AKGK702 65th Anniversary Edition
AKGが設立65周年を記念して、同社オープン・エアー型ヘッドフォンのフラッグシップ＝K702のアニバーサリー・エディションを発売しました。同社の製品はスタジオ用のモニター・ヘッドフォンとして不動の地位を築いているだけに、どのような仕上がりになっているのか期待が持てます。その実力をチェックしていきましょう！
ベロア製のイア・パッドを採用
周波数特性は10Hz〜39.8kHz
「ウィ・アー・ザ・ワールド」のミュージック・ビデオで、出演者全員がAKGのヘッドフォンを装着しているのはあまりにも有名ですが、最近ではアニメ『けいおん！』のヒットにより、登場人物である秋山澪の使っていたK701がオーディオ・マニア以外にも広く普及したそうです。そのK701をブラッシュ・アップしたモデルがK702です。今回のアニバーサリー・エディションは外観がグレード・アップしており、新たな本革製ヘッド・バンドとベロア製イア・パッドが実装されています。さて、基本性能を見ていきましょう。特筆すべき点は、周波数特性が10Hz〜39.8kHzと非常に広いことです。ミキシングで使われることの多いAKG K240MKIIの周波数特性は15Hz〜25kHzとなっていますが、これを考えてみても本機がいかに広い帯域をカバーしているかイメージできるでしょう。インピーダンスは62Ωと十分に低く、ヘッドフォン・アンプなどを導入せずとも手持ちのシステムに組み込みやすい仕様です。ボイス・コイルには平らなリボン状ワイアーを使用し、可動部を軽量化。その結果、高いトランジェント特性を獲得しているそうです。２種類の素材を組み合わせた“Two-Layer”ダイアフラムは、中心部と外縁部で厚みを変えることにより不要な振動を抑制。クリアな高域と迫力のある低域を特徴としており、残響のテイルまで繊細に表現するといいます。
トランジェント特性が高く
コンプのかかり具合まで正確に分かる
装着してみると、ベロア製のイア・パッドが予想以上に良いです。筆者は普段AKG K240 Studioを使っていますが、これと比較すると、そば殻の枕から低反発枕に変えたくらいの違いを感じました。ヘッド・バンドには、K702のような滑り止め用の突起が付いていません。そのせいか、普段使いのK240 Studioをそのままワンランク上にグレード・アップさせたような付け心地が味わえました。また、頭や体を動かしても可動部がキシキシと音を立てるようなことはありません。“音は良くてもキシキシが耳障り”というモデルは結構多いんですよね。本機のようなオープン・エアー型のヘッドフォンはミキシングに使われることが多いため、歌録りに向けたモデルほどシビアにハードウェア的なノイズを気にしなくても良いでしょう。ただ、ミキシングなどの繊細な作業には集中力を要するので、その妨げにならない作りというのは地味に仕上がりにも効いてくる気がします。次に音質。一聴して感じましたが、低域の質感が非常に良いのです。これまで、ヘッドフォンでは低音が下に抜ける感じを受けたことがなかったので、軽い驚きです。耳でしか音を受けていないのに、おなかの下の方でちゃんと低音を感じるのです。とは言えDJ向けのヘッドフォンなどとは違い、低域を過度にブーストするような味付けは無く、あくまで自然に鳴っているという雰囲気。特徴であるトランジェント特性は非常に良く、コンプのかかり始めの部分まで正確に聴き取れます。ダイナミクスの差もキチンと表現され、のっぺりとした感じは皆無。リバーブの切れ際までスムーズに鳴っています。音の分離や定位もハッキリとしていて、分かりやすい印象です。 筆者は基本的にスピーカーでミックスをチェックしていて、ヘッドフォンは細かいノイズを取り除くときなどに顕微鏡をのぞく感覚で使っていますが、本機に関しては“これだけでも仕事ができそうだな”と思いました。例えば“コンプの効果が分からない”と言う方の多くは、部屋の反射がチューニングできていないために、コンプレッションによる音量変化が聴き取れていない可能性があります。そのような場合は、本機を手に入れることで急にミックスが上達するかもしれませんよ！ （サウンド＆レコーディング・マガジン 2013年5月号より）
AKG
K702 65th Anniversary Edition
オープン・プライス （市場予想価格／ 50,000円前後）
▪形式／オープン・エアー型
▪周波数特性／10Hz〜39.8kHz
▪感度／93dB SPL/mW（＠1kHz）
▪最大入力／200mW
▪インピーダンス／62Ω
▪入力端子／ステレオ・ミニ（金メッキ）
▪ケーブル／3mストレート、片出し、着脱式
▪重量／235g
