オリジナル機の部品をデジタル化し
回路を再構築するモデリング法=CMT
まずはPolysixについて簡単に説明すると、1981年に発売されたアナログ・シンセで、当時人気があり高価だったポリフォニック・シンセが5音だったのに対し、1ボイス多い6音装備。さらにフェイズ、コーラス、アンサンブルといった3つのモードを持つエフェクターを搭載することにより、深みと厚みのあるサウンドを作り出すことに成功した。そして、当時高額だったシンセのイメージを払しょくする低価格化の実現、これらすべてが高く評価され、世界的な大ヒットを記録した名機だ。
以上を踏まえ、Polysixのサウンドを再現しつつ新機能を搭載し、Reason専用仕様にしたものがPolysix For Reasonというわけだ。では、製品スペックを見ていこう。音源システムはCMT(Component Modeling Technology)、最大同時発音数は32ボイス・ポリフォニック、16ボイス・ユニゾン(デチューン、スプレッド機能付き)、92プログラムを用意。シンセシスは1VCO(サブオシレーター付)、1VCF、1VCA、1EG(エンベロープ・ジェネレーター)、1LFOと充実の基本内容だ。これに加えて、エクスターナル・モジュレーションでは、例えばモジュレーション・ソースに"Velocity""Pitch Bend"などを設定することで、外部ソースでモジュレートできる。そのほかアルペジエイターのMIDI同期設定、コーラス、フェイズ、アンサンブルが選択できるエフェクト設定、エフェクトのスプレッド調整などサウンド・メイキングの幅を大きく広げる機能が満載だ。
第一のポイントは、前述した音源システムCMTを採用しているところだ。これは電子回路のモデリング・テクノロジーで、従来のように出音をシミュレーションする手法ではなく、オリジナル・モデルで使用していたトランジスター、コンデンサー、抵抗といった部品をデジタル化し、それらを使ってオリジナルと同じ回路を演算によって、再構築する手法である。まさにオリジナル・サウンドの完全再現ということとなる。
第二のポイントは、現代の音作りを可能にする多数の新機能を追加搭載している点だ。オリジナル・サウンドの再現に加え、最大32ボイスのポリフォニック設定、最大16ボイスのユニゾン設定など、単にビンテージ・シンセの忠実な再現の枠にとどまらず、創造の可能性を追求している。
内蔵する92個のプリセットは
素のまま使いたくなるほどのサウンド
ここからは実際に使っていこう。前述の通りReasonのRack Extension上で使用するソフト・シンセなので、セッティングはReasonを立ち上げて、作成バーから"インスツルメント"でPolysixを選択するのみ。すると自動的にReasonのラックにPolysixがマウントされる。tabキーを押せばPolysixのリア・パネルが表示され、配線も自由自在。この辺りはReasonならではの遊び心を感じる。フロント・パネル上部左からVCO、VCF、VCAと音の流れに沿った見やすい配列。その下段にはMG(モジュレーション・ジェネレーター)、EG、OUTPUT、そしてARPEGGIATOR、EFFECTS、PITCH、一番下段にはEXTERNAL MODULATION部と機能別に整然と配置されており、非常に分かりやすい。
画面左上部の枠内でプリセットされている音色を選択でき、あらかじめ92のプログラムが用意されている。内容はストリングス、パッド、ベース、リードなど充実している。個人的には、全くハズレ無しのサウンド。どの音を選んでも厚みがあり、そのまま使いたくなるようなプリセットばかりだ。
気になるシンセシス部分も、非常に使い勝手が良い。各ノブはマウス使用でもスムーズに操作できるが、MIDIコントローラーを使用するとさらに楽になる。特にリアルタイムでカットオフやレゾナンスを操作しながらレコーディングしたい場合などは非常に便利で、ライブ感あふれるサウンド・メイキングが可能だ。MIDIコントローラーを使った操作については、オリジナルのPolysixと比較しても違和感無く使用でき、タイムラグやストレスは感じなかった。
続いてエフェクトについて。かかり方は過激過ぎず、大人し過ぎず絶妙なバランスと言える。やはり、コーラス、フェイズ、アンサンブルの基本エフェクトの素晴らしさには脱帽する。それに加えスプレッドで空間を広げる設定も可能。シンプルであるが故に丁寧に音を作ることができるため、ストリングスやパッドの音色加工には最適だ。また、アルペジエイター機能も使い勝手が良く、トラックとのテンポ同期が一発で行えるので無駄なストレスを感じない。トラックと同期させながら心ゆくまでサウンドを作っていける。アシッド・ベース作りにも事欠かない。
以上、主な機能の操作性について触れてみたが、実際にはサウンド・クリエイト方法は無限大に広がっているといっても過言ではない。シンプルであるが故に一つ一つのノブのキャラクターを追求する面白さがあり、同時に多彩な音を直感的に作れる楽しさがある。Reasonとの相性は言うまでもなく抜群で、Reasonのオリジナルのデバイスだと錯覚してしまいそうなほど完成度の高いソフト・シンセだと感じた。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年9月号より)