ニュアンスが異なる実演奏のサンプルを多数収めたストリングス音源

MIROSLAV VITOUSString Ensembles 2.0
ウェザー・リポートの初代メンバーとして有名なチェコのジャズ・ベース奏者、ミロスラフ・ヴィトウスによるブランド=MIROSLAV VITOUS。同社がYELLOW TOOLのサンプル・プレーヤーEngine 2をプラットホームにしたサンプル・プレイバック式のストリングス音源、String Ensembles 2.0(以下SE 2.0)を発売した。本格的なストリングス音源が出回っている中で、SE 2.0はどれだけの実力を持つのか、興味津々である。

オーケストラ編成での演奏に対応
甘くてしっとりとしたサウンド


Mac/Windowsに対応し、VST/RTAS/Audio Unitsプラグインのほか、スタンドアローンでも動作するSE 2.0。パッケージはDVD-ROM2枚組で、総容量は約10.9GBとなっている。本ソフトはフル・オーケストラ(バイオリン24人+ビオラ14人+チェロ10人+コントラバス8人)と小編成のオーケストラ(バイオリン14人+ビオラ8人+チェロ5人+コントラバス4人)を基準に作られており、弦楽四重奏や単体楽器の演奏は想定されていない。単体楽器のパッチも用意されているが、それらはあくまでオーケストラ全体のアンサンブルに足して使うためのものだ。特筆すべきは、14本の第1バイオリンと10本から成る第2バイオリンのアンサンブルを個別に収めており、それぞれを独立して扱える点。各アンサンブルは別の奏者によって演奏されており、第1バイオリンは華麗、第2バイオリンは地味ながら安定した演奏という具合に、きちんと違う音色になっている。演奏はチェコ国立交響楽団で、録音も楽団のホーム・スタジオで行われている。音を鳴らすとすぐに気付くのは、独特の甘くてしっとりとした音色。ストリングス音源の弱点であるスタッカートやバイオリンの高域においても、甘く泣かせる響きには説得力があり、十分にリアルだ。SE 2.0は、一度録音した演奏をデジタル領域で編集しておらず、ニュアンスの違う音色を一つ一つ演奏して収めている。収録されたサウンドはチューニングやタイミング、ビブラート、音の膨らみ方などが程良くズレており、とても音楽的だ。

多彩な演奏法による音色を
組み合わせたり切り替えて使用可


SE 2.0の収録内容はバイオリンやビオラなど、個々の楽器音色にあたる"パッチ"と複数のパッチを組み合わせた"プロジェクト"に大きく分かれている。まず、パッチは楽器別に大きく4種類を用意。バイオリンのパッチ数は189、ビオラは101、チェロは109、コントラバスは68だ。このほか、複数楽器によるユニゾンのパッチを16種類、オクターブ・ユニゾンのパッチを18種類収録。これらのパッチ群は、組み方のコンセプトによって5つ(コントラバスは4つ)に分類されており、それぞれが編成と演奏法によって細分化されている。パッチはシンプルに組まれたもののほか、発音に使われない"E0"から"B0"までの鍵盤をスイッチとして用いる機能="Eキー・スイッチ"で演奏法を切り替えられるもの、モジュレーション・ホイールで演奏法や音の立ち上がり方、音符の長さなどを変更できるものが用意されている。さまざまな長さの音符が組み合わせられたフレーズを演奏する際は、後者のパッチが便利。また、同じ音を同じ演奏法で複数回サンプリングしたパッチもあり、同音が繰り返されるフレーズをプレイするときでも、リアルな演奏表現が可能だ。演奏法にはサステインやピチカート、スタッカート、トレモロ、トリル、消音器付き、駒に近い位置を弾くスル・ポンティチェロなどを用意。特にチェロのアンサンブルの優美さは素晴らしい。最低音のCとそれより半音高いC#、そしてGとG#を組み合わせた和音を作ってみたところ、短2度のぶつかりが2回登場しているにもかかわらず、ハーモニーとして聴けるのには恐れ入った。プロジェクトには、モジュレーション・ホイールによる音色切り替えに対応したものも用意されている。実際にキーボーディストが演奏するためのリアルタイム・プレイの項目に分類されたプロジェクトは、何も考えずに演奏しているだけでも非常に気持ち良い。また、スコアリング・テンプレートのプロジェクトは、打ち込みに便利なようにMIDIチェンネルごとに違う音色が割り振られている。SE 2.0はオーケストラの厳密な再現ではなく、今作られている音楽の中で"使える音色"を追求している。既にハイエンドなストリングス音源を所有している人にとっても、そのサウンドと表現力の豊かさは大きな魅力だろう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)
MIROSLAV VITOUS
String Ensembles 2.0
オープン・プライス (市場予想価格/ 73,710円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5以降、1.8GHz以上のINTEL製CPU、VST2.4/RTAS/Audio Units/スタンドアローン(すべて32ビット)対応 ▪Windows/Windows XP(32ビット)/Vista(32/64ビット)/7(32/64ビット)、3GHz以上のINTEL Pentium 4もしくはAMD Athlon XP、VST2.4/RTAS(32ビット)/スタンドアローン対応⃝共通/1GB以上のRAM空き容量(2GB以上を推奨)、7,200回転以上のハード・ディスク、12GB以上のハード・ディスク空き容量