1951年製のSTEINWAY Model Dをサンプリングしたピアノ音源

SYNTHOGYIvory II American Concert D
 世界中でその名を知らぬ者はいないであろうピアノ・メーカー、STEINWAY。同社のピアノは世界中のアーティストから愛され、数々の名盤に収録されてきました。今回レビューするのは、同社のModel Dをサンプリングして作られたピアノ音源。Model Dの中でも1951年製のものを使用し、音響特性に優れたフランスのコンサート・ホール"Françoys Bernier"で録音したというサンプルを49GBも収録しています。

メインの音色プログラム20種類には
サンプル容量違いの10パターンを用意


Ivory II American Concert DはMac/Windowsに対応し、スタンドアローンのほかVST/Audio Units/RTAS/AAX(Native)プラグインとしても動作します。多くのDAWソフトで使える上に、AVID SibeliusやMAKEMUSIC Finaleなどの楽譜作成ソフトでは、それらに内蔵された音源とともに使用可能です。ソフトを立ち上げると"Program"画面が登場。ここで基本となる"Keyset"=音色プログラムが選べます。試しに"American Concert D 20 Level"をロードしてみました。メインの音色プログラムは大きく分けて20種類となり、それぞれにサンプル数の異なる10パターンが用意されています。例えば"American Concert D 20 Level"は20段階ものベロシティ・レイヤーを持ち、強く弾いたときの音色ニュアンスと弱く弾いたときのそれが細やかに表現可能です。"American Concert D 4 Level"であれば、ベロシティ・レイヤーは4段階となります。さらに、ファイル名の末尾に"2"という数字が付いているものは、ベロシティ値が低いときに出音がよりソフト&リッチになるよう作られています。制作時は8ベロシティ・レイヤーなど、サンプル容量が少なくて動作の軽いプログラムを使っておき、完成版をクライアントなどに提出するときは容量のより多いプログラムで書き出せば良いでしょう。CPUへの負担を軽減できる使用法だと思います。また、歌とピアノしか含まれていないようなバラードではピアノの質感が重要なポイントになるので、ベロシティ・レイヤーの多いプログラムが有効。筆者が普段仕事で制作しているJポップなど、比較的音数の多い音楽では10ベロシティ・レイヤー程度でも十分な働きを見せます。ふたの位置を表すパラメーター"Lid Position"を完全に閉じた状態である"Closed Lid"に設定してコンパクトな音色にすれば、オケ全体の中でより扱いやすくなるでしょう。

高域のピークを抑えたクリアな音質
ダンパーのノイズや弦の共鳴も収録


これら20種類のプログラムとは別に、強めに弾いたときにリッチな音が出る"Hard Levels"と弱めの出音が豊かな"Soft Levels"が用意されていますので、プログラムの搭載数は合計22ということになります。高音から低音までピアノらしい質感を損なうことなく収録されており、多くのピアノ音源で痛くなってしまいがちな高域(=88鍵ピアノにおける最も高い2オクターブの音域)がキンキンすることもなく、透明感のあるサウンドを実現しています。SYNTHOGY独自のDSPエンジンによるもので、これほど高域を奇麗に再生できるピアノ音源には出会ったことがありません。とても創作意欲をかき立ててくれると思います。またダンパーが弦に触れることで発生するノイズや、ダンパー・ペダルを踏んだときの音色も収録されており、いずれもリアリティの高い音質となっています。注目したいのは、ダンパー・ペダルを踏んでいるときに発生する、弦の共鳴を再現した機能。"Sympathetic Resonance"ボタンをONにすると使用でき、共鳴の音量まで調整可能です。ピアノを弾く人であれば、この機能に感動するのではないでしょうか。この通り本物のピアノの要素を盛り込んでいるため、ピアノ・タッチのMIDIキーボードはもちろん、安価なものを使っても"STEINWAYのフル・コンサート・ピアノが目の前にある感覚"を味わうことができそうです。画面上部のボタンで"Session"画面に切り替えると、コンピューター側の設定やハーフ/ソフト・ペダルについてのセッティング、出音のチューニングなどのほか、音が出ないくらい鍵盤を弱く弾いたときに、共鳴弦がどれほどのベロシティで鳴るのかを手持ちのMIDIキーボードに合わせて設定することができます。"Effects"画面では、EQやコーラスなどの内蔵エフェクトがエディット可能。特に"Ambience"というエフェクトを使って加えることができる残響には、空間モデリング技術の高さが光っています。本ソフトの各画面で設定した内容は個別にセーブ/ロードすることができるので、複数のMIDIキーボードを使う人でも各機にマッチしたセッティングを用意することが可能です。これも大きなメリットですね。Ivory II American Concert Dに投入されたサンプリング技術と扱いやすい操作性は、実に価値があると思います。シリーズ製品としてIvory Grand Pianos II(29,800円)やIvory II Upright Pianos(26,800円)、Ivory II Italian Grand(16,800円)がそろっていますが、本ソフトの質の高さを考えると、かなり期待できそうです。(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年12月号より)
SYNTHOGY
Ivory II American Concert D
18,900円
▪Mac/Mac OS X 10.5.8以上、1.8GHz以上のIN TEL Core Duo(2GHz以上を推奨)、VST2/Audio Units/RTAS/AAX(Native)/スタンドアローン対応 ▪Windows/Windows XP SP2(32ビット)/Vist a/7(以上32/64ビット)、1.8GHz以上のINTEL Core(2GHz以上を推奨)、VST2/RTAS/スタンドアローン対応 ▪共通/1.5GB以上のRAM空き容量(2GB以上を推奨)、49GB以上のハード・ディスク空き容量、オーソライズにはiLokキーが必要