CADMH510
マイク・メーカーとして有名なCADが、この度ヘッドフォンMH510を発表しました。同社の10年に渡る経験と技術を注ぎ込んで作ったヘッドフォンとのことで、どのような音に仕上がっているか楽しみです。実際に音楽制作で使ってみた印象を中心に、リスニング用途も含めてチェックしていきたいと思います。
２種類のイア・パッドが付属
側圧はしっかりしており遮音性に優れる
本機は密閉ダイナミック型で、カラーはブラック／ホワイト＆レッド／ブラック＆クローム／ブラック＆オレンジの４色展開。ケーブルはストレートとカールの２種類が付属しており、着脱式なので断線時には簡単に交換でき便利です。イア・パッドはレザーと布の２種類が付属しており、自分の好みに合う質感のパッドを選択可能。交互に付け替えて試聴してみましたが、どちらのパッドでも音質にほとんど違いは無いようです。布パッドの質感は、筆者が普段使っているBEYERDYNAMIC DT250/80に近く、快適に装着できました。パッド自体の大きさも適切で、耳に負担をかけることなく密閉してくれます。ブリッジ部は頑丈なプラスチック製。頭頂部のみレザーがあしらわれており、フィット感も良好。しっかりとした側圧があるので、人によっては装着感がきつく感じる可能性もありますが、遮音性と密閉感は優れており、周りの音が気になることもなく、作業に集中できます。
ずっしりと響いてくる低域
音場の広さもちょうど良いバランス
は肝心の音質をチェックしていきましょう。 本機のインピーダンスは26Ωと低いので、ヘッドフォン・アンプを使用しなくても十分に鳴らすことができます。今回は、筆者が普段使用しているオーディオ・インターフェースAPOGEE Duetのヘッドフォン端子を中心にテストしましたが、APPLE iPodなどにじかにつないでも、十分な音量を確保することができました。まず印象的なのが、ずっしりと響いてくる低域です。50〜100Hz周辺が若干強調されているような印象で、グルーブを感じながら作業するのに適しています。フラットなミックスのポップスを聴くとベースが程良く強調されてノリ良く聴けますし、ロックやダンス・ミュージックはかなりヘビーでパンチの効いた音。最近のベース・ミュージックでよく使用される100Hz以下の重低音もしっかりと鳴らしてくれました。低音の量は多めですが全体像とのバランスは取れており、不自然なほど低音が強調されているわけではないので、ジャンルを選ばずに使えると思います。中域も元気のある音です。低域に埋もれることもなくしっかり分離しており、飛び出て来るような存在感があります。空気感を持って広がっていくというよりも目の前で演奏しているような臨場感があり、ボーカルの輪郭もクッキリとしています。各楽器の分離も良いので、ミキシング時に定位を決める作業もできると思います。一方、高域はきらびやかさは控えめで落ち着いています。抜けの良さはそれほどありませんが、ナチュラルな高域と言えるでしょう。シャカシャカした高い音が耳に刺さって聴き疲れしてしまうこともないので、長時間の作業にも向いていそうです。次に空間表現をチェックしてみました。全体的な音場の広さは、広過ぎず狭過ぎず、バランスが良い印象です。あまりに音場が広過ぎるヘッドフォンは、リスニング用途では楽しいですが、ミキシングで使用すると全体像が把握しづらく、バランスが悪くなってしまうことがあります。その点MH510は音場がちょうどいいので、楽器の定位や配置なども問題なく確認できます。次にDAWで音素材にさまざまなリバーブをかけて聴いてみましたが、空間の広さや質感の違いがしっかりと表現されていました。 MH510は低音や中域の迫力を楽しめる一方、極端なドンシャリ・サウンドにはなっていないので、さまざまなシチュエーションで使えるヘッドフォンだと感じました。低域が多めに出る点を念頭に置きさえすればミキシングにも使えそうですし、何より、ノリ良く作曲する際に活躍するのではないでしょうか。また、クラブやライブ・ハウスのスピーカーのダイナミックな鳴りに近いニュアンスもあり、制作中の楽曲をハコで鳴らしたときのイメージが想像しやすいように感じました。価格もリーズナブルですし、コスト・パフォーマンスの高いヘッドフォンと言えます。 （サウンド＆レコーディング・マガジン 2013年7月号より）
CAD
MH510
18,900円
▪形式／密閉ダイナミック型
▪周波数特性／10Hz〜24kHz
▪感度／103dB
▪インピーダンス／26Ω
▪最大入力／3,000mW
▪ドライバー／50mmネオジム
▪端子／ステレオ・ミニ（フォーン変換アダプター付属）
▪ケーブル／3mストレート・ケーブル＆1mカール・ケーブル付属、着脱式、片出し
▪重量／322g（実測値）
