
左右の位相感が良好で
低域から高域まで伸びやかな出音
今回テストするのは、シリーズでは中型にあたる6.5インチ・ウーファーを搭載したHS7。バイアンプ方式で、ツィーターは1インチのドーム型。エンクロージャーはバスレフ式で、共振を抑えるために“三方留め”という木材建築で用いられる手法が採用されています。サイズはNS-10Mとほぼ同等ですが、重量は8.2kgと結構ずっしりしており、スピーカーの安定にも役立っているように思います。まず全くノーマルの状態で聴いてみました。長年使っているNS-10Mとの比較というニュアンスが多分に含まれることを考慮いただきたいのですが、一聴して“おっ”と思ったのが左右の位相感の良さ。楽器の配置がよく見え、オート・パンなどの処理が施された素材はキビキビした動きを見せます。トータルの音の印象はNS-10Mライクな見た目とは裏腹に、どちらかと言うとGENELEC 1031Aのようなドンシャリ傾向。特筆すべきは低域で、かなりの量感があり、最近のトラップ・ミュージックを聴くとすごいことになります(笑)。個人的にこのサイズのスピーカーに求める低音の量としては多めに感じたのですが、自宅スタジオでは複数のモニターをスイッチングして使うパターンは少ないと思いますので、1台で最低域から最高域のチェックする目的としては、これくらい鳴っていた方が良いと思いました。やや過剰に思えた低域ですが、ベースやキック、ほかの楽器の低域などが団子状態の楽曲をミックスする際はかなり便利で、それぞれの置き場を素早くEQで調整できました。このあたりはHS7の最も“売り”になる性能ではないでしょうか。高域は10〜16kHzくらいまでつながり良く出ている印象。ミキシングでEQをしている際もこのあたりがシビアに反応しているのが分かりました。中域は割と控えめで、これが全体の出音を上品なイメージにしていると思われます。いろいろな楽曲でチェックしてみると、ボーカルの上下の位置が鮮明に見え、解像度も問題無し。新開発のトランスデューサーなどさまざまな要因はありますが、とにかく“伸びやかな出音”が本機最大の特徴と言えるでしょう。
チューニングによっては
NS-10M的なキャラクターにも
今度は部屋に合わせてチューニングしてみます。まず、設置環境による音の反射で低音が強くなり過ぎるのを調整するROOM CONTROLスイッチから。今回試聴したのはしっかりと調整された環境でしたので、壁に近過ぎて低音がダブつく現象はないかと思いましたが、この500Hzを−2dB/−4dBにできるスイッチで調整したところ、自分的には−4dBがちょうどよく感じました。次にHIGH TRIMスイッチですが、これは2kHz以上を±2dBで調整可能です。試しに−2dBにしてみるとしっくりきました。結局高音も低音も下げる方向になりましたが、こうすると、何と普段使っているNS-10Mと似た方向の音になり、ノーマル時とは全く印象が違って聴こえます。本来は補正のための機能ですが、スピーカーのキャラクターを真逆にする感覚があり、ある意味“一粒で二度おいしい”お得感がありました。 音楽制作におけるモニターはエンド・ユーザーとどれくらい“良い音の印象”を共有できるかがキモだと思います。また、時代時代で音の良し悪しの基準や再生環境は変化しますので、ときには新たな尺度も必要です。HS7を使ってのミキシングはとても新鮮で、この低域の解像度と高域の伸びやかさがあれば、音響処理のアプローチも変わってくるように感じました。
