膨大なプリセットを用意したWAVES初のアナログ系ソフト・シンセ

WAVESElement
WAVESというと高品位なミックス/マスタリング・プラグイン・メーカーとして読者の皆さんもご存じかと思いますが、このたび同社初のソフト・シンセElementが発表されましたので、早速レポートしていきたいと思います。

直感的に使えるシンプルなレイアウト
ミックスの中でも存在感のあるサウンド


Elementはアナログ・スタイルのポリフォニック・シンセで、Mac/Windowsに対応し、Audio Units/VST/RTAS/スタンドアローンで使用可能。起動するとそのインターフェースからも分かるように、非常にシンプルな構成となっています。2基のオシレーターをはじめ、フィルター、アンプ・エンベロープ×3、LFO×4と一般的なシンセと同様のもので、あまりのシンプルな作りに本当に音は大丈夫かな?と少し心配になってしまうほどでした。しかし、プリセットを幾つか選んで音を聴いてみるとさっきまでの不安が一気に払しょくされました。まず感じたのがWAVESらしいさすがの音質です。トラック内でさまざまな音源とともにミックスしても埋もれない、アナログ・スタイルのシンセならではの存在感があります。ディレイ/リバーブ/コーラスといったエフェクトも付いており、WAVESが培ってきた技術を感じる滑らかできめ細かいものとなっています。個人的に、ソフト・シンセ付属の空間系エフェクトを使うと音が奥まってしまうと感じることが多々あるのですが、Elementではそういった心配は無さそうです。また、サウンドに存在感を与えるのに重要なディストーション/ビット・クラッシャーといったエフェクトも搭載。ひずみ方に無理な感じがなく、元のサウンドを生かしながら自然にひずんでいってくれるのが印象的です。これら5種類のエフェクトは同時使用が可能で、ツマミでかかり具合を調節できます。

最新の音楽シーンに対応したサウンド
アグレッシブに音色を変えるEQ


サウンド・ライブラリーを探っていくと驚かされるのが、およそ700種類はあるプリセットの数です。これらの膨大なプリセットも“KEY”“BASS”“LEAD”など分かりやすくカテゴリーされていて、欲しいサウンドにすぐアクセスできます。また、その多くがよく作り込まれたサウンドで、どれも即戦力となり得るものとなっています。全体的にElementのサウンド傾向としては非常に“今っぽい”ことも印象的で、現在音楽シーンを席巻中のEDMのような楽曲を作るのにもってこいという印象です。Elementの特徴的なサウンドがいかにして作り出されているのかを探っていくことにしましょう。音の要となるのは前述したオシレーター×2で、それぞれサイン/ノコギリ/三角/矩形(パルス)の4種類の波形と5種類のピッチ・レンジを選択できます。その2つのオシレーターのミックス・バランスは“MIX”フェーダーでコントロールできます。Elementが作り出す複雑な音からは想像できないほどシンプルな設計になっていると言えます。中央右にあるEQセクションを何気なく触っていて気が付いたのですが、本機のEQは音がアグレッシブに変化していくので、通常のEQを操作しているのとは違った感覚がします。4バンド+ハイパス・フィルター+ローパス・フィルターという至ってシンプルな構成なのですが、このEQは本機のサウンドを決定付ける重要なファクターになっていると思います。次にインターフェースの一番下にある16ステップのアルペジエイター/シーケンサーに注目していきたいと思います。各ステップはON/OFFと±24半音までピッチの操作が可能で、最近はやり(?)のアシッド・ベースやアルペジエイターによる複雑なフレーズを簡単に作ることができ非常に便利です。フレーズに変化を付けるパラメーターは一般的にステップ数とゲートの長さぐらいですが、Elementで特筆すべきは“SWING”機能です。これによりフレーズにスウィング/シャッフル感を加えることができ、まるで違うフレーズへ作り変えることが可能です。SWING機能があるシンセはハード以外ではあまり見たことが無いように思います。 今回この原稿を書くにあたってElementの音のみを使用した簡単なデモ曲を作ってみました。音源はSoundCloudにアップしてありますので興味のある方はぜひ聴いてみてください(soundcloud.com/note_factory)。このように即戦力として“使える”ソフト・シンセがこの値段で買えるとあれば、見逃す訳にはいきませんよね。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年4月号より)
WAVES
Element
23,100円
▪Windows/Windows 8(32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Core 2 Duo 2GHz/AMD Athlon 64以上のCPU、4GBのRAM ▪Mac/Mac OS X 10.6.8以上、INTEL Core Duo 2.3GHz、4GBのRAM