FAIRCHILD 670をモデリングしたWAVESのハードウェア・コンプ

WAVESPuigChild
WAVESがプラグインで培ったデジタル技術を投入し、現在でもマスタリング・スタジオで見かけることも多いハードウェア・マキシマイザーの名機L2。出音はかなりロック色が濃く特徴的で、かなりの人気機種でした。今回レビューするのはそのWAVESの新しいハードで、ジャック・ジョセフ・プイグ氏所有のFAIRCHILD 670をモデリングしたプラグインが基になった2chデジタル・コンプ。現在、実機を購入するとなるとかなりの額になってしまいますので、現実的な価格の本機はどうかチェックしてみることにします。

ノブやハンドルがビンテージ感を演出
ずっしりとした高級感のあるボディ


黒く厚みのある2Uのフロント・パネルにビンテージ風のノブがL/Rでシンメトリーに分かりやすくレイアウトされており、中心にあるメーターは大ぶりで視認性が良いものです。ラックの両脇にはハンドルが付いており、ビンテージな雰囲気を醸し出しています。奥行きは220mmと比較的短いですが、持ってみるとサイズの割にずっしりと重く、高級感があります。ノブはオリジナルの670に準じていますが、INPUT GAINはデジタル入力用。−20〜0dBの1dBステップで(ユニティ・ゲインは−12dB)、その下にアナログ入力用のINPUT TRIMがあり、−6dB〜+5dBの間を1dBステップで調整できるようになっています。スレッショルドはステップ式ではなく連続可変ノブで、リニアではなくモデリングされた個体のカーブが採用されているようです。その下にあるOUTPUT GAINはステップ式ですが、0dBからプラス方向の1ステップ目は+2dBになりますので、注意してください。

FAIRCHILDらしい雰囲気もありつつ
現代的なレンジ感も併せ持つ


ちょうど作業中の、打ち込みと生楽器を併用した女性ボーカルのクラブ・トラックがあったので、いろいろとチェックしてみました。まず、普通のアナログ・エフェクターのようにSSL卓のトラック・インサートに入れてみます。L/Rchの関連性を制御するLINK MODEは各chが独立した"LEFTRIGHT"に設定。アタック/リリースを決めるTIME CONSTANTSは1か2に設定し、ゲイン・リダクションは−5〜−7dBぐらいになるようボーカルにかけてみたところ、音色に現代的なレンジ感があり、倍音は実機より出ている印象。一方でFAIRCHILDらしいビンテージ感もあり、声を前に出して強調するにはよいと思いました。次にドラムをTIME CONSTANTはポジション4か6、ゲイン・リダクションは−7〜−10dBぐらいになるよう調整したところ、オリジナルほどではありませんが特有の詰まったような雰囲気が出ました。リリースが長めで連続感が出るコンプで、これも実機の特徴をよくつかんでいます。なお本機は、サンプル・レートが44.1kHzから96kHzまで4段階で切り替えられます。面白いのは、ここの設定によって音が変わる点。例えばコード感や倍音を奇麗に聴かせたいボーカルやアコースティック・ピアノは88.2/96kHzで使用し、コンプのパンチ感を強調したいドラムやベースは44.1/48kHzで使用すれば、オリジナルには無い新たな使い方ができるでしょう。次にSSL卓のマスター・インサートに入れて、LINK MODEを"LINKED"に設定しトータル・コンプとして使用してみました。この場合L/Rchはリンクしており、入力の大きな方が優先されるので、各ノブはL/Rで大体同じ位置にしておくのがよいでしょう。TIME CONSTANTはリリース長めの4、5、6のどれかで曲調に合わせれば、FAIRCHILDらしいコンプ感が引き出されます。また、ゲイン・リダクション量を−5〜−10dBと強めにかけると、音にパンチが出ます。このLINK MODEには"LAT VERT"という設定もあります。これはいわゆるMSと同じような考え方で、定位の中心と外側のボリューム感を個別に調整できるので便利。いわゆる現代風のきっちりしたMSコントロールというよりも、何となく効いているアバウトさがあり、ほかの機種に無い独特の効果が得られます。


本機のA/Dの音色はフラットかつレンジが広く、高級感があります。一方のD/Aはいわゆるドンシャリ系の派手めの音色。ほかに実機のハム・ノイズをシミュレートした"MAINS"など、設定の組み合わせを考えて使用すれば、トラック・メイクからミックス/マスタリングまで音楽制作のさまざまな局面で使いでのある一台となるでしょう。

▼リア・パネル。左より電源インレット(100/120/220/240V対応)、Termination ON/OFFスイッチ、ワード・クロック入力(BNC)、S/P DIF入出力(オプティカル、コアキシャル)、AES入出力(XLR)、キャリブレーション付きアナログ出力L/R(XLR、TRSフォーン)、キャリブレーション付きアナログ入力L/R(XLR/TRSフォーン・コンボ)




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)

撮影/八島崇

WAVES
PuigChild
378,000円
ADコンバーター▪周波数特性/10Hz〜24kHz▪全高調波歪率/<0.0006% DAコンバーター▪周波数特性/20Hz〜21kHz▪全高調波歪率/<0.003%▪最大出力/+24dBu▪出力インピーダンス/600Ω その他▪外形寸法/440(W)×85(H)×220(D)mm▪重量/約7.5kg(実測値)