簡単設定&シンプルな操作性にこだわったNuendoのライブ録音版

STEINBERGNuendo Live
 ネット環境が急速に普及し始め、近年のライブ現場においても配信やライブ音源の即日販売といった"スピード感"を求められる時代になってまいりました。しかし、今も昔もライブ現場においては"録音をしくじったから録り直し!"というわけにはいきません。PA同様、失敗がいろんな意味で命取りになるのです。今回、レコーディング・ソフトウェアの大手STEINBERGからライブ・レコーディングに特化したDAWソフトNuendo Liveが登場。早速レビューしてみます。

最大384kHz/128tr録音に対応
汎用オーディオ・インタフェースで使える


最近のPA業務では、ライブ・レコーディングも発注される現場が増えてきて、卓席にパソコンを設置してステージと画面をにらめっこ......なんてこともしばしばです。しかし、ライブを丸ごと収録するとなると長時間回しっぱなしになるため、パソコンの状態はもちろんですが、ソフトウェアの動作や増えてく録音データ量が気になって、収録に失敗しないかいつもドキドキです。そこで、プロフェッショナルなレコーディング業界において、音の良さで定評のあるNuendoがライブ・レコーディングに向けた操作性&安定性に特化したNuendo Liveとしてリリース。オーディオ波形のカット/コピー/ペーストはできますが、プラグインのインサートなど収録に関係の無い編集機能を徹底的に排除することにより、かなり軽い動作で、短時間のセットアップ(これが現場ではかなり重要)が可能となっているようです。Nuendo Liveは、シングル・ウインドウならではのシンプルな操作性を実現し、なんと24時間以上の録音にも対応。書き出しはWAV/MP3はもちろん、Pro Toolsなどと互換のあるAAFにも対応しているので、ほかのDAWへデータの移行も可能。Nuendo Liveで高品質で録って、編集は本格的なDAWに任せるという現場のニーズに応えています。また、Nuendo 5.5ではNuendo Liveで作成したプロジェクト・ファイルをそのまま読み込み可能なので、録音後のスタジオ作業もストレス無くスピーディに行えるでしょう。Mac/Windowsハイブリッドで、オーディオ・ドライバーはCore Audio/ASIO対応なので、汎用的なオーディオ・インターフェースで使用可能です。音質もNuendoの32ビット浮動小数点内部処理を受け継ぎ、最高384kHz/最大128trものレコーディングを実現できます(オーディオ・インターフェースの性能に依存/画面①)。 gamen.jpg ▲画面① 設定パネル。サンプリング・レート/ビット、録音ファイル形式、ASIOドライバー(オーディオI/O)、プリレコード時間などほとんどの設定が行える明解な作りとなっている。オーディオポート欄には、選択したオーディオI/Oの入出力を自動的に表示してくれるさらなる特徴として、Nuendo 5から搭載された、ライブ時のレコーディング機能(ロック、録音可能残量表示など)はもちろん、ボタンを押すと現れる録音操作パネル(画面②)には今までありそうでなかった進行中のプロジェクト録音経過時間の表示、マーカーの管理などの機能を追加し、より長時間にわたるライブ・レコーディングに対応しました。加えて特筆すべきは、今まではイベント・ライブの収録後に、アーティストごとのファイルを整理しなければならないという面倒な作業がありました。それが、このNuendo Liveでは録音時に設定したフォルダーに任意のファイル・ネームで録音データが格納されていくので、時間が無いライブ後のファイル整理もスムーズに行えます。 2.jpg ▲画面② 録音パネル。録音に関する設定はこのパネルに集約され、レコーディング中も確認可能。RECORDボタンで録音ON/OFFができるが、誤って触れて作動しないように、その下にロック・ボタンも用意されている。左手にはプロジェクトの収録フォルダー選択のほか、ファイル名に表記されるアーティスト名、エンジニア名、ディレクター名を入力する欄があり、ブッキング・ライブなど多数のバンドが出演するライブ・レコーディングの際に重宝する。下のマーカー追加/削除も楽曲ごとの目印を付けるのに役立つ機能だオーディオ・インターフェースの持つ最大可能録音チャンネルを認識して、新規プロジェクト・オープンと同時に録音トラックを自動で作成し、インプット/アウトプット・パッチも自動で行ってくれるのも便利。出力モードは2つから選べ、"Multi Track Mode"では使用しているオーディオ・インターフェースのアウト数によってパラ出力が可能で、"Stereo Mode"では各トラックは2ミックスにまとめられ、パンや各レベルの設定が行えます。なお、YAMAHAの最新デジタル・ミキシング・コンソールのCLシリーズには本ソフトが同梱されます。もちろんYAMAHA製品との相性は特に良く、DanteカードをインストールしたM7CLを使えば、別途オーディオ・インターフェースを用意することなく、イーサネット・ケーブル1本で最大16chの録音ができるというメリットもあります。

簡単な録音セッティング
ファイル保存時も軽快な動き


さて、実際にライブでNuendo Liveを使用してみたいと思います。併用するのはYAMAHA 0
1V96I。16イン&16アウトのオーディオ・インターフェース機能を有した40インのデジタル・ミキサーで、今回はNuendo LiveをインストールしたMacとUSB接続します(写真①)。 NCM_0231.jpg ▲写真① 実際にライブ・ハウスでアコースティック・ライブのマルチ録音を敢行中。左のYAMAHA 01V96IがPAミキサー兼オーディオI/Oで、右のパソコンとUSBケーブル経由で16chのレコーディングを行った早速、パソコンと01V96Iを接続してアウトプット/インプットの配線を済ませ、電源を入れソフトを立ち上げます。するともう準備は完了(笑)。いつものPAセッティングに、パソコンをつなぐという手間だけでした。ソフト上のインプットの設定など一切すること無く(ただし01V96I側でパソコンに送るチャンネル選択は必要)、さらに録音パネルから"全Trをアーム"ボタンを押すだけで、もういつでも録音できます! またプリレコード機能では録音ボタンを押す前の状態もレコーディング可能なので(秒数を選べます)、たまにやってしまう"録り始めの失敗"も無かったことにしてくれます!今回のライブはピアノ、オケ、アコギ、バイオリン、ボーカルという編成で、内蔵リバーブをパッチして全チャンネルを収録してみました。画面を見てうれしかったのは、ウィンドウ上部に小さいながらも入力チャンネルがすべて監視できるレベル・メーターが付いており、不意の過大入力もすぐに確認できる点。今回は、入力レベルを01V96Iのヘッド・アンプの段階で調整するようにして、通常通りPAオペレートをすれば適正レベルでNuendo Liveに送られる設定にしました。Nuendo Liveのアクティビティ・モニターを見ながら、早速本番スタートとともに録音ボタンを押してみます。ある程度録音時間が経ってもパソコンへの負荷が通常のDAWよりかなり少ないようで、キビキビと動いてくれました。これならドキドキしながら録音操作をするストレスから解放されますね。しかも転換時のミキサーのミュート操作とともに、録音パネルの"マーカーの追加"を押すだけでマーカーが挿入されるので、後から転換ポイントが一目で分かります。そしてライブが終了して録音停止を押すと、普通なら結構時間のかかるデータの保存処理が行われますが、これまたNuendo Liveはすごく速い! "もう保存したの?"と思うほどのスピードです。自宅に帰り、ラフ・ミックスを作るべく筆者のオーディオ・インターフェースを接続し、パンなどの設定をして、聴き慣れたモニター・スピーカーで録り音(32ビット/48kHz WAV)をチェックしてみました。すると、ボーカルの息遣いやアコギのピッキング・ノイズなど生々しいディテールまで収録されています。これならばバンドももちろんですが、生楽器やオーケストラの収録も問題無く行えるでしょう! さらにリハの際にNuendo Liveをミキサーとつなげて、"Multi Track Mode"で録音済みデータのマルチ出力を行えばバーチャルなサウンド・チェックもでき、事前のセッティングも円滑に進むと思います。


今までマルチでライブ・レコーディングを行う際は、録音機材を一式持ち込む必要がありましたが、Nuendo Liveの登場によりライブ録音の仕事も2つ返事でOKと言えそうです。"コスト・パフォーマンスが高くてハイクオリティ、簡単で素早い収録"ができ、ますますクライントの要望に対応できるようになってしまいました!(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年9月号より)

 
STEINBERG
Nuendo Live
オープン・プライス (市場予想価格/34,800円前後)
▪Mac/Mac OS 10.7(32/64ビット対応)、INT EL Dual Core以上のCPU、Core Audio対応デバイス ▪Windows/Windows 7(32/64ビット対応)、INTEL/AMD Dual Core以上のCPU、ASIO対応デバイス ⃝共通/2GB以上のRAM、2GB以上のハード・ ディスク空き容量、1,280×800以上のディスプレイ解像度、CD/DVD-ROMドライブ、USB-eLicense r、インターネット接続環境