「MACKIE. SP260」製品レビュー:多彩な状況に対応できる2入力/6出力のスピーカー・プロセッサー

MACKIE.SP260
筆者の立場的に、よく会場のPAさんから“何を変えれば音が良くなりますか?”とアドバイスを求められます。そんなとき付いて回る“予算が無いので新しい機材は1つだけ”という条件を考えると、多くの場合プロセッサーは重要なポイントになってきます。今回は世の中に定着しているデジタルの利点を生かしたスピーカー・プロセッサー、MACKIE. SP260を見ていきます。

自由度の高いEQやディレイを用意
5種類のモードにより素早く設定


今回チェックするMACKIE.はミキサーからスピーカーまで優秀な機器を発表し続け、読者の皆さんの中にもきっと同社の製品のお世話になっている方がいらっしゃるでしょう。今回ついに同社から1UタイプのプロセッサーSP260が登場しました。これを導入することにより、より洗練されたシステムの構築が可能になるでしょう。本機は入力×2(XLR)、出力×6(XLR)を備え、同価格帯では実現が不可能だった120dBというダイナミック・レンジにより、業界でも屈指の音圧を可能にしています。さらに24ビットのAD/DAコンバーターとDSPエンジンを搭載。ハイファイで高品位なサウンドが期待できます。本機は、パッシブ・スピーカーやパワード・スピーカーなどスピーカー・システムごとに最適なプロセッシングが行えます。すべての入出力には自由度の高いEQやクロスオーバー、ディレイ、リミッターの設定ができるので、どんなスピーカーでも、素早く最適なプロセッシングを行い、システムの音質や安全を確保することが可能です。また5種類のモードにより、6系統の出力を考慮した素早いセッティングが行えて便利。多様なルーティングが行えるフレキシブルな入出力は移動用/設備用とすべての現場に対応できるでしょう。もちろん調整した設定はユーザー・メモリーに保存できます。外観を見ていくと、フロント・パネルには各入出力のミュート兼エディット用のスイッチ、ゲイン・コントロール、7段階に分かれたレベル・メーターを装備。リアには入出力端子があるだけで、かなりシンプルな作りになっています。

密度が高く自然な再生音
コンピューターでのコントロールも可能


それではサウンドをチェックしていきます。今回のチェックには18インチのパッシブ・サブウーファー×2と15インチのアクティブ・ハイボックス×2を準備したので、設定から“2×Stereo+Sub”をチョイス。初期設定ではサブウーファーの出力がサミング・モノになっているので、今回はサブウーファーをステレオに切り替え、各スピーカーの推奨クロスオーバー周波数を調整していきます。SP260を使うと、こうした作業が実に簡単かつ細かく設定できます。出力には極性、ゲイン、最大600msのディレイ、各帯域でシェルビング/パラメトリックを選択可能な7バンドEQとリミッターを装備。入力にも帯域ごとにシェルビング/パラメトリックを選べる5バンドのEQを使用でき、細かいシステム調整が可能です。もちろんL/R設定や帯域同士のリンクも可能で、プロセッサーのキモとなるクロスオーバーの設定は周波数が可変なのはもちろんのこと、フィルター・スロープの種類はバターワース、ベッセル、リンクウィッツ・ライリーの3種類から6/12/18/24dB/octの選択が可能です。当然ロック機能もあるので、せっかくの設定をうっかりいじってしまう事故も未然に防げます。設定を終えてリファレンスCDをスピーカーから鳴らしてみると、いつもはロック寄りなサウンドで鳴っていたスピーカーの音の重心が少し下がり、引っ掛かりもなく高音まで非常に奇麗に伸びています。音が自然に再生されている感じがハイスペック機をほうふつとさせて好印象です。続いてちょっと特殊な方法でチェックしてみます。プロセッサーをミキサーのマスターにインサートし、本機の設定はロー/ハイ共にフィルターをOFF。つまりフル・レンジの状態にして信号をスルー・アウトさせ、本機を“通す”だけにします。これにより、インサート・スイッチをON/OFFにするだけで音質変化がダイレクトに分かるというわけです。聴き比べた結果、本機を通すルーティングではサウンドの密度が上がり、細かいニュアンスが如実に出てきました。AD/DAコンバーターの質の良さがこの結果を生み出すのでしょう。“音質は向上させたいけど、今までのシステムは変えたくない”という場合も、スプリッターとして導入するという使い方をしても良いのではないでしょうか?なお、フロント・パネルに用意されたUSB端子をコンピューター(Windows)に接続し、別途ダウンロード入手できる専用のコントロール・アプリケーションで簡単にシステム制御を行うことも可能です。アプリケーションはシンプルで入力から出力までの一連の流れが分かりやすくレイアウトされています。 今回チェックしてみて、本機が同価格帯の製品の中でもかなり優秀であることが分かりました。今年に入って既にシステム・プラニングを頼まれたライブ・ハウスもありますので、早速本機を試してみようと思います(既に見積もりに入力済みです!)。 ©Earl Harper▲リア・パネルは左から電源スイッチ、ACインレット、メイン・リフト/グランド・スイッチ、出力(XLR×6)、入力(XLR×2) (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年3月号より)
MACKIE.
SP260
81,900円
▪最大入出力/2イン、6アウト▪最大出力レベル/+21dBu▪最大入力レベル/+20dBu▪サンプリング・レート/24ビット、48kHz▪周波数特性/20Hz~20kHz(±0.2dB)▪ダイナミック・レンジ/120dB▪同相信号除去比/58dB未満▪全高調波歪率/0.004%未満(20Hz〜20kHz)▪消費電力/40W▪外形寸法/483(W)×46(H)×229(D)mm▪重量/2.6kg