「PIONEER Remix Station RMX-1000」製品レビュー:直感的な操作性で楽曲にアクセントを加えられるDJ用エフェクター

PIONEERRemix Station RMX-1000
 DJ機器のマーケットをリードし続けているパイオニアが、またしても話題騒然の新製品を投入! DJエフェクターであるRemix Station RMX-1000(以下RMX-1000)は、"リミックス・ステーション"とメーカーが名乗る通り、DJプレイのパフォーマンスの可能性を高めるエフェクター。製品コンセプトからクラブ/ライブ・ハウスといった現場での使用はもちろん、スタジオでの作業にも一石を投じることになりそうです。僕は過去に本誌で数々の同社製品をレビューしていますが、それら同様本機も試用前からワクワク感でいっぱいです!

視認性の良い発光ボタンと大きなツマミ
トラックを操る4つのセクション


まずサイズについては、横幅が334mmで、奥行きが157mmと小さく、DJミキサーの手前に置くとうまく収まりそうな印象です。光沢のある表面パネルからは高級感が伝わってきます。"とにかくこれ触って!"と言わんばかりの真ん中横一列に並ぶ4つのツマミが印象的。同社のDJエフェクターEFX-500やEFX-1000ではツマミ自体小さく、大きなジョグ・ダイアルは直感的でありながらも、筆者的にはあまりいじる機会がありませんでした。しかし、本機では存在を主張するツマミが見た目通りの活躍をしてくれそうです。入出力はフォーンとRCAピンがそれぞれステレオで用意されており、どちらか1系統を選んで接続します。では一体これで何ができるのか、順番に見ていきましょう。本機には機能ごとにまとめられた4つのセクションがあります。まず本体の右半分ほどを占める円形部分がSCENE FXで、計10個のエフェクトと2つのサブパラメーターの組み合わせにより、楽曲に展開を付けます。続いてSCENE FXを境に左側、シルバーのパネルに囲まれた部分がISOLATE FXで、周波数帯域別にリズムや音色を変更します。そして左半分の下部はX-PAD FXで、タッチ・パッド操作でリズムやサンプル音などが追加可能です。最後に右端のレバー部分がRELEASE FXで、レバーを倒してエフェクト音と同時に楽曲の音を消すことができます。●SCENE FXここには10種類のエフェクトが用意されています。そのエフェクトのうち、円に沿って上段に並ぶ5個がBUILD UP(音追加系)、下段の5個がBREAK DOWN(音カット系)に分類され、前者が盛り上げる展開に、後者がブレイクを入れるような展開を作り出します(写真①)。BUILD UPのボタンにはホットな赤色、BREAK DOWNにはクールな青色のライトが使われていて、ボタンの選択と同時に中央のツマミ部も同じ色に光るので、プレイ中でも自分がどちらの傾向のエフェクトを選択しているのかスピーディに把握することができます。このエフェクト類は、フィルターを通したエコー、フィルターを通してエコーをかけたノイズ、音程を変えるスパイラル、音程を変えるリバーブなどで、同社のDJミキサーDJM-900 Nexusに搭載されていたSOUND COLOR FXとBEAT EFFECTの合わせ技的なものが選ばれているようです。DJM-900 Nexus発売以降、世界中のDJからフィードバックされた使用法を基に構成したものじゃないでしょうか? 個人的にもDJM-900 Nexusでは、プレイしていないチャンネルにノイズを割り当てた上、そのチャンネルだけにエコーをかけてノイズのキレを演出するという設定を煩雑に感じていたので、最初からノイズにエコーがかかっている本機の設定はうれしいところです。DJプレイにおいては、このSCENE FXが最も使用頻度の高いものとなるでしょう。 0218-1▲写真① SCENE FXセクション。上の赤い文字部分がBUILD UPと呼ばれ、音を重ねたり、盛り上がりを作るためのエフェクト類。左からBPF ECHO(バンドパス・フィルター+エコー+モジュレーション)、ECHO(エコー+フィルター)、NOISE(フィルター+ホワイト・ノイズ+モジュレーション+エコー)、SPIRAL UP(エコー+ピッチ・シフト・アップ)、REVERB UP(リバーブ+ハイパス・フィルター)の5種類。下方の青い文字部分は、BREAK DOWNと呼ばれ、音を削りブレイクを作るエフェクト類。左からHPF ECHO(ハイパス・フィルター+エコー+モジュレーション)、LPF ECHO(ローパス・フィルター+エコー+モジュレーション)、CRUSH ECHO(ビット・クラッシャー+エコー+モジュレーション)、SPIRAL DOWN(エコー+ピッチ・シフト・ダウン)、REVERB DOWN(リバーブ+ローパス・フィルター)●ISOLATE FXDJミキサーで、周波数帯域ごとに音を完全にカットしたりブーストしたりするアイソレーターを使う要領で、音を加工することができます。大きめのツマミ(LOW/MID/HI)の上部には、4種類のエフェクトがあり、左からISOLATORはそのままアイソレーターとして、CUT/ADDでは左回しでキックの音だけをミュートしたりフィルターを使った音量調整、右回しで周波数帯域別のマルチタップ・ディレイを加えます。TRANS/ROLLでは左回しで設定した拍に合わせて再生音をカットし、右回しでループさせます。GATE/DRIVEでは左回しで周波数帯域別に設定値よりも低い音量の再生音をカットし、右回しでひずませます。●X-PAD FXタッチ・パッドの操作で、曲のテンポに合わせて音を追加していくリズム・マシン/サンプラー的なエフェクトです。内蔵音源はキック、スネア、ハンド・クラップ、ハイハットの4種類で、リアルタイムでプレイすることも、OVERDUB機能でシーケンスを組むことも可能。ジェフ・ミルズがDJプレイにROLAND TR-909をミックスするような作業をいとも簡単にこなします。KICKの左にあるROLLボタンを押せば、再生中の音がサンプリングされロールのようにループできます。また後述のソフトRemixboxを使って、オリジナルのサンプリング音を1バンクにつき4種類入れたものを計4バンク用意でき、それらはSDカードに入れてロードし再生することが可能です。同社が長年培ってきた正確なテンポ検出機能のおかげで、事前に吟味し用意しておいたオリジナルのサンプリング音を、DJプレイ中に正しくシンクした形でプレイできるというシンプルな環境が、ここでいよいよ実現することになりました。●RELEASE FX右端にあるRELEASE FXのレバーを手前に倒すことで、プレイ中の音をキャンセルし、エフェクト音の効果で再生が止まったように演出できるエフェクト。ターンテーブルが徐々に止まるようなVINYL BRAKE、ディレイ音が徐々に消えていくECHO、ターンテーブルを勢い良く逆回転させたようなBACK SPINの3種類があります。レバーは倒す深さは3段階あって、その深度によってエフェクトのかかりの具合も変わるようになっています。実際の触感でもその3段階を感じ取ることができますが、レバー左についているライトで視覚的にとらえることも可能です。軽く1段階だけ倒せば、エフェクトもゆっくり効いて音もゆっくり消えていきますが、一気に手前まで倒せばダイナミックに消えていきます。また、このレバーを倒すと同時に本機のすべてのエフェクトをOFFにする機能を兼ねているので、プレイ中の曲を複雑にリミックスしていき、どんどんアグレッシブかつ破壊的にしていったところで、いったんブレイクしてリセットするというパフォーマンスも可能です。例えばキックやベースを抜いて、フィルター+エコーで"シュワーッ"と突き抜けるようにし、ROLLでどんどん細かくして盛り上げていき、最後にレバーをギュンッと倒して元に戻すという大ブレイクを演出することもできます。

好みの設定にできるRemixbox
DAWとの連携で楽曲制作にも使える


また、本機には各種パラメーターの数値や種類を変更することができるMac/Windows対応のエディット・ソフトRemixboxが同梱されています(画面①)。これはSCENE FXの動作(例えばフィルターの通過域の幅をNARROW/NORMAL/WIDEなど)やパラメーター値の設定範囲、特性などのエディットを可能にしたり、X-PAD FXにオリジナルのサンプルをアサインするなど、独自のカスタマイズと個性的なプレイを可能にします。このソフトは本機とUSB接続したコンピューター上で使用し、設定内容は外付けハード・ディスクや本機にインサートしたSDカードに保存できます。そしてSDカードからインポートすることで、どのRMX-1000でもオリジナルの設定を読み込むことが可能です。その際、RELEASE FXの上にあるSETTINGスイッチをDEFAULTからUSERに切り替えます。 0218-2▲画面① Remixboxのメイン画面。このソフトを使用することで、RMX-1000の各種パラメーターの数値や種類をカスタマイズすることができる。好みの設定にしたデータはSDカードに記録し、手軽に持ち運べるため、本機が常設されたクラブであれば同様の設定でプレイできる最後は、スタジオ・ワークにも重宝するVST/Audio Units対応プラグイン・ソフトRMX-1000 Plug-inです(Mac/Windows対応)。これによりDAW上でRMX-1000の全機能がプラグインとして使え、さらに本機をコントローラーとして操作できるのです。DJプレイ同様、楽曲制作にも使えるわけですね。試してみたところUSBケーブルで接続するだけで、汎用のコントローラーのようにデバイス設定する必要はなく、すぐにコントローラーとして使い始めることができました。激しくスピーディな操作にも、全く遅れることなく正確に付いてきてくれます。プラグイン画面上では、SCENE FXで各エフェクトの選択時における2つのサブパラメーターの役割を文字で示されます。さらにエコー・タイムに関しては、設定されている拍数まで明示され、正確な設定をしたいときにも便利です。大きなツマミの触感と回したときの楽しさ、発光する視認性もいいボタンのクリック感、機能が分かりやすい配置と、どれを取っても考え抜かれた見事なインターフェースだと思います。僕は実際にクラブで使用しましたが、見事に大活躍してくれました! いろいろ試してみましたが、特にCUT/ADDでLOWをカットし、MIDやHIを上げて中高域にディレイをかけつつ、REVERB DOWNを思いっきりかけてグイっと戻すというのが楽しかったです。この効果が生み出せるのはまさに本機ならでは! BUILD UP系はかなりアグレッシブな方向に行くので、X-PAD FXを組み合わせれば、エフェクトの枠を越えたリミックスの域に突入します。もっと現場でのプレイでいろいろな使い方を発見していきたいです! 0218-3 ▲リア・パネル。左からDC IN、電源ON/OFFスイッチ、USB端子、CONNECTIONスイッチ(SEND/RETURN、MASTER)、OUTPUT端子×4(TRSフォーン&RCAピン)、INPUT端子×4(RCAピン&TRSフォーン)サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
PIONEER
Remix Station RMX-1000
オープン・プライス (市場予想価格/ 77,000円前後)
●周波数帯域/20Hz〜20kHz ●全高調波歪率/0.005%以下 ●SN比/102dB ●外形寸法/334(W)×57(H)×157(D)mm ●重量/1.3kg

▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5(32ビット)/10.6(32/ 64ビット)/10.7(32/64ビット) ▪Windows/Windows XP SP3以降(32ビット)/Vista SP2以降(32ビット)/7(32/64ビット対応) ▪共通項目/USB2.0ポート、CD-ROMドライブ(ソフトウェアのインストールに必要)