フルアナログ2VCOを持つデュオフォニック・リボン・シンセサイザー

EOWAVEPersephone Mark II
 ユニークな製品ばかり世に送り出しているフランスのEOWAVEから、現代のTrautoniumと呼べるような本格派の電子楽器(簡単にシンセと言いたくない)が登場した。名前からしてPersephone Mark II(パーセフォン・マーク・ツー/以下Persephone)という、ちょっとレトロな感じだ。しかし中身はレトロなだけで終わらず、DAWとの親和性など現代的な特徴もある。一体どんなものなのか、興味津々で試してみた。

アナログ・シンセの歴史を感じさせる外観
フタを閉めるとスーツケース型に


EOWAVEは以前にもRibbonというリボン・コントローラー方式のシンセサイザーを発売しているが、Persephoneはそれと何が違うのだろうか。それはズバリ音と、楽器としての完成度と、全体の高級感だと思う。下の写真からも分かる通り、Persephoneはふたをした状態ではレザーのスーツケースのような外観をしている。パチンとフタを外すと漆黒のパネル上に銀色に光った12個のノブ、そしてウッド・パネルの中央にリボン・コントローラーがどーんと据えられ、左側に縦長のエクスプレッション・キーがある(付属のACアダプターはフタをした状態で中に入るのだが、ギリギリな感じになるのがちょっと残念)。最近のシンセではあり得ないような楽器としてのこだわりを強く感じる。Persephoneの音源方式はフルアナログの2VCO、VCF、VCA、LFOという構成だ。エンベロープが無いが、リボン・コントローラー、エクスプレッション・キー、そしてパネル左上のノブを直接いじることで実に多彩な音を出せる。エクスプレッション・ペダルは2つまで接続できる。またリボン・コントローラーは感圧式(ぐいっと押し込むことで別の操作が行える)になっており、さらにデュオフォニックで周波数の異なる2つの音を出すことも可能だ。

専用のエディター・ソフトを使って
自由なセッティングが可能


Persephoneのフロントには12個のノブが付いている(写真①)。上段左からピッチの調整をする"tune"、さらに細かいピッチの微調整のための"fine"、2つのオシレーターのピッチのずれを決める"space"、8つのプリセットとの呼び出しと8つのユーザーによるセッティングの登録ができる"routing"となっている。このプリセットでペダルやエクスプレッション・キー、リボン・コントローラーヘパラメーターをアサインしていく。"routing"の設定はMac/Windows対応の専用エディター・ソフトがEOWAVEのサイト(www.eowave.com)からダウンロードできるようになっており、ソフトで簡単に設定が可能。その右はリボン・コントローラーで鳴らす周波数の範囲を決める"scale"とボリューム調整用の"volume"だ。 121201-1 ▲写真① この12個のノブを使ってさまざまな音色を作ることが可能だ。それぞれの役割は本文を参照下段は左から"lo wave""hi wave"が並び、2つのオシレーターそれぞれの波形の形を調節できる。その隣3つがフィルター・セクションとなっており、カットオフの値を決める"cutoff"、レゾナンス量を決める"resonance"、カットオフへ操作子からモジュレーションをかける度合いを設定する"modulation"、右下がLFO周期を決める"LFO"だ。実際に音を出してみると、素晴らしいの一言。一般的にThereminをはじめとした黎明期のシンセは、箱鳴りのような、くぐもった感覚のある音色を想像するかもしれない。Persephoneはフィルターのカットオフ周波数を低めにすると、まさにそんな感じの音を出す。純粋なアナログ方式によるオシレーターとフィルターのマッチングのなせる技であり、フィルターを全開にすれば非常にエッジの効いたハイファイなサウンドも出る。そしてコントローラー類の触り心地も上々だ。リボン・コントローラー周りのウッド・パネルも最初は見た目だけかと思っていたので、こんなに上下が広くなくてもいいんじゃないかと感じていたのだが、実際演奏してみると、そこに手を置いたり、マーキング用のシールを張ったりするのに好都合だ。


僕はリボン・コントローラーの初心者だけど、試奏はかなり楽しかった。最近のシンセではあまりない、愛着度というものを感じさせる楽器だ。とはいえ、メロディを弾くのは相当に練習が必要。平均律の制約から逃れたくなったときや、豊富な操作子をいじりまくって効果音を作りたくなったときなどに本機は威力を発揮するだう。そしてPersephoneはMIDI/CVコントローラーとしても使える。CVアウトを駆使して別のシンセを音源にしたり、コンピューターとUSB接続してコントロール情報をそのままDAWに記録することも可能だ。しかし現在、このDAWに記録したMIDIデータをPersephoneに送り返してもちゃんと鳴らなかったり、MIDI音源として使うことがうまくできない状態だ。先にも書いたように演奏が難しい楽器なだけに、演奏をMIDIデータとして編集し、それを鳴らせたら最高だ。ぜひ実現できるようにしてほしい。 121201-2 

▲リア・パネルの端子は左からUSB(MIDIデータ・コントロールおよびエディター・ソフトからのアップデート用)、MIDI OUT/IN、オーディオ出力(フォーン)、ペダル入力×2、CV出力1/2/3/4


サウンド&レコーディング・マガジン 2012年12月号より)

 
EOWAVE
Persephone Mark II
オープン・プライス (市場予想価格/160,000円前後)
●オシレーター/2VCO(三角波〜ノコギリ波可変) ●リボン・コントローラー/デュオフォニック・プレッシャー&ポジション・センシティブ・リボン(50cm長)、12ビット・レゾリューション(4,096段階) ●リボン・スケール/1/2/5/10オクターブ ●外形寸法/648(W)×270(H)×95(D)mm ●重量/4.35kg