3つのキャラクターを切り替えられるボーカル用コンデンサー・マイク

LAUTEN AUDIOAtlantis FC-387
 2000年代の中ごろにスタートしたアメリカのメーカーLAUTEN AUDIOから、ボーカルの録音に特化したFET型コンデンサー・マイクAtlantis FC-387が発売されました。高機能なDAWソフトがリーズナブルな価格で手に入る時代だからこそ、ボーカル用マイクは作品全体のクオリティを決める重要な機材となっております。そんな中"ボーカル専用"とうたっているこのマイクの実力は、いかなるものなのでしょうか?

中高域に特徴のあるNモード
Gモードは優等生的な整った音質


Atlantis FC-387は、ボーカル録音に適している直径31.25mmのラージ・ダイアフラムを採用。LAUTEN AUDIOの製品ラインナップには真空管プリアンプを備えたマイクも用意されていますが、本機はFET型となっており、単一/無/双という3種類の指向性をスイッチで切り替えることができます。入力レベルの調整機能としては、−10dBのPADを搭載。また、出力レベルを+10dB上げられるゲイン・アップ機能も用意されています。本機では標準状態の0dBに加え、−10dBと+10dBという合計3種類のゲイン・モードがスイッチで切り替えられるのです。そして、最大の特徴は3タイプの音質をスイッチで選べるマルチボイシング機能。F(Forward)というモードを選択すると明りょうで現代的なサウンド、N(=Neutral)に切り替えるとオーソドックスな音質、G(=Gentle)ではブライトさを抑えたビンテージライクなサウンドが得られるとのことです。では、実際にAtlantis FC-387の音質をレポートしていきます。テストはprime sound studio formのroom5にて、本機とボーカル収音によく使われる他社のマイクを数種類並べて敢行。各機で収めたボーカルを聴き比べました。最初に、マルチボイシング機能を詳しく見ていきましょう。まずはNというモードから。先述の通り、NはNeutral(=中庸)という言葉から来た名称ですが、実際は中高域に張りのある音質。現在メイン・ストリームとなっているサウンドを考えると"これくらい明るい音質がむしろ標準的だ"という新鋭メーカーらしい思想が垣間見えます。比較したマイクの中では、NEUMANN M149 Tubeとキャラクターが似ている印象です。次はGのモード。"ブライトさを抑えたサウンド"とうたわれているため、こもり気味の音質なのかと思っていましたが、低域の量感がやや少ないもののNEUMANN U87AIと似たキャラクター。個人的には、こちら側がニュートラルと言っていい音質です。ボーカルだけでなく、楽器の録音にも活躍するであろう優等生的なラージ・ダイアフラム・サウンドとなっています。M149 Tube/U87AI共に、歌録り用のマイクとして確固たる地位を築いている機種です。それらに近い特性を備えていることからも、本機のポテンシャルの高さがイメージできると思います。ちなみに、近接効果については、NEUMANNのマイクと比べて距離の遠近がもたらす音質変化が小さくなっています。つまりボーカルの立ち位置による影響も小さいため、ムラの少ない録音ができるでしょう。

歌にひずみを与えるFモード
出力を上げる+10dBスイッチ


最後はFのモード。Gの優等生サウンドとは打って変わり、中高域がひずみっぽいワルな音がします。テストの前に回線チェックを行っていた際、何だかひずみっぽい音色だなと思い原因を探っていたのですが、これはマルチボイシング機能がFに設定されていたためでした。ミックスのとき、ボーカルに存在感を出そうとアナログ機材をオーバーロード気味に使ったり、ひずみ系のプラグインを使用することは日常的になっています。本機では、マイク側でそういったサウンドが作り出せるわけです。また声の大きさにかかわらず、ある程度一定のひずみ感を得ることができるため、録音後の処理でひずませるのとは違う感じです。今回は試していませんが、Fでひずませたボーカル・サウンドはミックスで良い結果をもたらすのではないかと思います。ちなみに、本機の開発に協力したプロデューサー/エンジニアのFab Dupontによると、Fで録ったドラムのルーム・サウンドはかなりゴキゲンな音になるそうです。続いてゲイン・モードを見ていきます。先述の通り、本機には−10dBのPADに加え、内蔵プリアンプの出力ゲインを10dB上げるスイッチが装備されています。オーディオI/Oの内蔵マイクプリを使用する場合、ゲインを上げ過ぎるとノイズが目立つことがあります。なので、このスイッチをONにしてマイク側でレベルを上げた方が、良い音で収められる場合もあるでしょう。


Atlantis FC-387はマルチボイシング機能で3種類のキャラクターが選べる上、指向性を切り替えて音色のバリエーションを作ることができます。ボーカルだけでなく、ドラムやギターの収音などさまざまな用途で使える1本だと思います。サウンド&レコーディング・マガジン 2012年9月号より)
LAUTEN AUDIO
Atlantis FC-387
オープン・プライス (市場予想価格/133,350円前後)
●形式/FETコンデンサー型 ●電源/48Vファンタム電源 ●指向性/単一、双、無(スイッチで切り替え) ●周波数特性/20Hz〜20kHz ●最大音圧レベル/130dB ●外形寸法/70(φ)×240(H)mm ●重量/1.05kg