音を立体的に分析し編集や抽出/消去を行うオーディオ編集ソフト

SONYSpectralayers Pro
今回はSONYから発表されたSpectralayers Proというソフトのレビューをいたします。これはステレオの音声ファイルの中から、騒音や好ましくないサウンドだけを取ることを可能にするソフトです。その実力や使い勝手を見ていきましょう。

周波数を時間軸で可視化するレイアウト
倍音も簡単に分析が可能


Spectralayers ProはMac/Windowsに対応したスタンドアローンのソフトです。個性的なソフトなので実際に使いながら解説していきましょう。今回テストに使用したのは、1名の女性ナレーションのバックにBGMがミックスされた番組のステレオ音声です。まずはSpectralayers Proを立ち上げ“File”メニューの中から“New Project”を選択します。プロジェクト名を設定して、次に同じ“File”メニューから“Import Layer”を選択し、前述のファイルを読み込みます。すると右下の“Layers”エリアの中に1つのレイヤーが作成され、同時に中央のスペクトラル・ディスプレイに周波数、ボリューム、倍音などがビジュアル化されて表示されます。横軸が時間、縦軸が周波数で、ファイルを再生すると縦のルーラーが左から右に動き、そのルーラーの位置の音声が再生されます。一般的なDAWと同じ感覚ですが、違うところは波形の縦軸は通常ボリュームなのに対して、本ソフトでは周波数となっているところです。倍音なども横線のパターンとして見えるので便利です。

レイヤーごとに音を分析し編集
逆相を利用したユニークな音の消去法


ここでは読み込んだファイルから女性ナレーションを消去したいと思います。この作業の手順としては①消去したい音の抽出、②その音を別のレイヤーに移動、③別レイヤーで抽出された音の位相を逆にする、④元のレイヤーに逆相のレイヤー(=消したい音)を加える、となります。この作業によって抽出した音のみ完全な逆相となるので、お互いの音がキャンセルし合って抽出音が消えるという仕組みです。それでは各ステップを順番に見ていきましょう。まず新しいレイヤーを作り、“voice”と名付けます。すると右下の“Layers”エリアに新しく“voice”と書かれたレイヤーが追加されます。次に、スペクトラル・ディスプレイを見ながら女性の音声を抽出します。これには幾つか方法があり、周波数を選択して抽出、倍音を選択して抽出、ノイズの抽出など、抽出したい音の種類によって使い分けます。今回は倍音を選択して抽出してみましょう。画面左から“倍音の抽出”アイコンを選択するとスペクトラル・ディスプレイに丸型のカーソルが現れるので、それを抽出したい音のエリアに持っていくと白くなるので、その状態でTABキーを押すとその部分のみが再生されます。うまくハイライトされたらダブル・クリック。これで抽出した音が先ほど作った“voice”レイヤーにコピーされます。次に“voice”レイヤーのスピーカー・アイコンのみを有効にして、音声だけを聴いてみます。女性のナレーションの音声に微量のBGMが混ざった音が聴こえます。続いて“voice”レイヤーの位相アイコンをクリックして逆相にします。これで2つのレイヤーを同時に再生すれば、抽出した音が元のファイルと打ち消し合って消えているはず……。実際に同時再生してみると、かなり消された状態でした。再度“voice”レイヤーに戻り、抽出したスペクトラム情報を見てみます。今度はその抽出音をブラッシュ・アップして、より完全にナレーションだけを消してみます。“Eraser”ツールを使うことで、周波数や時間の幅などを細かくエディットすることができるのです。抽出しては元のレイヤーと同時再生してチェックし、アンドゥを繰り返して詰めていきます。これでかなりナレーションを消すことができました。元のレイヤーと新しいレイヤーの音量のバランスも調節でき、これによって音の消え方も随分と変わります。なお画面の表示色は緑が元のレイヤー、黄がそこから抽出したレイヤー、そしてソロ再生のレイヤーは赤色となります。また、色の濃淡を変えることもできるので便利です。今度は音楽ファイルの2ミックスでアンサンブルの中からオルガンの音だけを消去する作業を行ってみます。先ほどと同じプロセスでオルガンの音を抽出し、逆相させて元のファイルに加えます。すると見事にオルガンの音が消えました。完全に分離させるにはさらに細かい調整が必要ではありますが、先述した作業を繰り返して精度を上げてくことは可能でしょう。 音を可視化し、それに対してさまざまな作業を行えるソフトは既に市場にはありますが、ここまで分析的に作業を行うことができるソフトは珍しいと言えます。そしてそれが音楽制作だけではなく、放送用の音処理まできっちり対応できるように作ってあるのは、放送機器に強いSONYならではだな!と感心させられました。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年4月号より)
SONY
Spectralayers Pro
39,900円
▪Windows/Windows 8/7/Vista(すべて32/64ビット)、デュアル・コア・プロセッサー、2GB以上のRAM ▪Mac/Mac OS X 10.6以上、INTELデュアル・コア・プロセッサー、2GB以上のRAM