
シンプルなフロント・パネル設計で
アンプ部を真空管とFETで切り替え可能
まず目を引くのは本体のコンパクトさ。電源部も含めてこの大きさで収まっているのはすごいな〜と思っていたら、電源部はACアダプター仕様でした。過去のイメージからすると音質面で良い印象のないACアダプター電源ですが、電源部を本体から隔離できる点とコストの面でメリットが大きかったのでしょうか。まずは先入観を持たずにサウンドをチェックしてみたいと思います。本機の機能で最大の特徴はアンプ部を真空管とFETで選べる点でしょう。フロント・パネルは非常にシンプルで、大きめのゲイン・ノブ、入力インピーダンスの切り替えスイッチ、位相反転スイッチ、アンプ部の真空管/FET切り替えスイッチ、48Vファンタム電源のオン/オフ・スイッチのみ。グレー・パネルにグリーンのロゴが業務機らしさを醸し出し印象的です。今回比較対象としてNEVE 1073、TELEFUNKEN V76/80、SSL Gシリーズの卓のヘッド・アンプなどを用意しました。まずはアコギでチェックしてみます。マイクはNEUMANN U87AIで、GIBSON J-45で強めのストロークを弾いてもらいます。予想以上にパワフルなサウンドです。真空管モードでゲイン・ノブは10時くらいの設定だと太めの中低域とスムーズに伸びた高域が得られました。押し出しが強く適度に荒れた中域も好みの音色。V76と比較すると音像はやや小さく、ローもタイトに感じます。とはいえ近年の機材に多い腰高な音色傾向ではなくファットな印象です。TELEFUNKEN V76/80がかなり倍音豊かでハイファイに聴こえるので比べるとやや地味ですが、NEVE 1073ともまた違った太さが感じられます。この両横綱を相手にD2O、かなり健闘していると言えるのでは。なかなか良いですね!ゲインは真空管モードで最大56dBとそれほど高くないのですが、ゲイン・ノブの位置である程度の音色コントロールが可能です。入力インピーダンスの切り替えも、低い方でも2.25kΩと高めですし、マイクの出力に適切な受けを選択するというよりも積極的に音色作りに活用するべきなのかなと感じました。FETモードではよりソリッドな印象。硬いというわけではないですが中低域はややすっきりしてきます。真空管モードとの変化量はわずかな印象ですが、音作りの上ではこれくらいの微妙な変化の方が効果的かもしれません。音作りの選択肢が広がるのは現場では非常に助かりますね。
あまりドライブさせないゲイン位置で
魅力的な中低域を実現
続いてドラムでも試してみます。オフに立てたNEUMANN M49ではキックの低音が豊かに感じられます。いい感じです。中高域以上の帯域でややスネアやシンバルの余韻が短く感じるというか、解像度が落ちるような印象ですが、倍音の出方がやや少ないのかなと思わせる部分でした。TELEFUNKEN V76/80との比較だとどうしてもやや分が悪いですが、SSLコンソールのヘッド・アンプと比較するとぐっとファットに感じられるサウンドです。COLES 4038などのリボン・マイクではやはりゲインがやや不足気味。ドラムでは問題ないですがストリングスなどの弱音楽器ではリボンは厳しいかもしれませんね。ただリボン・マイクとの音色の相性はかなり良い印象でした。続いて女性ボーカリストにNEUMANN U67で歌ってもらいました。少しキーが低めの曲だったのですが、オンマイク気味でのトーンは存在感のある低域にクリアな中域でかなり好み。倍音はもう少し出てほしいところですが、あまりドライブさせない適度なゲイン位置でのスムーズな中高域はなかなか魅力的でした。今回のシチュエーションですとAKG C12あたりがベスト・マッチングだったかもしれません。 ここまでかなり価格差のあるプリとの比較でしたが、D2Oはこの価格帯としてはかなり優秀なマイクプリだと感じました。ジャンルにもよりますがこの価格でこの音は使えると思います。定番となっている有名な機材はやはり良いですが、特に生の録音は機材のコンビネーションも重要になってきます。キャラの異なるマイク・プリアンプを適所に使うことで全体のトーンをコントロールする楽しさもあります。その際の選択肢の一つとなり得る完成度の高いマイクプリでした。なお、本機にはAPIのVPRアライアンスに準じた500モジュールもラインナップされているようです。電源環境も変わってきますのでまた変わった音色が聴けるかもしれません。機会のある方はぜひチェックしてみてください。
