視認性の高いVUメーターを装備
楽器/ライン/マイク入力の3つを用意
まずは本体の仕様から見ていこう。入力端子はフロント・パネルに楽器入力(フォーン)、リア・パネルにライン入力(フォーン、XLR)とマイク入力(XLR)を用意。入力はフロント・パネルのゲイン・ツマミで4dBステップで調節することができ、先述のM5よりも6dB多くゲインが稼げる。このためリボン・マイクもより効率良く使える。後述するがマイク入力のインピーダンス切り替えも装備されているので、使い勝手は広いと言えるだろう。ゲイン・ツマミの下には位相反転スイッチ、入力用のピーク・インジケーター(0dBで青、+20dBで赤く点灯)、PADスイッチを装備。PADスイッチは各入力レベルをすべて同じだけ下げるのではなく、ライン入力は−13dB、楽器入力は−10dB、ハイインピーダンスとローインピーダンスのマイク入力は共に−15dBとなっている。中央には大きく視認性の高い−30〜+18dBのVUメーターがある。フロント・パネル右上には6つのプリセットが選べるトーン・ツマミを配置。1〜6は、1がアコギ/弦楽器/エレキベース/キーボード用、2がエレキベース用といった具合に、楽器ソースに合わせたEQカーブが用意されている。さらにローカットが2種類(50Hz/90Hzを−6dB/oct)と、高域の"エア感"を持ち上げる"AIR LIFT"も2種類スタンバイし、計10種類のトーンを選ぶことができる。その下には3.7kHz以上を−3dBにするハイカット・スイッチと、上記のトーンON/OFFスイッチが装備され、その間には青く光る電源LEDを配置。さらにその下には各入力切り替えツマミがあり、ローインピーダンス/ハイインピーダンスそれぞれに対応したマイク入力(ファンタム電源のON/OFF切り替えも兼ねる)と、楽器/ライン入力を選んで使うという仕様だ。
厚みのある中域が特徴のマイクプリ
インピーダンスを変えて使うのも面白い
リア・パネルには前述の入力端子に加えて、ヘッドフォン出力(フォーン)、ライン出力(フォーン、XLR)、フロント・パネルの楽器入力をそのままアンプやチューナーに送るためのスルー出力(フォーン)もスタンバイ。そして本機の特筆すべき機能の1つが、"−18dB to AMP"と書かれたいわゆるリアンプ出力(フォーン)の装備だ。リアンプは、何の音色加工もせずにダイレクトに録ったベースやギターを、あらためてアンプから鳴らして収音するというおなじみの手法だが、そのアンプへの出力としてこの端子が用意されているのだ。ちなみにこのリアンプという手法を定番化させた機材の1つとして先のU5がある。U5を使って録ったライン・サウンドが素晴らしかったのが理由だが、その流れを受け継いで本機にリアンプ出力が実装されたのだろう。リア・パネルにはグラウンド・リフト・スイッチと電源スイッチも配置されている。スペック解説が長くなってしまったが、お待ちかねのサウンド・チェックに移ろう。マイク入力では男性ボーカルとアコギ、DIはベースをつないで音を確かめてみた。マイク入力に関しては中域に温かみがあり、同社VT-737SPのインプット・トランスを使用している強みが生かされている印象。中域に扱いやすい"厚み"があり、まさにボーカルに合いそうだ。アコギはローカットのプリセット・トーンを併用してみたが、不要な帯域のもたつきが無くなってスピード感が増す。コンプなどをインサートする場合にも有益だと感じた。プリセット・トーンをOFFにした状態でも中域の印象はマイク入力と同じだが、DIとしての使用で興味深かったのはやはりU5との比較。本機は音作りが容易なので、トップ・レベルのミュージシャンの繊細なタッチをそのまま再現したいのならU5、即戦力としてDIの音をライブやレコーディングで使いたい場合はV5といった印象だ。またマイクのインピーダンス切り替えは好みのサウンドをチョイスする、といった感覚でも使うと良さそうだ。NEUMANN U47を使った場合、通常ではローインピーダンスのポジションで使用するが、あえてハイインピーダンスを使ってみると、若干マイクを離して弱く弾いたようなキャラクターの変化が得られた。AVALON DESIGNの第一期は、繊細な音作りを目指したM2やAD2055、AD2077のような製品を生み出し、レコーディングやマスタリング界での定番化を計った。第二期はチューブ・サウンドを取り入れ、パーソナル・ユースの最高峰を目指した複合型アウト・ボードのVTシリーズをリリース。そして第三期として、このV5を軸にプレイヤー、クリエイター、エンジニアを巻き込んでいくという気概が感じられた製品だ。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2012年12月号より)