「GRACE DESIGN M905」製品レビュー:充実の入出力に加えDSD入力にも対応するモニター・コントローラー

GRACE DESIGNM905
“繊細に力強く”“息づかい”“空気感”……これらをリアルに表現するアメリカのメーカー、GRACE DESIGN。今回紹介するM905は、NEVEやSSLなど大型卓のセンター・セクションに匹敵する機能を省スペースで実現した注目のモニター・コントローラーだ。既に絶大な評価を得ている旧モデルのM904の洗練されたデザインと使いやすさはそのままに、今現場で求められている機能がこの中に凝縮されている。

トークバック・マイクはM802相当
DSDデータはUSB経由でモニター可能


本機は2Uサイズのメイン・ユニット(本体)とリモート・コントロール・ユニット(RCU)から成り、10系統の入力をセレクトしてモニターすることができる。入出力系は本体のリア・パネルにぎっしりと配置されており、アナログ入力はアンバランス(RCAピン)、バランス(XLR)、CUE(XLR)が各1系統。それに1chのトークバック・マイク入力(XLR)が用意されているのだが、これには同社のマイクプリM802相当の回路が入っており、スタンドアローンのマイクプリとしても使用可能だ。デジタル入力は、AES/EBU(デュアル・ワイアーにも対応)が2系統、S/P DIFコアキシャル&オプティカル、ADAT(S/MUX対応)、USB2.0(Mac/Windows対応)が各1系統用意されているので、ほとんどのデジタル機器がつなげられるだろう。特筆すべきは、USB経由でパソコン上の24ビット/192kHz PCMおよびDSDの入力に対応していること。DSDについては後述するが、本機は最大10chの入力を持つUSBオーディオ・インターフェースとしても使用が可能である。アナログ出力にはスピーカー(XLR)×3系統、CUE(XLR)×1系統、トークバック(XLR)×1chを装備。サブ/DACアウト(XLR)が1系統装備されているのも注目すべき点で、サブウーファーを接続することもできる。デジタル出力はAES/E
BUとS/P DIFコアキシャルが各1系統備えられており、当然ワード・クロックにも対応している。 

余裕があってしっかりした音像
“音の形”が正確に表現される


では実際に音をチェックしよう。まずはCDプレーヤーをAES/EBUでつなぎプレイバック。一瞬“おとなしい?”と感じるが、すぐにこれは“すごく余裕のある音だ”と気付く。いつも処理に苦労する80〜200Hzぐらいの低域に曇りが無く、とてもクリアだ。中域に特に色付けは無く、フラットな印象。それでいて高域が物足りないということも無く、とても自然に伸びていて心地良い。一言で言うならば恐ろしくフラットで余裕のある音という感じだ。ウチのパッシブ・スピーカーB&W Signature 805との相性も良く、現状のシステムより音がしっかり鳴っている感覚で、もう1台のパワード・スピーカーRCF Ayra 6との相性も全く問題無い。このパフォーマンスならばどんなスピーカーでも最大限の力を発揮できそうだ。今回は、本機を使って現在進行中のセッションを1曲ミックス・ダウンしてみたのだが、オペレーション的に不足を感じることは無く、少し慣れれば音質的な優位性も相まってなかなか手放せない感覚になる。やはり音に余裕が感じられ、音像もしっかり見える印象だ。また本体フロントに加えてRCUのリアにもヘッドフォン・アウトがあるので、コード取り回しのストレスが無かった。ただ、作業中に1つ気になったのがRCUのSPLメーター。常に数字で表示されるので、グラフ状のメーターに慣れている身としては少し使いづらかった。ここはぜひ改善してほしい点である。DSDの入力はMacとM905をUSBでつなぎ、システム環境設定の“サウンド”から本機を選択するだけで準備完了。Mac上のDSDデータをA UDIRVANA Audirvanaで再生し、USB経由で本機で聴いてみると、高域の伸びと残響感が特に良い感じだ。アナログ的な躍動感が少し減っている印象はあるものの透明感が素晴らしく、“音がそこにある感じ”はやはりDSDならでは。ソフト開発も含め、今後DSDの普及には大いに期待するところである。細かく触れることができなかったが、機能的にも自由度が高く、RCUの“SETUP”ボタンから各項目の詳細設定が可能で、また新しい機能もファームウェア・アップデートで追加できるようデザインされている。圧倒的な音質の良さに加え、スピードの速い現在のニーズに合った機材を実現する……ここが本機の最大の魅力だろう。
▲リモート・コントロール・ユニット(RCU)。カラーLCDディスプレイとその画面表示に対応した上下スイッチ群、ボリューム・ノブ、スピーカー切り替えボタンなどを配置 ▲リモート・コントロール・ユニット(RCU)。カラーLCDディスプレイとその画面表示に対応した上下スイッチ群、ボリューム・ノブ、スピーカー切り替えボタンなどを配置
▲リア・パネルの端子群は、上段左からワード・クロック入出力(BNC)、AES/EBU入力×2(XLR)、S/P DIFコアキシャル&オプティカル入力、ADATオプティカル入力、USB、AES/EBU出力(XLR)、S/P DIFコアキシャル出力、サブ/DAC L/R出力(XLR)、CUE L/R出力(XLR)、トークバック・マイク出力(XLR)。下段は左からアップデート用USB、RCU接続用(DB15)、トークバック・スイッチ(フォーン)、スピーカーL/R出力×3系統(XLR)、CUE L/R入力(XLR)、バランスL/R入力(XLR)、アンバランスL/R入力(RCAピン)、トークバック・マイク入力(XLR) ▲リア・パネルの端子群は、上段左からワード・クロック入出力(BNC)、AES/EBU入力×2(XLR)、S/P DIFコアキシャル&オプティカル入力、ADATオプティカル入力、USB、AES/EBU出力(XLR)、S/P DIFコアキシャル出力、サブ/DAC L/R出力(XLR)、CUE L/R出力(XLR)、トークバック・マイク出力(XLR)。下段は左からアップデート用USB、RCU接続用(DB15)、トークバック・スイッチ(フォーン)、スピーカーL/R出力×3系統(XLR)、CUE L/R入力(XLR)、バランスL/R入力(XLR)、アンバランスL/R入力(RCAピン)、トークバック・マイク入力(XLR)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年6月号より)
GRACE DESIGN
M905
399,000円
▪周波数特性(アナログ部)/3Hz〜1.25MHz(バランス入力、±3dB)、3Hz〜275kHz(アンバランス入力、+3dB) ▪ダイナミック・レンジ(アナログ部)/118dB(20Hz〜22kHz)、121dB(20Hz〜22kHz、A weig hting filter) ▪ゲイン・レンジ(アナログ部)/−104〜+13dB ▪外形寸法/メイン・ユニット:432(W)×89(H)×267(D)mm、RCU:226(W)×56(H)×130(D)mm ▪重量/メイン・ユニット:約3.6kg、RCU:約1kg