SuperNatural+歴代のROLANDサウンドを備えた音源モジュール

ROLANDIntegra-7
Integra-7は、ROLANDが新たなフラッグシップとして送り出したラックマウント音源。最近のハードウェア音源というと、キーボードやパッドなどを備えた演奏志向の楽器が多い中、満を持して登場した超ド級の音源は、現在主流のDAWとプラグインを使った音楽制作にも大きなインパクトを与える可能性を感じさせる。個人的にも興味津々な新製品、早速レポートしていきたいと思う。

生楽器の特性を見事にとらえた
SuperNaturalの優れた演奏表現


Integra-7は、ROLANDの最新技術を搭載した16パート・マルチティンバー音源モジュールだ。そんなIntegra-7の最大のトピックは、同社のシンセサイザーJupiter-80/50で反響の大きかったSuperNatural音源を搭載していることだろう。SuperNaturalは、1音弾いたときの音色だけでなく、フレーズを演奏した場合の音の変化にも注目し、プレイヤーの演奏に応じて刻々と変化するサウンドを実現する音源だ(写真①)。

▼写真① 本体の天板にはブロック・ダイアグラムが書かれており、音源の内容と信号の流れが一目で理解できるようになっている。音源はSuperNatural/PCM/EXPANSIONに大別され、SuperNaturalはアコースティック/シンセ/ドラム・キットを用意。PCMにはシンセ/ドラム・キットがスタンバイする。EXPANSIONは4つの仮想スロットに対して拡張ボードSRXシリーズ12種類などの音色をアサインしていくというもの。それらを計16パート使用することができ、それぞれに内蔵のマルチエフェクトによる処理も可能。さらに新技術Motional Surroundにより、16パート+外部入力1パートをサラウンド定位させ、各パートの動きまでもコントロールすることが可能。RSS技術を応用し、2chやヘッドフォンでもサラウンド効果を得ることができる。ちなみに本機にはDAWソフトのCAKEWALK Sonar LE(Windows)も付属


実際に演奏してみると、これまでのどの音源とも異なる反応が実感できる。例えばストリングスの場合、モジュレーション・コントローラーにアサインされたコントロール・チェンジにより音量が変化するだけでなく、音色も変化する。これによってストリングス独特のロング・トーンでのクレッシェンド/ディミヌエンドが思いのままに行える。ブラスの場合も同様の操作でダイナミクス表現が行えるほか、ピッチ・ベンドを操作するとブラスらしいグリッサンド・アップ/フォール・ダウンになる。また素早い演奏に対し、音程が甘くなるのもブラスらしい。こういったオーケストラ楽器だけでなく、エレキベースやエレキギターも強力だ。隣り合った音を素早く弾けば音が重ならずに単音(モノフォニック)のフレーズになり、プリングやハンマリングのニュアンスも見事に再現される。そのまま特別な操作無しに2音以上を同時に弾けばコード演奏になる。ベースのダブル・ストップや、ギターのカッティング交じりのソロ・フレーズもごく自然に演奏できる。しかも弾き方で微妙にサウンドが変わったりフレット・ノイズが混入したりするので、実に血の通ったフレーズになる。アコースティック系ではドラムも強力だ。連打時に同じサウンドを繰り返さないのはもちろんだが、2打目が前の鳴りを反映し打面の状態の違いを再現する。クラッシュ・シンバルの連打などは、これまでの他の音源には無い表現力だ。さらに、モジュレーション・ホイールを上げればロール奏法になるのも気が利いている。こういったSuperNaturalによる挙動の背景では、演奏の状況に応じて刻々と変化するサウンドを提供するための膨大な演算が行われているはずだ。しかし、弾いてみると何のタイムラグも無く、実際にそこにある楽器を演奏している感覚が強くする。こういった指から音に直結している感じは、やはりハードウェア音源のメリットを最大限生かした部分と言えるだろう。SuperNaturalでは、アコースティック楽器のシミュレーションだけでなく、本格的なシンセサイザーも内包している。基本的な構成は、オシレーター/フィルター/アンプに、エンベロープとLFOというアナログ・シンセ・タイプの分かりやすいもの。1音色に対しこれを3系統備え、さらに内蔵のマルチエフェクトも使用できる。オシレーターは張りのあるサウンドで音圧がある上、1オシレーターで複数オシレーターのような厚みを実現できるSuperSaw波形も装備する。個人的には、広い帯域にみっしり詰まったノイズ波形の質の良さも気に入った。こういった基本波形の音の良さは、DAコンバーターやそれ以後のアナログ部分も含めたハードウェアの最適化によるところも大きいのだろう。フィルターも秀逸で、HPF/BPFに加えて最も使用頻度の高いLPFに関しては、何と4種類のバリエーションを備えている、しかもバリエーションごとにフィルター・スロープを12dB/octと24dB/octに切り替えられるという念の入れようだ。バリエーションによってレゾナンスのピークの鋭さとひずみ感が変わるので、アンビエント・ミュージックなどで聴かれるような美しく透明感のあるレゾナンス・スウィープや、にじむように粘る黒っぽいシンセ・ベースなど、目的に応じて使い分けることができる。

自由度の高いPCMシンセ・サウンドと
XV-5080や拡張ボードの音色も用意


Integra-7はPCMシンセとしての性格も持っている。内蔵メモリーのPCM波形を元にフィルターやエンベロープで音色を作るわけだ。この場合には、1音色あたり4つまでのパーシャルを重ねられる。非整数倍音を含んだいわゆるデジタルっぽい波形も多数装備し、SF映画やファンタジーのサントラにあるような不可思議なサウンドのプリセットも豊富だ。さらに、キーボードやさまざまな民族楽器、ブラスやストリングスなどをサンプリングした音色も充実している。これらは、何とROLANDのベストセラー音源XV-5080とエクスパンション・ボードSRXシリーズ12種類の音色をすべて内蔵している! とにかくさまざまな現場で使われてきた音色だけに定番ぞろい。"いつものストリングスやピアノ"といった感じで、耳になじみのあるサウンドを使えるのがうれしい。また、TB-303やTR-808、Junoといった同社ビンテージ機種のサウンドも本家ならではの説得力があり、こちらも好印象だ。これらエクスパンション音色は、本体の仮想拡張スロット4つに読み込んで使用する形となる。SuperNatural/PCMにかかわらず、Integra-7のすべての音色には前述したマルチエフェクトの使用が可能。それも16パートすべてに独立して用いることができる。アンビエント・パッドのようなデジタル・シンセの音作りや、ディストーション・ギターのような音色にはエフェクトは欠かせないのだが、単独で演奏するときだけでなく、マルチティンバーで同時に鳴らす場合でも各パートに任意のエフェクトをかけられるわけだ。

5.1ch分の出力端子を備えるほか
2chの仮想サラウンド出力も可能


Integra-7には、1系統のデジタル出力のほか、8系統のアナログ出力が装備されている。これを使って4ステレオによるパラアウトのほか、サラウンド出力も可能。新機能Motional Surroundによる5.1chサラウンド定位を実現し、内蔵の16パートと外部入力1パートを空間上の任意の場所に定位させることが可能だ。しかも各パートは左右だけでなく奥行きも含め自由に動きを付けることが可能となっている。また、自由立体音響技術RSSの応用により、メインのステレオ・アウトやヘッドフォンでもこうしたサラウンド効果を得ることが可能だ。実際に筆者の環境で使ってみると、スピーカーでモニターする場合は聴取位置が結構シビアだったのだが、ヘッドフォンの場合には音が回り込む効果を手軽に経験できた。こういったサラウンド設定、さらには音源やエクスパンション・ボードのエディットは、専用のVSTiプラグインやAPPLE iPadアプリ(画面①②)からも可能となっている。Integra-7はUSB経由でパソコン(Mac/Windows)とのオーディオ信号のやりとりも可能なので、USB接続するだけでDAWの機能を拡張する音源ボードのようにも使用できる。ハードウェアならではのスピーディでキビキビとした反応と、パソコンやiPadの広いディスプレイによる操作を両立できるというわけだ。

▼画面① 専用のiPadアプリでは、音色選択やボリューム/パン、シンセ・エディットなどが行える。画面は音色選択をしているところで、アイコンとリス トによる視認性の高い操作が可能。なお、本体とiPadの接続はUSB端子のほか、同社のワイアレスUSBアダプターWNA-1100RL(別売)を使え ば無線でやり取りが行える



▼画面② 専用iPadアプリでMotional Surroundの定位を設定している画面。前後左右のポジションに対して、各パートの楽器を任意に定位させられる


 


最近の音楽制作ではソフトウェア音源が用いられることが多いのも事実だが、一方でハードウェア音源は楽器として目覚ましい進化を遂げつつある。鍵盤やパッドをたたけばすぐに反応するレスポンスの速さと演奏表現の豊かさ、1台で完結しているがゆえの安定した強い出音。Integra-7は、そういった利点を簡単かつ柔軟に音楽制作に取り入れることができる製品だ。豊富なプリセットは、サウンドトラックをはじめとするさまざまな音楽制作の要求を満たすのに十分な量と質を備えているし、SuperNaturalの表現力はフレーズに説得力をもたらすとともに"打ち込み"の作業量を大幅に軽減してくれるだろう。電源を入れるだけで全機能が安定して使える環境は、時間に追われるクリエイターにも大きな恩恵になる。今後さまざまな現場で見かけることになる、そんな予感を持たせる製品だ。

▼リア・パネル。中央上がインプットL/R(フォーン)、その下はMIDI THRU/OUT/IN。右手は上がアウトプット1~8(フォーン)、右下にアウトプット1~2(XLR)をレイアウト。その左にはデジタル・アウト(S/P DIFコアキシャル)とUSB端子が並ぶ




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)

撮影/八島崇

ROLAND
Integra-7
オープン・プライス (市場予想価格/170,000円前後)
▪最大同時発音数/128(音源負荷で変化)▪パート数/16▪トーン/SuperNATURALアコースティック、SuperNATURALシンセ、SuperNATURALドラム・キット、PCMシンセ、PCMドラム・キット(GM2音色含む)▪拡張用仮想スロット/4(本体内の拡張用音色をロード)▪エフェクト/マルチエフェクト:16系統/67種類、パートEQ:16系統、ドラムパート用コンプ+EQ:6系統、モーショナル・サラウンド、コーラス:3種類、リバーブ:6種類、マスターEQ▪外形寸法/481(W)×89(H)×262(D)mm▪重量/3.9kg