「D16 GROUP Lush-101」製品レビュー:名機SH-101を参考にポリ仕様&エフェクトを追加したソフト・シンセ

D16 GROUPLush-101
ROLAND TB-303やTR-808、TR-909など往年のROLANDの名機を積極的にシミュレートしているD16 GROUPから、今度はSH-101からインスピレーションを受けたというLush-101がリリースされた。上記の製品をモデリングしたソフトは非常に高い評価を受けているので、このLush-101も興味を持ってチェックしてみた。

アナログ・シンセの名機SH-101は
いまや伝統的なテクノの代名詞的存在


まずは元となったSH-101について簡単に触れておこう。SH-101は1983年に発売された小型の廉価版アナログ・シンセだ。VCO、VCF、VCA、EG、LFOすべて1基ずつという分かりやすい構成で、シンセを学ぶ教材としても使われていたらしい。単二乾電池×6本でも駆動したり、モジュレーション・グリップを付けて立奏にも対応するなどポップな印象だったが、同時期に発売されたYAMAHA CS01よりも高価だった(当時学生だった僕は安い方のCS01を買った)。しかし今あらためて思い返してみると、SH-101はちゃんと標準サイズの鍵盤を装備していたり、CV/Gate入出力など拡張性もあり、安いけど決して手は抜いていないという印象のシンセだった。その辺が現在でも高い人気を誇っている理由かもしれない。音もやはりその当時のROLANDのサウンドという感じだった。同時期に発売されているMC-202も同じ音源を搭載しているし、あのTB-303にもちょっと似ているところがあると思う。でも当時はサンプリング時代がいよいよ到来!という状況だったので、“なんかどれも同じ感じの音だなあ”と評価は低かった。しかし時代は2周くらい回って、いまや伝統的なテクノの代名詞のような“カッコ良い!”と思える音のシンセだ。

トランス系で人気のSuper Saw機能
フィルターには“SH-101”モードも用意


さて、ここからはLush-101の話。Audio Units/VST対応のプラグイン・タイプのソフト・シンセで、音の特徴とデザインに関してはSH-101から影響を受けているが、中身はSH-101複数台分どころか、同社の持てるノウハウをすべて投入したかのような大規模なものだ。SH-101を元に機能を拡張したオシレーターとフィルターに加え、LFOとエンベロープは各2基に増えている。さらにコーラスやディストーションなどのインサート・エフェクトとアルペジエイターを加えたものを1レイヤーとし、これを8つまで重ねることができる。各レイヤーはマスター・ミキサー(後述)でまとめるが、それぞれのレイヤーにはEQとコンプレッサーが付いており、さらに3つのセンド用エフェクトまで用意されている。それらは同社のプラグイン・エフェクトであるSilverLineシリーズのアルゴリズムが搭載されているようだ。さらに詳しく各モジュールを見ていこう。まずオシレーターは、SH-101と同じく波形をミックスしていく方式だ。矩形波、ノコギリ波、サブオシレーター、ノイズをそれぞれ加算するのはSH-101と同様だが、ノコギリ波はROLAND JP-8000と同じSuper Saw機能が追加されており、ノコギリ波を幾つも重ねた分厚いサウンドが得られる。このSuper Sawサウンドがトランス系のテクノで使われるようになって、JP-8000やラック型のJP-8080が再評価された。Super Saw的なオシレーターは他機種でも目にするようになっているが、オリジナルの分厚さというか、重なり具合はLush-101が一番よく再現されていると思った。次にフィルター。SH-101はローパス・フィルターのみだったが、Lush-101ではバンドパスとハイパスも選べるようになっている。また“SH-101”と“NORMAL”という2つのフィルター・モードをスイッチできる。余談だが“SH-101”というモード・スイッチはフィルターだけでなく、OPTION画面でエンベロープのトリガーについてもSH-101をシミュレートするかどうか選択できるようになっており、実機を忠実にシミュレートしようとする姿勢が感じられる。このフィルター・モードの違いについては実際に聴き比べて試してみたが、“SH-101”モードではレゾナンスの効きがより強くなるようだ。TB-303のようにビキビキ言わせたいときは“SH-101”の方が良いかもしれない。このモード切り替えはローパスだけでなく、バンドパス/ハイパス・フィルターでも有効となる。そしてもう1つ、フィルター・セクションの右側に独立したハイパス・フィルターも装備されている。カットオフ周波数のみをいじるだけのシンプルなものだが、このパネル・デザインはROLA
ND Jupiterシリーズを連想させる。エンベロープも充実している。LFOによるトリガーのリセットのほか、実機には無いポラリティ(極性)の変更も可能だ。またLush-101は至るところに“TRIG”と“GATE”という切り替えスイッチが付いているが、これらはモノフォニック設定時にレガートで弾いた(前の鍵盤を離す前に次の鍵盤を弾く)場合、そのモジュールへのトリガーをどうするかというもので、“TRIG”では常にトリガーされ、“GATE”のときは完全に鍵盤を離すまで次のトリガーを受け付けない。ほかのシンセではマルチ/モノトリガーなどのスイッチですべてのモジュールをコントロールすることが多いが、本機は“この辺の細かい設定で思い通りのシーケンスを作ってくれ”というこだわりが見受けられる。LFOは実機より大幅に高機能になっている。LFOレートはホストDAWのBPMにシンクさせることも可能で、通常のテンポ(100〜200BPM)なら、同じスライダー位置でもシンクさせた方がゆっくりした効果が得られるようだ。

ステップごとのゲート/タイ調整など
詳細な設定が行えるアルペジエイター


アルペジエイターについても紹介しておこう。実機のSH-101でもアルペジエイター/シーケンサーが付いていたが、Lush-101のそれも魅力的なものになっている。大きな2つのノブでアルペジオのモードと速度を選ぶのは一般的だが、下部に並んだ“GATE”と“TIE”のランプ/スイッチ群が面白い。これでアルペジオにリズム的な変化を加えたり、任意に音を伸ばすことが可能だ。また“CHORD”というボタンを押すとゲート・エフェクトのように機能する。こうしてできたセッティングはアルペジエイター・セクションの左上にある鍵マークでロックすることができ、アルペジエイターだけセッティングを固定し、プリセットの音色を切り替えることも可能だ。内蔵のインサート・エフェクトはシンセのパラメーターと一体化して音色を作るという考えのものが多く、コーラスやフランジャーなどの位相系からディストーションまで、とても良いエフェクトがそろっている。またモジュレーション・マトリクス(画面①)によって、MIDIコントロール情報やアルペジエイターからエフェクトのパラメーターを動かすこともできる。
▲画面① モジュレーション・マトリクスのセッティング画面。ベロシティやモジュレーション・ホイールから特定のパラメーターをコントロールすることができる。今現在、受信しているデータを赤いグラフで可視化してくれるのが親切 ▲画面① モジュレーション・マトリクスのセッティング画面。ベロシティやモジュレーション・ホイールから特定のパラメーターをコントロールすることができる。今現在、受信しているデータを赤いグラフで可視化してくれるのが親切
前述したように、Lush-101はこれらのセクションがまとまって1つのレイヤーとなっている。レイヤーを8つまとめて管理するのがマスター・ミキサー(画面②)で、ここでは各レイヤーへEQ&コンプを施し、3系統のセンド・エフェクトをかけることができる。
▲画面② マスター・ミキサー画面。一昔前のDAWくらい充実したミキサー部分だ。音を聴いたりパラメーターを見ると、D16 GROUPのプラグイン・エフェクトの技術がここでも使われているのが分かる ▲画面② マスター・ミキサー画面。一昔前のDAWくらい充実したミキサー部分だ。音を聴いたりパラメーターを見ると、D16 GROUPのプラグイン・エフェクトの技術がここでも使われているのが分かる
センド・エフェクトはリバーブ/ディレイ/コーラスと決まっており、それぞれ必要最低限のパラメーターが用意されている。特にディレイはフィードバック成分のフィルターを細かく設定できるようになっており、シーケンス・フレーズなどには便利に使えるだろう。プリセットも豊富だ(画面③)。カテゴリー別にフォルダーで整理されており、バリエーションも多い。複数のレイヤーを駆使したプログラムでは“こんな音も出せるのか”と思う音も少なくない。各レイヤー内の“TIMBRE”という項目でそのレイヤーの音色だけを切り替えたり、前述したようにアルペジエイター部でアルペジオ・パターンだけを切り替えることもできるので、プリセットをいろいろな組み合わせで活用できる。
▲画面③ プリセット・ブラウザー。奇麗にカテゴリー分けされている。サンプルの読み込みも無いので、プリセットをセレクトするとあっという間にロードされる ▲画面③ プリセット・ブラウザー。奇麗にカテゴリー分けされている。サンプルの読み込みも無いので、プリセットをセレクトするとあっという間にロードされる
ソフト・シンセ全盛の昨今、Lush-101は見た目は昔ながらのシンセサイザー然としていて、それほど特徴的ではない。でもROLAND系のアナログ・シンセを使いやすく統合してシミュレートし、さらに複数のレイヤーを組み合わせて素晴らしい音を出すシンセだった。しかしこれだけ高機能だと“重くないだろうか?”と思う読者もいるだろう。実際プリセットをいろいろと選んでいたら、かなりCPUパワーを消費するものもあった。そこでちょっと調べてみたところ、重くなっていたのは各レイヤー上部の“VOICES”にあるユニゾン・モードが使われている音色だった。確かに簡単に分厚い音になるので楽しいパラメーターだが、使い過ぎには注意しよう。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
D16 GROUP
Lush-101
19,530円
▪Mac/Mac OS X 10.6/10.7、INTEL製2.8G Hz以上のCPU(Core i7 3.4GHz以上を推奨、Po werPC非対応)、動作フォーマット:Audio Units/VST(32/64ビット) ▪Windows/Windows XP/Vista/7、2.8GHz以上のCPU(Core i7 3.7GHz以上を推奨)、動作フォ ーマット:VST(32/64ビット) ▪共通項目/1GB以上のRAM(1.5GB以上を推奨)、100MB以上のハード・ディスク空き容量、インターネット接続環境