ヘビー・デューティに耐える頑丈な設計
向きによってハウリングの防止が可能
STX812Mのウーファー・ユニットには同社の12インチの2206Hを採用。クロスオーバー周波数は2.2kHzだ。一方STX815Mのウーファー・ユニットには名作15インチの2226Hを実装。クロスオーバー周波数は1.8kHzとなっている。高域は両機種共に3インチのダイアフラムを持つ2432Hコンプレッション・ドライバーを採用。高域用ホーンの指向角度は水平、垂直共に70°で、同角度になっていることによってカバー・エリアを想定しやすい。実はこのシリーズ、1つのアンプを使って鳴らす"パッシブ・モード"と2つのアンプを使う"バイアンプ・モード"を切り替えることができるのだが、そのスイッチの動きが重い。これは長く使い続けることによる接点の劣化を考慮して、このような重いスイッチが採用されている。よくこの部分に規格ギリギリのスイッチを使っている製品を見るが、このタイプのスピーカーのアキレスけんとも言える切り替えスイッチだけにSTX800シリーズは妥協が無く、好感が持てる。両機種の重量は、STX812Mが19kg、STX815Mは26kgとなっている。サイズの割に重いと言えるが、これはスピーカー・ユニットのマグネット部分が大きめだということ、エンクロージャーが厚み18mmの樺(かば)/ポプラ合板製で丈夫な作りになっていることがその理由だ。本機をモニター用として使った場合、両側底面に近いところに入力端子があるため、特にパラレル接続したときに、美しいケーブル・ラインになるよう設計してある。ステージ・モニターとして使用したときに置き方によって高音部を外側〜内側と変えることが可能なので、ハウリング・マージンを稼げそうだ。
理論値通りの正確な音量出力
大音量でもクリアな音質
試聴ではまず両機種に録音されたソースを1Wぐらいで入力してみたのだが、スペック通り97〜96dBぐらいの音量で出てくる。STX812MとSTX815Mで使用されている2226H、2206Hウーファー(ドライブ系は全く同じ設計だがサイズだけ違う作り)は、本来サブウーファーの帯域まで再生できるユニットだ。両機ともエンクロージャーを小さく作っているため、そこまでの重低音は出ないチューニングになっているが、聴感上STX815Mは70Hzぐらいから上、そしてSTX815Mは100Hzぐらいから上の帯域を、同社特有の明るく歯切れの良い音、すなわちダンピングの効いた音で鳴らしている。次に、音量を20dB上げるべく、100Wで入力。するとほぼ理論値通り、出音は116.5dB〜115.5dBになった。今度はパワー・アンプの限界450W/Ωに近い400Wで入力。今度は121.5dB〜120.5dBで、理論値ならば122dB前後なので、これは素晴らしい。大音量になればなるほど、与えられた入力に対して、実再生音量が比例しなくなる"パワー・コンプレッション量"が少ないのだ。音量を上げるほど音の腰がくだける、音が濁るなどの変化が両機からは感じられなかった。大音量を出すことが前提のPAスピーカーにおいて、これは非常に重要なことだがあまり知られていない。JBL PROFESSIONALは昔からこの点に関して優れており、1980年代に振動で得た空気流を利用してコイルを冷やす独自の方法も、さらに向上している。
STX812MとSTX815Mのサウンドを言い表すならば、低音と高音の分離がよく、大音量できちんと両方を聴き分けられるように再生してくれるスピーカーというイメージ。できればクラスDのアンプだけではなく、余裕のあるクラスAやクラスBのアンプで鳴らしたい製品だ。優れた設計が集約され、使い手の技量により自由な音作りが可能なスピーカーと言える。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年1月号より)