「ROLAND M-200I」製品レビュー:iPadから操作でき豊富な入出力端子も魅力のPA用32chデジタル卓

ROLANDM-200I
PA用デジタル・ミキサー“V-Mixer”シリーズをリリースしているROLANDから、APPLE iPadをつなげてコントロールできるコンパクト・モデルのM-200Iが登場した。それでは、早速チェックしてみよう。

アナログ入力×24を実装
USBやREACなど拡張性も高い


本機はインプットが32ch、アウトプットはAUX×8ch+マトリクス×4ch+メインL/R(2ch)のバスを持つデジタル・ミキサーだ。ボディは491(W)×198(H)×490(D)mm、重さは9.8kgと非常にコンパクト。本体のアナログ入力は、ヘッド・アンプ搭載のマイク入力×16ch(XLR)と、ライン入力×8ch(TRSフォーン×6、RCAピン×2)が用意されており、計24ch入力となる。アナログ出力はメインL/R(XLR)とアサイナブル出力×10ch(XLR×6、TRSフォーン×4)を装備する。デジタル関係はAES/EBU出力(XLR)を1系統装備。さらにROLANDの定評あるREAC端子も1系統装備し、同社のI/Oなどを増設して64イン/54アウト環境を構築することもできる。またREAC経由では、CAT5eケーブルで接続されたパソコン上でDAWソフトのCAKEWALK Sonar Producer(別売)を併用することにより、マルチトラックによるライブ・レコーディングも可能となる。なお、この場合はREACドライバーのS-RDK(別売)も用意する必要がある。またUSB端子も3つ付いており、後述のワイアレスLAN専用以外にストレージ用とパソコン接続用もスタンバイ。USBストレージをつなげた場合は、その中に入っているWAVファイルの再生のほか、本機からの録音も可能だ。ほかにもRS-232CやMIDI端子も備わっており、さまざまな状況に対応できる。さらに冒頭でも書いたように、M-200IはiPadとの連携を前面に打ち出しており(iPad無しでもLCDディスプレイを見ながらオペレート可能)、本体とは付属ケーブルで有線接続するほか、別売のワイアレスUSBアダプターWNA1100-RLでワイアレス接続にも対応。iPadにi
Tunes Storeから無料ダウンロードできるM-200I Remoteアプリをインストールすれば、本体のほとんどの操作をiPadから行える。この辺は後で詳しくレポートしよう。なお、有線接続時にはiPadのミュージック・アプリの音楽再生も可能となっている。トップ・パネルにはLCDディスプレイと各種ボタン類、そして16本のインプット・フェーダーとマスター・フェーダーがあり、インプット・フェーダーは入力32chのほかAUX、マトリクス、DCAなどを自在にアサイン可能なユーザー・レイヤーも2種類設定できる。また、使用頻度の高い“SENDS ON FADER”セクションは独立したボタン式になっており、各チャンネルからAUXやマトリクス・バスへの送りをフェーダーで調整可能だ。また、マスター・フェーダーの横にはUSERボタンが8個付いており、シーン切り替えやエフェクトのタップ入力の呼び出し、内蔵オシレーターON/OFFなどの設定が割り当てられる。内蔵のEQ/エフェクトに関しては、各入力チャンネルに4バンド・パラメトリックEQ、ゲート、コンプレッサーが備わっており、チャンネル・セレクト・ボタンを押した後、EQ/GATE/COMPボタンをワンタッチすれば即座にアクセスできる。またリバーブやディレイなどのエフェクトを4系統、そしてグラフィックEQも4系統備え、各入出力にインサートまたはセンド&リターンとして使用できる。なお、エフェクトは4系統分のグラフィックEQとしても使え、その際は最大8系統のグラフィックEQの同時使用が可能となる。

色付けが無くストレートな出音
内蔵エフェクトのかかりも良い


ここからは実際に現場でチェックした感想をレポートしよう。今回は、私を含め弊社エンジニアがPAでたまに入らせていただいている下北沢のライブ・カフェ“Com.Café音倉”さんに持ち込んでみた。ここのレジ横にあるコンパクトなPAブースには常設の24chのアナログ卓とアウトボード・ラックがあるが、それらはそのままの状態にして卓横にある小さな台の上にM-200Iを設置。コンパクトな本機だからこそできるセッティングだ。後はケーブルをつなぎ替え、およそ20分で設置完了。続いてiPadの設定だが、Wi-Fi接続用に前述のワイアレスUSBアダプターWNA11
00-RLを挿してみたところiPad側で簡単に認識された。あとはM-200I Remoteを起動し、画面右上のONLINEボタンを押せばリンク完了だ。出音の第一印象は素直でストレートというもの。この日は生ピアノ弾き語り×1組とアコギ&生ピアノ弾き語り×1組のライブだったのだが、メイン・スピーカーのチューニングはiPadを持って客席に座りながら行えてかなり楽だった。モニター・チューニングの際もiPadをステージに持っていって調整。ゲイン/ファンタム電源などヘッド・アンプの操作は簡単に行えるし(画面①②)、モニター送りの設定も“ワンツー”と自分で言いながら設定できる。 
▲画面① iPad用アプリ“M-200I Remote”のチャンネル・エディット画面。ゲイン、ファンタム電源、位相、アッテネーター、ハイパス・フィルターなどインプット関連のパラメーターに加え、センドやダイレクト・アウト、DCAなどの設定が行える ▲画面① iPad用アプリ“M-200I Remote”のチャンネル・エディット画面。ゲイン、ファンタム電源、位相、アッテネーター、ハイパス・フィルターなどインプット関連のパラメーターに加え、センドやダイレクト・アウト、DCAなどの設定が行える
▲画面② チャンネルのパラメトリックEQ画面。4バンド+ハイパス・フィルター構成で、低域と高域はシェルビング/ピーキングを選択可。各バンドは指でなぞって感覚的に設定できるため、現場でスピーディな操作を可能にする ▲画面② チャンネルのパラメトリックEQ画面。4バンド+ハイパス・フィルター構成で、低域と高域はシェルビング/ピーキングを選択可。各バンドは指でなぞって感覚的に設定できるため、現場でスピーディな操作を可能にする
グラフィックEQのポイントを探すときも“何kHzください”とお願いしなくていいし、画面をダブル・タップするとフラットに戻るなどサクサク操作できる。こうしてチューニングは10分ほどで終了した。この日使うインプットは8chだったため、回線表を作らずにステージマンにトラック・ネーム記入済みのiPadを見せ、“こんな感じ”とだけ伝えた。リハーサルでは出演者の横に立ってモニターを設定。リバーブも演者本人と一緒にステージ上で聴きながらiPadで質感や量を相談して決めることができた。ほぼすべての設定がiPadからできるので、卓の前に張り付いている時間がほとんど無い。端から見たら“iPadで何遊んでんだろう”と思われるかもしれないが、この日のリハはステージと客席の往復のみで終了した。本番前になり、iPadとM-200Iとの接続をWi-Fiから有線に変更した。最近よくある2.4GHz帯のトラブルを回避するためだが、試しにWi-Fi接続を切ったときも音が途切れることは無かった。前述したようにiPadが無くとも本体のみで問題無く操作はできるのだが、大きなディスプレイでパラメーター操作ができるのは魅力だし、有線接続に切り替えれば不慮の事故も回避できるため、iPadはぜひ併用した方が良いと感じた。本機は単に“iPadでもコントロールもできます!”という製品ではなく、ユーザー・インターフェースの一部としてまじめにiPadを使うことを考えて設計されていることがうかがえる。実際に本番のサウンドを聴いて、あらためて色付けの少ない卓という感想を持った。デジタルくささが無く、低ゲインでフル・ビットを使い切っていないパートもしっかりした音だ。この辺はROLANDのデジタル技術の成せる業だろう。エフェクトのリバーブもしっかりと効きが分かるもので、楽器の存在が薄まらずに好印象だった。なお、終了後の撤収作業が原状復帰まで含めて15分ほどで完了したことも併記しておこう。このフットワークの軽さは本当にありがたい。 
16〜24chクラスのアナログ卓を使用しているライブ・ハウスやライブ対応のカフェ/バーは、卓を入れ替える際にPAブースのスペース作りに苦労しているはずだ。そんなご時世の中、コンパクトなデジタル卓の普及は大きなメリットである。一方で、動作の信頼性が今一つだったり、操作性が独創的過ぎたり、拡張性が乏しかったりといった面も各社製品に見られるが、そんな中でも“プロが使える音質”とともに低価格でハイスペックな本機の導入を検討する価値は多いにあるだろう。特にiPadのインターフェースも相まって、操作性は完成度がかなり高かった。欲を言えば、AUXバスとグラフィックEQ/エフェクトの数をもう少々増やしてもらえたら、中〜小規模のライブ・ハウスだけでなく、もっと幅広い用途が見えてくるだろう。いずれにしても、このサイズで“使える”ミキサーの登場はうれしい限りである。 
▲リア・パネル。上段は左からAES/EBU出力(XLR)、REAC(RJ45 EtherCon)、LAN(RJ45)、USB×3(メモリー用/ワイアレスLANアダプター用/パソコン用)、RS-232C(D-Sub 9ピン)、MIDI OUT/THRU&IN、Dockケーブル(ミニDIN10ピン)、アナログ入力ch23-24(RCAピン)/ch17-22(フォーン)。中段はアナログ入力ch1-16(XLR)で、下段は中央左からメイン出力L/R(XLR)、アサイナブル出力ch7-10(フォーン)/ch1-6(XLR)が並ぶ ▲リア・パネル。上段は左からAES/EBU出力(XLR)、REAC(RJ45 EtherCon)、LAN(RJ45)、USB×3(メモリー用/ワイアレスLANアダプター用/パソコン用)、RS-232C(D-Sub 9ピン)、MIDI OUT/THRU&IN、Dockケーブル(ミニDIN10ピン)、アナログ入力ch23-24(RCAピン)/ch17-22(フォーン)。中段はアナログ入力ch1-16(XLR)で、下段は中央左からメイン出力L/R(XLR)、アサイナブル出力ch7-10(フォーン)/ch1-6(XLR)が並ぶ
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年4月号より)
ROLAND
M-200I
299,250円
▪入力数/32 ▪バス数/メインL/R、AUX×8、マトリクス×4 ▪出力数/14(REAC使用時は最大54) ▪AD/DA/24ビット、48/44.1kHz ▪周波数特性(48kHz/44.1kHz、アナログ入力端子ch1-24/Input Sens:+4dBu/20Hz~20kH z)/アサイナブル出力端子(ch1~10):-2dB/+0dB(20kΩ負荷、+4dBu時、typ.)、メイン出力端子(L/R):-2dB/+0dB(20kΩ負荷、+4dBu時、typ.)、ヘッドフォン端子:-3dB/+0dB(40Ω負荷、150mW時、typ.) ▪全高調波歪率(48kHz/44.1kHz、アナログ入力端子ch1-24/Input Sens:+4dBu/20Hz~20k Hz)/アサイナブル出力端子(ch1~10):0.05%(+4dBu時、typ.)、メイン出力端子(L/R):0.05%(+4dBu時、typ.)、ヘッドフォン端子:0.05%(40Ω負荷、150mW時、typ.) ▪クロストーク(48kHz/44.1kHz)/アナログ入力端子(ch1-24):−80dB(Input Sens:+4dBu、I HF-A、typ.)、 アサイナブル出力端子(ch1〜10):−88dB(typ.)、メイン出力端子(L/R):−88dB(typ.) ▪ディスプレイ:グラフィックLCD(132×64ドット、バック・ライト付き) ▪外形寸法/491(W)×198(H)×490(D)mm ▪重量/9.8kg