
CM/映画音楽で重宝するパッチ音源
素朴な空気感のある木管系のサウンド
本製品はサンプル・プレーヤーにYELLOW TOOLS Engine 2を採用し、Mac/Windowsに対応。ライブラリーの容量は10GB、24ビット/44.1kHzで収録され、楽器の種類は45種(音階楽器30/打楽器15)で、楽器以外にもサウンド・デザイン系のパッチも用意される。筆者のようにCMや劇伴の音楽を生業とする者には、このサウンド・デザイン系の音色があるのは実にポイントが高い。従来、本製品のような古楽器系の音源は、これまでに複数のメーカーから単体のリリースはあったが、本品のようにワンジャンルとしての1つのライブラリーにまとまっていると非常に管理しやすい。収録されている古楽器は現存こそすれど、例えば日本では楽器があってもレコーディングには対応できないようなケースも多いため、映画やドキュメンタリー映像用の楽曲作成では非常に役立つはずだ。また本品のパッケージには収録される古楽器の写真入りの解説書があるので、楽器の大まかなイメージをつかむための参考になる。
それぞれの音色を見ていくと、木管は各楽器、レガート(ポルタメント含む)、スタッカート、トリルを含んだ同じキースイッチ配列になるので楽器を試しやすい。その配列がバラバラのライブラリーも珍しくないが、古楽器の場合は実際鳴らさないとイメージがつかめない場合も多いし、キースイッチの配列が同じだと、メロディのMIDIデータをトランスポーズするだけでよいので時間の節約にもなる。
サウンドの印象は、他社の同楽器よりも"素朴な"空気感がうまく演出されている。単純にレガート音色でメロディを弾くより、トリルを多用した方がよりフォーク色の強いフレーズを作成できると感じた。リード楽器のほとんどはバグパイプだが、特筆すべきはCrumhornのパッチで、この楽器はソプラノからバスまであるがCrumhornのアンサンブルを作るのも面白そうだ。Bombardeはバグパイプからドローンを無くしたような楽器だが、ライブラリーとして入手したのは初めてだ。
ストリングスから鍵盤まで
入手しにくい古楽器の音源を多数収録
続いてストリングス・セクションには筆者が欲しかった楽器が多くあり、まずBass Viola da Gambaはチェロの元祖とも言われる有名な古楽器だが、弦が7本あるので単楽器でのアレンジ幅が広いのが特徴。Hurdy Gurdyも過去にまともなサンプリング・ライブラリーにお目にかかったことが無い代物だ。プラック系の楽器(ギターのように弦をはじいて弾くタイプ)は、Baroque Guitarがとても良い雰囲気で、これはリリースの短いポロポロした音で、単音以外にコード弾きのパッチもあるので併用すると効果的。これを使えば普通のガット・ギターとは異った空気感を出せる。もう1つうれしい発見だったのがPsaltery。楽器名は初めて知ったが、中世を題材にした映画で耳にしていたせいかサウンドは記憶にあった。YouTubeでこの楽器を調べると指と弓で奏法が異なるが、本品に含まれるのは指で弾くサウンドのようだ。
鍵盤系で新発見だったのはOrganetto。イタリアのフォーク・ミュージックで良く耳にする楽器で、筆者はてっきりアコーディオンだと思っていたが、実際にはこの楽器だった。ぜひYouTubeで実際の楽器の演奏を確認してほしい。Spinetはハープシコードを小さくした楽器で、以前に筆者が中世宮廷を想定した楽曲を制作したときにこの音源が無くハープシコードで代用したことがあった。音色はハープシコードよりも音域は狭いが、音は太くてフォーク色が強い。
一般の楽器に比べたらこれらの古楽器の出番はもちろん少ないが、曲のイントロなどで時代背景や地方の色を醸し出す"匂い"として古楽器の音は重要な役割を果たすため、映像系の作曲家には必携のライブラリーであることは間違いない。また、本製品を使用する際には、MIDIコントローラーをキーボードと併用して、サンプリングのニュアンスを使い切るようにしてほしい。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2013年1月号より)