「RUPERT NEVE DESIGNS Portico 542」製品レビュー:5042のモノラル版にあたるAPI 500互換のテープ・シミュレーター

RUPERT NEVE DESIGNSPortico 542
RUPERT NEVE DESIGNSの2chテープ・シミュレーターPortico 5042をご存じでしょうか? ルパート・ニーヴ氏のこだわりやユニークな設計が詰め込まれ、画期的な製品として人気を博しています。今回紹介するPortico 542は、そのPortico 5042のうま味を増幅させ、守備範囲を広げ、なおかつ使い勝手を良くしたモノラル・テープ・シミュレーターとなっています。

周波数特性は5Hz〜60kHz
全高調波歪率は0.0025%以下


Portico 542はAPI 500シリーズ互換モジュールなので、安定性の高い電源を使用することができる上、ほかのモジュールと一緒にマウントして使えます。スペックに目を通すと、本機がただ者ではないことが読み取れます。周波数特性が何と5Hz〜60kHz(±0.25dB)。この数値は、まさにアナログ・テープ・レコーダーそのものです。そして、この周波数特性が意味するのは、Portico 542が優秀なアナログ回路の持ち主であるということです。最大出力レベル23.25dBu、信号の中のひずみの割合を表す全高調波歪率が0.0025%以下(出力レベルが+20dBの際に1kHzで測定)という値を見ても、それが分かります。しかしスペックだけを述べても、アナログ・テープ・レコーダー(以下、テープ・レコーダー)を使ったことのない人にはピンと来ないかもしれません。そこで、少しおさらいしておきましょう。テープ・レコーダーは、簡単に言うとエジソンの蓄音機のようなものです。入力された音をとても小さな電流に変換し、“ヘッド”と呼ばれるコイルのような装置で磁気を帯びた物体であるテープをなぞることで、音声を記録していくのです。これが録音の仕組みで、真逆のことを行うのが再生です。テープ・レコーダーからは素晴らしい音が得られる反面、物理的な特性により独特のひずみが生じるため、使い方次第では録り音がダーティにもなります。このひずみは1960年代のモータウン・サウンドやスタックス・レコードなどのサザン・ソウルで、音楽的に大きく貢献しました。 

“True Tape”や“SILK”など
ひずみを生み出すアナログ回路


さて、今度はPortico 542の操作子をパネルの上部から順に見ていきましょう。入力された音はインプット・トランスを経由した後、“TRIM”ノブでレベルを調整できます。テープ・レコーダーへの録音レベルをコントロールするような感じですね。“TRIM”の下に位置する“TAPE EFFECT IN”は、入力した音をテープ・シミュレーション回路“True Tape”に通すか/通さないかを決められるスイッチ。その下には“SATURATION”ノブが備えられており、これを使うと実際の録音状況をシミュレートするためのトランスによって、ひずみを加えることが可能です。“15/30 IPS”スイッチでは、テープの回転速度=テープ・スピードがシミュレートできます。“30 IPS”は、1秒間に30インチ(76cm)のスピードでテープを動かすという意味。テープ・スピードが上がるほど、単位時間に使用するテープの量が増え一つ一つの音が余裕を持って録音されるため、音が良くなるというかデメリットが少なくなると考えてください。“BLEND”ノブでは、“SATURATION”“15/30 IPS”から得られるテープ・エフェクトと原音のミックス・バランスが調整可能。そして、その下に配置されたスイッチを押すと、音を出力する直前で“SILK”回路を通すことができます。この回路もトランスを備えており、“RED”モードでは中高域にひずみを加えることができます。スイッチをもう1回押すと“BLUE”モードに切り替わり、今度は低域と中低域にひずみを付加することが可能。“TEXTURE”ノブを使うと、これら“SILK”エフェクトのかかり具合を調整することが可能です。なお、これらの回路は先述の“True Tape”回路からは独立したものであり、“TAPE EFFECT IN”スイッチがOFFの状態でも動作します。さて肝心のサウンドですが、さすがはニーヴ氏の作ったものだと思わせる仕上がり。トランスによる滑らかで上質な響き、というのが第一印象でした。“SATURATION”の値を上げれば、先に述べた“偶然の産物”と言うべきワイルドな倍音やひずみが得られます。プラグインのテープ・シミュレーターとは違い、音がやせたり薄くなる印象は全く無く、ハードウェアの恩恵を感じました。ベースやドラム、ピアノ、ボーカルなどに試しましたが、どんなソースにもマッチします。また、オケの中で埋もれてしまう音をEQだけで立たせることができないときにも便利。2台用意して、トータルにかけてみるのも良いでしょう。 
▲リア・パネル。基盤は金属製のシャーシで保護されている ▲リア・パネル。基盤は金属製のシャーシで保護されている
 
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年8月号より)
RUPERT NEVE DESIGNS
Portico 542
92,400円
▪周波数特性/5Hz〜60kHz(±0.25dB) ▪最大出力レベル/23.25dBu ▪全高調波歪率/0.0025%以下(@1kHz、出力レベル+20dBu) ▪外形寸法/38(W)×133(H)×145(D)mm ▪重量/約1kg(実測値)