Cubase 7上でシームレスに“ボカロ”の打ち込みを可能にするソフト

YAMAHAVocaloid Editor For Cubase
 今回ご紹介するVocaloid Editor For Cubase(以下、VEC)は、STEINBERG Cubase 7/Cubase Artist 7にVocaloid Editor機能を付加するWindows用ソフトウェアです。筆者は10年以上Cubaseを使用してきましたが、実のところVocaloidに関しては全く触ったことがありません。そこで、今回は“今までのVocaloid Editorとはここが違う!”“こんな進化をした!”という形ではなく、“Cubaseは持っているけどVocaloidは触ったことがなく、Cubaseで簡単に使えるなら使ってみたい”という方を対象として書き進めてみたいと思います。

VECは16trまで立ち上げ可能
複数の歌声ライブラリーも使える


まずは、そもそもVocaloidとはなんぞやというところからスタートしたいと思います。VocaloidはYAMAHAが開発した音声合成技術/ソフトウェアで、大別して以下の3つの要素から構成されます。
①メロディのMIDI入力を行うユーザー・インターフェースの“スコア・エディター”
②スコア・エディターに入力された情報を元に音声合成を行う“合成エンジン”
③合成エンジンが音声合成の際に参照する音声データ・ベースの“歌声ライブラリー”(『初音ミク』など)

基本的に①+②の最新版であるVocaloid 3 Editor(9,800円)は、別売の③と組み合わせて使用します。つまり、スタンドアローンのVocaloid 3 Editor上にメロディを打ち込んで、歌声ライブラリーに歌わせるというのが“ボカロ”の制作工程です。
さて今回のVECは、上記の①スコア・エディターと②合成エンジンをCubase内で使えるというもので、中でもMIDI入力に関しては既存のスコア・エディターだけではなく、Cubase内の強力なMIDIエディターも使用可能。要するに、本製品は“CubaseにVocaloid 3 Editorをくっつけちゃいました”というものです。なので、本製品を使用する際には歌声ライブラリーを別途購入する必要があります。
まずはインストールからスタートしましょう。筆者のWindowsパソコンには既にCubase 7がインストールされている状態です。インストーラーを立ち上げて、典型的な画面の指示に従ってポチポチと。途中32ビット版か64ビット版かの選択項目が出てきますので、使用環境に合わせて選んでください。
またアクティベーションがCubaseでおなじみのeLicencerではなく、パソコン内部のシステム・ディスクあるいはNIC(Network Interface Card=LANカードなど)にひもづく方式となっています。機器ごとに固有のIDを持っているのでこうしたことが可能なのですが、気をつけていただきたいのはシステム・ディスクを入れ替える予定がある場合はLANカードをアクティベート対象にした方がいいですし、将来的にLANカードを高速なものに入れ替える場合はシステム・ディスクを対象にすべきでしょう。
ちなみにインストール中に表示されるVECのロゴが、ちょっとミクさんツインテールっぽい気がして良いです。歌声ライブラリーに関しても、上記と同じような手順でインストールできます。これらをインストールした後にCubaseを開いてみると、パッと見た限りでは主だった変化はありません。
VECを使用するためには、まずインストゥルメント・トラックを作成し、現れたダイアログの中から“VOCALOID Inst”というプラグインを指定しましょう(画面①)。
Vocaloid-2013ga1
画面① Cubase 7でVECを使う際は、インストゥルメント・トラックを立ち上げるときに“VOCALOID Inst”を選ぶ。そして、そのトラックにMIDIリージョンを置いて“VOCALOIDエディターを開く”を選択すれば、画面②のようにスタンドアローン版に近いVECのスコア・エディターが現れる

これでVECを使用する準備はOK。なおVECは16トラックまで作成できますので、最大で16声のハーモニーを作ることが可能です。もちろん1トラックずつ違う歌声ライブラリーをアサインできるため、歌声ライブラリーを複数お持ちの方はその分だけ混声メロディを作成することができます。

VECとCubaseのMIDIエディター
両方からメロディ編集へアクセス可能



今回はちょうど歌入れ前のトラックがあったので、生の仮歌代わりにVECを使用してみたいと思います。先ほど作ったインストゥルメント・トラックにメロディ・ラインを打ち込んでおいたMIDIリージョンをコピーします。そして再生してみると……歌詞の入力はまだしていないので“あ”でメロディ・ラインをなぞっているだけなのですが、しっかりボカロの声で歌ってくれます。もっと大変だと思っていましたが、思いのほか簡単にできますね。
次にメロディをエディットしてみましょう。先ほどコピーしたメロディのMIDIリージョンを選択した状態でメニュー・バーの“MIDI”を開いてみると、そこには見慣れぬ“VOCALOIDエディターを開く”の項目が。これを開くと、Vocaloid Editorのスコア・エディターが開きます。このスコア・エディターでは音符の入力/歌詞の入力に加えて多数のVocaloid固有のパラメーターがエディットできるようになっています。
これらは発声に関する事柄を指定するもので、シンセサイズ的なものとは一線を画します。子音の長さや発音の大きさ、発音に含有される息の量、明暗、透明さ、明りょうさ、フォルマントなどなど非常に細かな設定が可能となっています(画面②)。Vocaloid-2013ga2
画面② VECのスコア・エディター。ピアノロールに対してノートと歌詞の打ち込みが行えるほか、左下に用意されたパラメーターで、音色の明暗、息の量、透明さ、明りょうさ、フォルマントなどのコントロールができる

これらのパラメーターの詳細な入力はVocaloidを上手に歌わせるために必須のものと言えますが、Vocaloidにはこうしたパラメーター入力を補佐するJobPluginというプラグイン規格があり、VECでも将来的な対応が予定されているようです。1つ1つのノートに歌詞を設定してベタ打ち(前述のパラメーター編集をしていない状態)してみると、今度は歌詞もちゃんと歌ってくれました。
詳細にパラメーターを追い込んで思い通りに歌声をコントロールするためにはやはりスキルが必要となってきますが、基本的な打ち込みは非常に簡単なので、従来のワークフローの中にも無理なく導入できそうです。いつも使っているCubaseのショートカットを併用しながら、違和感なく作業できたのも特筆すべき点でした。また、ここまではVECのスコア・エディターを使用しましたが、次は使い慣れたCubaseのMIDI画面を使用してみたいと思います。先ほどのMIDIパートをもう一度選択し、今度はおなじみCubaseのキー・エディターで開いてみます(画面③)。
Vocaloid-2013ga3
画面③ VECのスコア・エディターで打ち込んだデータは、Cubaseのキー・エディターでも開くことができる。ノートの移動はもちろん、音色パラメーターもCCのカーブとして表示/編集が可能となる

するといつも通りの画面ながら、拡大してみると1つ1つのMIDIノートに歌詞の発音が割り振られていることが分かります。ここで歌詞を確認しながらノートをエディットすることができるというわけです(画面④)。
Vocaloid-2013ga4
画面 キー・エディターのノートには何とVECで打ち込んだ歌詞を表示可能! Cubase内の使い慣れたショートカットを駆使しながら、VECのノート編集が行える

また、前述の各種Vocaloidパラメーターも従来のコントロール・チェンジ・レーンで設定できますので、Cubaseの操作感のままVocaloidの打ち込みをほぼフルにこなすことができます。

個人的な感触としては、パラメーターなどの音声エディットはVECのスコア・エディター、ノート自体の移動やハモ・ラインの作成など楽曲全体を見ながらの作業はCubaseのキー・エディターが使いやすいかなと思いました。もちろん、どちらのエディターを使っても編集元のデータは一緒なので、完全に統合された環境だと言えます。
最後に注意点なのですが、VECの対応サンプリング・レートは44.1/48/96kHzとなっています。これ以外の環境で作業をされている方はあらかじめプロジェクトのサンプリング・レートを変換する必要があります。 Cubaseは映像ファイルを読み込んで、それをガイドに楽曲を制作することも可能となっており、動画投稿サイトなどにVocaloid楽曲の映像を公開したい場合もプロ・クオリティで作業が可能です。Cubase+VECは、楽曲制作からミックス、マスタリング、さらにはMAまでをこなすことができる、Vocaloid曲制作の総合環境と言えるでしょう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2013年3月号より)

YAMAHA
Vocaloid Editor For Cubase
オープン・プライス(市場予想価格/ 10,000円前後)
▪Windows/Windows 7(32/64ビット)/8(32/64ビット)、INTEL/AMDデュアル・コアCPU、2GB以上のRAM、200GB以上のハード・ディスク空き容量、Windows版STEINBEG Cubase 7/Cubase Artist 7でのみ使用可能(※Cubase 7/Cubase Artist 7および歌声ライブラリーの動作環境も別途確認の必要あり)