音楽的なサウンドの3バンドEQ
自然な効きのワンノブ・コンプも装備
本機は16入力(モノラル×8ch、ステレオ×4系統)、2系統のAUX、さらにデジタル・エフェクトを内蔵したアナログ・ミキサー。ちなみに12入力のMGP12X(81,900円)もラインナップされています。実際に使用してみて、筆者が興味を感じたポイントは以下の通りです。①新たにチューニングされたマイク・プリアンプ"D-PRE"を10ch分搭載②ビンテージEQのような音楽的で扱いやすい特性の"X-pressive EQ"を全チャンネルに装備③1つのツマミだけで簡単設定できる"1-Knob Comp"を全モノラル・チャンネルに装備④リバーブとマルチエフェクトの2系統のデジタル・エフェクトを内蔵⑤ステレオ・ハイブリッド・チャンネルと呼ばれるch13-14とch15-16は、内蔵DSPによってPriority Ducker/Leveler/Stereo Imageの3種類のデジタル・エフェクトを使用可能⑥APPLE iPhone/iPod/iPadをUSB接続でき、オーディオ出力を2TR INとch15-16にアサイン可能⑦内蔵エフェクトやステレオ・ハイブリッド・チャンネルのDSPエフェクトのパラメーターを、専用のiOSアプリ"MGP Editor"でコントロール可能それでは上記のポイントを順番にチェックしていきます。まずは音の入り口としてミキサーで一番重要な部分であるマイク・プリアンプの①D-PREから。コストや省スペースを優先させてICチップ(オペアンプ)を使うようなことはせずに、あくまで音質重視のインバーテッドダーリントン回路を採用しているそうです。肝心の音色はレンジが広く、このサイズのミキサーとは思えない艶のあるサウンドで、特に中低域の情報量の多さに特徴があると感じました。このD-PREプリアンプは8本のモノラル・チャンネルと、ch9-10、ch11-12のステレオ・チャンネル(プリアンプ使用時はモノラル)に搭載され、最大10本のマイクを入力可能。ファンタム電源、PAD、ローカットもチャンネルごとに設定できます。続いて、今回特に気に入ったのが3バンドの②X-pressive EQです(写真①)。過激にブースト/カットしても何だかうまくまとめてくれる、良い意味でザックリ操作できるEQで、ツマミをいじるのが楽しくなります。あえて1つ注文をつけるとすれば、ON/OFFスイッチが欲しいという点ぐらいでしょうか。同社がデジタル・エフェクターの開発時にビンテージEQを解析し、その結果に基づいて設計されたモダンなアナログEQということで、その生い立ちもユニークです。 感心したのが③1-Knob Comp。名前の通りイージー・オペレーションのコンプレッサーですが、実によくできています。LEDの点灯によりコンプのかかり具合が把握しやすく、歌やアコギ、パーカッションなどのレベルを整えるのにちょうど適したナチュラルなコンプ感が得られます。かかりの深さに応じてレベルも自動的に上がる設計なので、ビギナーにも親切です。このコンプやEQを操作していると、ミキサー内に流れる信号をダイレクトに操作している、という当たり前のことがリアルに感じられます。そのダイレクトな感触はこのところ疎遠になっていた"アナログの良さ"の1つなのかもしれません。
製作者の心意気を感じさせる
ワンランク上の製品に肉薄する音質
④に関しては、Rev-XとSPXという定評のある2系統のエフェクト・プログラムを内蔵しているのがトピック。この価格帯のミキサーにこれらのエフェクトを内蔵できるのは技術的な資産を持つメーカーの強みで、この点だけでもかなり大きなアドバンテージがあります。Rev-Xはリバーブに特化し、SPXはリバーブ/ディレイ/コーラス/ラジオ・ボイスなどを用意。ディレイ・タイムを設定するための専用タップ・ボタンが装備されているのも便利です。チェック中に内蔵エフェクトのリターン・ノイズが少々気になったのですが、そもそも全くノイズの無いディレイ/リバーブ系のハードウェア・エフェクターは存在しないので、自分の耳がDAW環境に慣れ過ぎて過敏になっていたせいもあるでしょう。⑤ステレオ・ハイブリッドチャンネルはユニークな機能で、マイクからの入力(ch8のみ)があると、BGMなどを入力したch13-16のレベルが自動的にダッキングしたり(Priority Ducker)、設定したレベルに入力音を自動で均一化する(Leveler)などの効果が得られます。録音やライブというよりは、店舗などの音響設備やイベントのPAなどで使用するときに便利な機能です。iPhone/iPod/iPadの音楽をUSB接続で2TR INと15/16chにアサインできる⑥はとても便利。しかもUSB経由で充電もできます。ただ2TR INにアサインした際、ツマミを絞りきっても少々音漏れがあった点が気になりました(これはチェックした個体だけかもしれません)。また無償で提供されているiPhone/iPod/iPadアプリの⑦MGP Editorを利用すると、Rev-X/SPX/Priority Ducker/Levelerの4種類のエフェクトの細かな設定がiPhone/iPod/iPadから行えます(画面①②③)。例えばディレイの場合は本体のツマミで調整できるのはタイムのみで、フィードバックなど多数のパラメーターはMGP Editorを利用しないと調整できないのでiPhone/iPod/iPadは必携アイテムです。もちろん本体とのデータの送受信はUSB経由なので簡単確実で、マニュアル無しでもすぐに使えるでしょう。変更したパラメーターはエフェクトを切り替えてもプログラムごとに保持されるので、ライブなどで曲や場面に合わせたセッティングを用意し、切り替えながら使用することができます。 個人的にはフェーダーやツマミなど指が触れる部分の材質/剛性のクオリティ・アップや、多少サイズが大きくなってもいいからレイアウトに余裕を持たせた作りにしてほしいなど、ぜいたくな要望もあります。しかし音質を優先してコストを抑える選択として、こうしたツマミなどのパーツ選定は正解だとも思います。"安くてしかも良いものを"という心意気が感じられます。とはいえ、最近の機材の低価格化には目を見張るものがあり、中でもミキサーは多チャンネルで低価格な製品が多数リリースされる激戦区。そういう意味では、前身モデルである16chアナログ・ミキサーMG166Cと比べても本機は約4万円ほど高く、少々割高感があるかもしれません。しかしMGP16Xの最大の魅力は、チャンネルあたりの単価の安さや多くの便利な機能などではなく、その価格差を納得させるほどのハイクオリティなサウンドなのです。それは同じ価格帯はもちろん、ワンランク上の価格帯の製品をもしのぐものです。プレミアムを意味する"P"を型番に付けたところにメーカーの自信と意気込みがうかがえます。レコーディングや小中規模のコンサート/イベントのPAはもちろん、店舗などの固定音響設備としてもお薦めできるコスト・パフォーマンスの高い製品です。また操作の分かりやすさとサウンド・クオリティ、そして作業の楽しさも備えているので"初めてのミキサー"としてビギナーの方も安心して使うことができるでしょう。