「ELEKTRON Analog Four」製品レビュー:特徴的なステップ・シーケンサーを搭載する4ボイス・アナログ・シンセ

ELEKTRONAnalog Four
 Analog FourはスウェーデンのELEKTRONによる、その名の通り4ボイスのステップ・シーケンサー付きアナログ・シンセサイザーです。ELEKTRONはこれまで非常に革新的な製品を開発してきました。ELEKTRONの最初の製品であり、心臓部のSIDチップによる唯一無二のサウンドを鳴らしたSid Station、一躍ELEKTRONの名を世界に知らしめ“現代のTR-909”と言っても過言ではないリズム・マシンMachinedrum SPS-1、5種類のシンセシス方式を搭載したデジタル・シンセMonomachine SFX-60、次世代のパフォーマンス・サンプラーを提示したOctatrack DPS-1。どれもこれも既存のカテゴリーに収まり切ることなく電子楽器の地平を切り開いた製品ばかりでした。そして今回のAnalog Fourも、過去の製品と同じように革新性を持ったツールになっています。その詳細を見ていきましょう。

感触の良い16個のトリガー・ボタン
CV/Gate出力の装備も魅力的


まずはルックスから。箱から取り出してみると、Octatrack DPS-1と同系統のブラック・ボディが現れました。ひんやりと冷たいボディも、滑らかな質感のノブも、価格以上の高級感があります。各種情報はLCDパネルに表示され、Machinedru
m SPS-1から採用されているパネル下のトリガー・ボタン×16も健在。このボタンには適度な角度が付けられていますので、ELEKTRON製品の裏技=“ご破算”(グリッサンドのようにタララーと指を滑らすことで、ステップ・シーケンサーを一気にON/OFFすること)もよりやりやすくなっています。さらにボタン類は適度な間隔があるので、操作がしにくかったり、間違って押してしまうことは無いでしょう。リア・パネルの入出力関係を見てみます。アナログL/R出力(フォーン)やヘッドフォン出力(フォーン)、MIDI IN/OUT/THRUなど現代の制作環境で欲しいものは一通り網羅。他の機材の音を本機のフィルターなどで処理できる外部L/R入力(フォーン)もあります。さらに特記すべきは、やはりCV/Gate出力の装備でしょう。ビンテージ・アナログ・シンセの名機や、ここ数年アメリカ/ヨーロッパで人気を博すEurorack形式のモジュラー・シンセなどをそのまま制作環境に組み込めるのは非常にありがたいです。後述しますが、CV/Gate専用のシーケンサー・トラックが用意されているので、前述の外部入力とAnalog Fourの音を本体で混ぜ、新旧入り乱れた奥行きのあるサウンドを作ることも可能です。続いて内部構成を見ていきましょう。本機は大きく分けて、4つの“シンセ・トラック(モノフォニック)”、マスター・エフェクトをコントロールする“FXトラック”、そしてCV/Gateを独立してコントロールする“CV/Gateトラック”から構成されています。シンセ・トラックはAnalog Fourの名の通り、アナログ・コンポーネントで構成されています(写真①)。

▲写真① シンセ・トラックのLCD画面。チューニングはもちろんのこと、波形選択、サブオシレーターのON/OFF、デチューン機能、PWMのスピードなどを調節できる ▲写真① シンセ・トラックのLCD画面。チューニングはもちろんのこと、波形選択、サブオシレーターのON/OFF、デチューン機能、PWMのスピードなどを調節できる
まずオシレーターですが、1つのボイスに対し、2つのアナログ・オシレーターとノイズを用意。オシレーター波形は基本的なもの(ノコギリ、矩形、パルス、三角)を網羅するだけでなく、外部入力をオシレーター・ソースとして指定したり、フィルター・フィードバックを使用することもできます。また2つのオシレーターそれぞれにサブオシレーターも装備。もちろんオシレーター・シンクやビブラートなど細かな設定も可能です。フィルター・セクションでは、1つのボイスに対してアナログ・フィルターを2つ使用することできます。1段目は4ポールのローパス・ラダー・フィルター。こちらのフィルターは積極的な音作りというよりも、後段のマルチフィルターを見据えた微調整のような使い方が基本だと思うのですが、何とここにオーバードライブも搭載されていて、そのさじ加減で強烈な存在感を出すこともできます。そして前述の通り、後段には大胆な音色加工が行えるマルチフィルターがあり、1ポール/2ポール/4ポール・ローパス、1ポール・ハイパス、バンドパス、バンドストップ、ピークという7種類を搭載してるので、用途に応じて絶妙な変化が付けられます。個人的には1ポールの緩やかなフィルターをセレクトできるのは最近の音作りに有利な気がします。また3基のエンベロープや2基のLFOといったモジュレーション類も、かゆいところに手の届いた素晴らしい出来です。特にアンプ用×1基、フィルター/アサイナブル用×2基をそろえたエンベロープはシェイプを細かく設定することができ、用途によってその形を変えていくことが可能です。シンセ・ラインを作成するときとパーカッションを作るときでは必要なエンベローブ・シェイプは違いますから、これは大変便利。“exponential”から“Linear”まで幾つもの形を選択することが可能です。個人的にすべてのシンセにあってほしい機能なので、これはとてもうれしい!FXトラックにはセンドでかけられるデジタル・エフェクトが用意されており、コーラス、ディレイ、リバーブがスタンバイ。これらは複雑なサウンドでも埋もれずにかかるクオリティなので、積極的に使えると思います。またCV/GateトラックはA〜Dの4種類のパラメーター・コントロールに対応しており、先述のCV/Gate出力からアウトプットすることができます。

再生を止めず作業できるシーケンサー
時間的なパラメーター変化も記録可能


そしてELEKTRONと言えば、現代の製品の中でも最高峰とも言えるシーケンサー無しでは語れません。各トラックに最大64のステップ・シーケンサーが用意され、出音を止めること無くノートの打ち込みが行えます。しかも16のトリガー・ボタンによるグリッド・レコーディング・モードに加えて、パネル右側にあるキーボード・ボタンをリアルタイムに弾いてのライブ・レコーディング・モードも用意(外部MIDI鍵盤からの入力にも対応)。さらに、ノート以外の各種パラメーターをDAWのオートメーションのようにコントロールできるパラメーター・ロック機能が搭載されており、動きのあるサウンド作りが可能。これは本当に白眉の出来です。ここからは実際にトラックを制作しながら見ていきましょう。今回はちょっとディープなテクノ・ループを作りたいと思います。まずはベース・ラインを作成し、ローパス・フィルターでこもり気味に。これをリバーブに送って少し過剰なセッティングにしてみます。ここではリバーブの長い減衰が重なって、ほとんどノイズのような状態。これをFXトラックのパラメーター・ロック機能を使って、ベース・ラインのリズムに合わせてON/OFFさせてみます……おお、野太いベース・ラインに合わせて、ノイズのように現れるリバーブの減衰具合がカッコいい暗黒グルーブを演出してくれます。さらにFXトラックでこのリバーブのパラメーターを時間的に動かして抑揚を付けてみましょう。拍裏でプリディレイのタイミングを変えて、それとは別のタイミングでディケイを伸ばして……ループ・エンドに向かってリバーブに付いているシェルビング・フィルターのフリケンシーを変え、タイミングによってリバーブの明暗が変わっていくように設定してみます。1つのシンセ・トラック+FXトラックでこれだけのグルーブが生まれましたが、もう少しリズム的な要素が欲しいので、ノイズへ非常に細かいカーブのアンプ・エンベロープをかけてグリッチ・パーカッションのようなサウンドを作成。シーケンサー上の設定で細かくパンも振ってみましょうかね。サウンドが少し低域に偏ってきたので、今度は高域の要素を新しいシンセ・トラックで作ってみましょう。こちらは少し面白い効果として鳴ってほしいので、シーケンサーのステップ数を“17”に。64ステップで回るほかのトラックとズレて鳴ることで、ランダムな効果が出て非常に面白いです。さらにアルペジエイター(各トラックに装備/写真②)をアクティブにして、1つのステップで複雑な動きをするように設定。このステップ・シーケンサーとアルペジエイターの組み合わせは非常に興味深い効果を生んでくれます。アルペジエイターによって意図しない変化や新たな発見が生まれるので、アイディア出しや特徴的なシーケンスの構築に非常に有用です。素晴らしい出来!
▲写真② 各シンセ・トラックに付いているアルペジエイターのLCD画面。アップ/ダウン/ランダムといったパターンのほか、オクターブ・レンジ、レガート、レングス設定も可能 ▲写真② 各シンセ・トラックに付いているアルペジエイターのLCD画面。アップ/ダウン/ランダムといったパターンのほか、オクターブ・レンジ、レガート、レングス設定も可能
さて、ここまで作ったフレーズをさらにディレイで飛ばして……なんだか凶悪なリズムになってきました。最高です。キックも欲しいなあと思ったので、余ったシンセ・トラックにキック音色を呼び出してアサイン。簡単に4つ打ちにしてみるとこれまたカッコいい! ベースとリバーブのアタックのモタりにキックのディケイが重なって、若干シャッフルしているように聴こえてきました。楽しい! ここは前半はキック無しのリズムで拍を混乱させてから、ブレイクから帰ってくるところで一気に4つ打ちがオープンする構成で……どんどん妄想が膨らみます。と、ちょっと触って原稿書きに戻るつもりでしたが、気が付いたら朝の6時になっていました(実話)。これ一台でここまで音作りに没頭できてしまうのは、本機のアナログ・サウンドはもちろん、シーケンサーや操作系の出来や、“音を止めずにそのまま打ち込める”という部分にあるのでしょう。ELEKTRONは、きっと開発者全員がミュージシャンなんじゃないかと思います。これまでのEL
EKTRON製品と同じように、OSアップデートで積極的に機能の改善や追加を行ってくれると思うので、購入後もオフィシャルWebサイトはぜひチェックしてみてください。 
▲リア・パネルの入出力端子は、中央左からUSB2.0(MIDI信号の送受信に使用)、MIDI THRU/OUT/IN、CV/Gate出力×2(フォーン)、外部入力L/R(フォーン)、アナログ出力(フォーン)、ヘッドフォン(フォーン)。なお、MIDI THRU/OUTはDIN Sync出力も兼ねている ▲リア・パネルの入出力端子は、中央左からUSB2.0(MIDI信号の送受信に使用)、MIDI THRU/OUT/IN、CV/Gate出力×2(フォーン)、外部入力L/R(フォーン)、アナログ出力(フォーン)、ヘッドフォン(フォーン)。なお、MIDI THRU/OUTはDIN Sync出力も兼ねている
サウンド&レコーディング・マガジン 2013年4月号より)
ELEKTRON
Analog Four
103,950円
▪ボイス数/4▪トラック数/シンセ・トラック×4、FXトラック×1、CV/Gateトラック×1▪シンセ・トラック構成/オシレーター×2、サブオシレーター×2、ノイズ・ジェネレーター、ラダー・フィルター(オーバードライブ付き)×1、マルチモード・フィルター×1、アンプ(エンベロープ付き)×1、アサイナブル・エンベロープ×2、LFO×2▪最大シーケンス・ステップ数/64(1パターンにつき)▪外形寸法/340(W)×63(H)×176(D)mm▪重量/約2.4kg