2つ目の信号は4基のステレオ・ディレイに接続され、その出力は先ほどの2系統のステレオ・アウトに合流します。ディレイはシンセの音作りの一つとして重要な働きをしてくれるだけに、Prophet-12ではパネルに専用ツマミが用意されており、タイム/アマウント/フィードバックが設定可能。パフォーマンス中にディレイを加えたり、抜いたりといった作業がツマミで行えるのはやはり便利です。当然モジュレーション・コントロールの対象でもあります。3つ目はフィードバックと呼ばれる経路で、アンプから出力された信号をキャラクター・セクションの前に戻してしまうのです。古くはMinimoog時代からあるテクニックで、信号をフィードバックさせることである種のひずみを付加することができ、うまく使うと独特の太いサウンドが得られます。Prophet 12はTuningツマミで発振周波数を可変できるので、うまく設定するとフィードバック・ギターみたいなこともできます。 Prophet 12は見かけこそ60近いツマミがあって難解な印象を抱くかもしれませんが、少し使ってみれば想像よりはるかに理解しやすいことに気が付くと思います。個人的にはオシレーター・セクションが圧巻の出来栄えで、音質込みで非常に気に入りました。何年も使えるだけのポテンシャルを備えているので、初心者からエキスパートまですべてのシンセ好きに安心してお薦めできます。 
▲リア・パネル。中央から右に向かってUSB(パソコンとのMIDIデータやり取り用)、サステイン・ペダル、エクスプレッション・ペダル×2(以上フォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、アウトプットB L/R(フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン) ▲リア・パネル。中央から右に向かってUSB(パソコンとのMIDIデータやり取り用)、サステイン・ペダル、エクスプレッション・ペダル×2(以上フォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、アウトプットB L/R(フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年9月号より)
DAVE SMITH INSTRUMENTS
Prophet 12
オープン・プライス (市場予想価格:400,000円前後)
▪鍵盤数:61(セミウェイテッド) ▪ボイス数:12 ▪オシレーター:DSP(1ボイスにつき5基のオシレ ーターを用意) ▪オシレーター波形:ノコギリ/矩形/三角/サイン/複雑波形×12種類 ▪ノイズ:ホワイト/レッド/バイオレット ▪オシレーター・クロス・モジュレーション:FM/AM ▪ローパス・フィルター:CURTIS製2/4ボール・アナログ(4ポールで自己発振に対応) ▪ハイパス・フィルター:2ポール・アナログ ▪エンベロープ:ディレイ機能付きADSR×4(ローパス・フィルター用/VCA用/アサイナブル×2) ▪LFO:4(フェイズ・オフセット&スルー・リミッター付き) ▪モジュレーション・マトリクス:16×2系統(ソース×26/デスティネーション×97) ▪アルペジエイター:ラッチ機能付きブログラマブル ▪キャラクター・エフェクト:5系統(Girth/Air/Hac k/Decimation/Drive) ▪プログラム数:ユーザー×396/ファクトリー×396 ▪外形寸法:975(W)×105(H)×325(D)mm ▪重量:11.8kg