リボン・マイクの響きを引き出す
最大+81dBのセンシティビティ
本機の特徴は最大で+81dBという驚異的なハイゲイン。パネルの下から2番目のノブがマイク・ゲインで、12ステップのロータリー・スイッチの可変幅は+7dB〜56dBとなる。最下部のアウトプット・レベルは−64dB〜+19dBと、アッテネートからゲイン・アップまで可能で、コンソールのフェーダーのような役割を果たす。さらに最終段のバランス・アウトまでに+6dBのゲインを含めると、合計で最大ゲインは+81dBとなる。
このゲイン値にどれほどの価値があるかについてお話ししたい。筆者が大切にしているリボン・マイクにRCA 77DXがあるが、現場ではなかなか本領を発揮させることができず、宝の持ち腐れ状態になっていた。リボン・マイクは低音が適度にロール・オフしていることからアタックの処理がうまく、比較的アタックの強い楽器に使うと良いが、穏やかな音源に対してはとにかくゲインが不足してしまう。その上一般的なマイクプリでは十分なゲインが得られないので、コンソールのフェーダーでゲインを稼いだり、ヘッド・アンプを2段通すなど工夫をして使用してきていた。
しかし、RPQ500とRCA 77DXを組み合わせると、これまでに筆者が使用してきたマイクプリの中でもベストとも言える相性が得られた。まるでRPQ500の高いセンシティビティがリボン・マイク本来の響きを引き出してくれているようだ。
高次倍音を滑らかに強調する
独自のEQ"Curve-Shaper"
この相性の良さはゲインやインピーダンスだけの兼ね合いだけで語れない。リボン・マイクの多くは10kHz以上の高域に比較的落ち着いた特性を持つが、AEA独自のEQであるCurve-Shaperによって、高次倍音を滑らかにアップすることで、いわゆるエアー感が付加できる点も大きい。HFと書かれた上2つのノブがそれで、2.1〜26kHzの周波数範囲で、0〜+18dBのゲイン調整が可能。このEQはリボン・マイクに限らず、コンデンサー・マイクはもちろんのこと、比較的帯域の狭いダイナミック・マイクでも非常に高い効力を発揮してくれ、ミックスでセンド&リターンに入れて単体のプロセッサーとして使いたくなるほどに魅力的であった。
中段にあるLFフィルターは18〜360Hzの可変範囲で−20dBのシェルビング・フィルターとなっている。ハイゲイン・モデルなだけに不要な低域成分の整理に有効だ。ほかにも48Vファンタム電源、3点ピーク・メーター、位相反転スイッチ、HFとLFのON/OFFスイッチなども備え、マイクプリの基本機能を十分に満たしている。
ちなみに本機を使用する際はAPIボックスを音源の近くに置き、短めのマイク・ケーブルで本機に接続して十分にゲイン・アップしてから、ライン・ケーブルで引き回してレコーダーに導くことをお勧めする。なぜならマイク・レベルでラインを引き回すことによるロスが減る上、ハイインピーダンスゆえに、マイク・ケーブルが長いと外来ノイズを拾いやすくなるからだ。そういった観点からも、移動しやすいコンパクトなモジュールは、大きなメリットと言えるだろう。
年代物のリボン・マイクはコンディションが悪いものも多いため、それがリボン・マイクの音であると勘違いしている読者も多いに違いない。そんな人にこそ、コンディションの良いリボン・マイクにRPQ500を接続してその素晴らしさを味わってもらいたい。きっとリボン・マイクの持つ魅力に気付いてもらえるはずだ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年1月号より)