MIDI/USB/CV対応の仏ソフト・メーカー発アナログ・モノシンセ

ARTURIAMinibrute
The 2012 NAMM Showで大きな話題をさらったMinibrute。ソフト・シンセ・メーカーの雄ARTURIAが、その技術の粋を集めて作った同社初のアナログ・モノフォニック・シンセだけあって、品質の高さは折り紙付き。さらにコンパクトなボディにこれでもか!と新機能が満載です。

現代的なウルトラ・ソウ機能
STEINER PARKERフィルターも秀逸


まず箱から出してみて、その製品としての品質の高さにびっくり。小さな筺体でありながら頑丈で手触りも良く、ノブやスライダーもマットな質感で、操作に関して小さ過ぎて困ることも、安っぽくてテンションが下がるなんてこともありません。さぁ、それでは実際に音を出していきましょう。まずはオシレーター。本機はノコギリ波、三角波、矩形波、ホワイト・ノイズ、外部入力、そしてサイン波と矩形波の切り替え可能なサブオシレーターを同時に出力可能。各音量はオシレーター・ミキサーによって調整できます。また各波形には従来では見られなかった個性的な色付けをする新しい機能があります。まずノコギリ波にはアナログ・シンセではなかなか見ることのなかったウルトラ・ソウを用意。これはノコギリ波を重ね合わせることで、微妙な揺らぎのある特徴的なデチューン・サウンドが得られるもの。トランスのリードなどを作成する際には必須ですね。矩形波にはおなじみPWMがスタンバイ。音の厚みも簡単に足していけます。本機は波形ごとにピッチを変更することはできないので、こうした機能でデチューン効果を作っていくことになります。三角波にはメタライザーを搭載し、三角波を複雑な形状に処理することで金属的な響きを付加できます。この各波形ごとの機能と微妙な調整が可能なミキサーだけで、相当なバリエーションの音色を構築できるでしょう。特にメタライザーによって金属的な響きを作っていくと、かなりアナログ的なひずみもありながら最新のプラグイン的な高域のハイエンドも聴こえてきて、守備範囲の広さを感じることができます。従来のアナログ・シンセの温かみのある音から、最新のジャンルでも通用するモダンな音まで幅広くカバーできるというわけです。続いてフィルターです。本機は"STEINER PARKERフィルター"を装備。STEINER PARKERはなかなか見かけることの少ない名前ですが、個性的かつ素晴らしいキャラクターのアナログ・フィルターで知られるシンセ・メーカーらしいです......"らしい"と書いたのは、実は同社の製品は激レア中の激レアでして、筆者も実物を見たことがありません。そんなレア・モデルの心臓部とも言えるフィルターが、この価格のシンセで体感できるなんて......! しかも、このフィルターはマルチモードで、ローパス/バンドパス/ハイパス/ノッチを切り替え可能です。もちろんフィルターのキャラクターも、プラグインやバーチャル・アナログ機では味わえないもので、各モードともレゾナンスが発振したときの荒々しさはまさにアナログ・シンセの真骨頂。発振しながらも音量の下がらないフィルター方式なので、楽曲内でスウィープさせながら発振まで持っていってそのままテンションをキープすることが可能です。こうした発振を後述するLFOによって変調させて暴れさせたり、なまめかしいフィルターの微妙な開閉を行ったりしていると、新機能が満載されながらもそれだけでない、本機の基本的な質の高さを耳にできます。またモジュレーションも充実。まずはフィルター用とアンプ用の2基のエンベロープから。特にフィルター・エンベロープにはSlowとFastのスイッチが付いています。これはエンベロープ全体の速度を決めるスイッチで、例えばパーカッシブな音を作るときにはFastにしてアタック・ゼロ&ディケイ短めなどで鋭利な変化を描き、パッドなどではSlowでゆったりとした表情を付けるなんてことが簡単に行えます。さらに、例えば演奏中にFastからSlowに切り替えると、ディケイの設定次第でフィルターの開閉がステイするほどゆっくりになり、極端な表情の変化を一瞬で作ることも可能です。また、LFOはビブラート専用と各パートにアサイン可能なものを計2基装備。後者はLFO波形の選択だけでなく、後述するアルペジエイターとのテンポ同期も可能です。

特徴的なひずみのBruteFactor機能
"WIRE12"でも本機を使ってみた!


ここまで紹介しただけでも、この小さなトップ・パネルに効率的にパラメーターがレイアウトされ驚愕モノなのですが、本機にはまだまだ機能があります。中でも特筆すべきは機能充実のアルペジエイターで、ノブで設定したテンポに対して音符の設定も可能。さらにモードやオクターブ設定はもちろん、6段階ものスウィング機能やタップ・テンポも搭載。アルペジエイター自体のON/OFFだけでなくホールドも可能なので、音を鳴らしながら両手でどんどんシンセサイズしていきましょう。ちなみにグライドやモジュレーション・ホイール、ベンド・レンジの設定に加え、アナログ・シンセでありながら鍵盤のアフター・タッチ設定まで行えるようになっています。さらに外部との連携も完ぺき。MIDI IN/OUTはもちろん、パソコンとMIDIデータのやり取りなどが行えるUSBに加え、CV/Gate入出力まで装備しているのです。"今さらCV/Gate?"と思われるかもしれませんが、アメリカ/ヨーロッパで大流行中のモジュラー・システムとの融合を図る上では大変重要な要素になります。マニュアルもCV/Gateアウトのルーティング先としてモジュラー・シンセと明記していますしね。ちなみに、VCFフリケンシーとVCAにもCVインが装備されていますので、外部モジュールやCVシーケンサーなどから複雑な変調を行うことが可能です。またフィルターの前段階にオーディオ入力を装備しているので、Minibrute最大の特徴とも言えるSTEINER PARKERフィルターで処理することはもちろん、このオーディオ入力信号が設定したスレッショルドを超えるとMinibrute内部のエンベローブが動く、なんて面白い機能もあります。ちなみにこの場合、スレッショルドの設定はUSB接続したコンピューターの専用ソフト(Mac/Windows)から可能です......アナログ・シンセなのに、ですよ(笑)!さらに、まだMinibruteならではの機能があります。それがBruteFactorです。BruteFactorはマニュアルによると"ヘッドフォン・アウトをエクスターナル・インに入れてフィードバックさせる機能"とあります。こうしたパッチング、実はアナログ・シンセではよく使われる手法です。これをビルト・インしてしまうなんて、さすが過ぎる! 単にレベルが上がってひずんでいくのではなく、音の変化に合わせてひずみ方が変わっていくので、予想だにしない効果が生まれてきて素晴らしいです。筆者もLAMAのレコーディング中、ノイズを用いてパーカッション・サウンドを作成し、曲の構成に合わせてノブをいじりながら録音していったのですが、その際、このBruteFactorを上げてみるとパーカッション・サウンドのアタック部分に特徴的なひずみが出始め、展開を表情豊かに仕上げることができました。フィルターを開き切ってもさらにその上に行ける感覚......と言えば伝わりやすいでしょうか。調子に乗って上げ過ぎるのを自制するのが大変です。ちなみにこのBruteFactor、全開に近付くと設定によっては自己発振する(?)ようで、このノブが上がっているだけで音が出ます。いじり始めた当初、ここが発振するとは知らずに"なぜ音が出ちゃうんだ!?"と当惑してしまいました......お恥ずかしい。さて、今回はちょうどタイミングが合ったので、8月25日に横浜アリーナにて行われた"WIRE12"にて、筆者がサポート・メンバーを務める電気グルーヴのライブでも本機を使用してみました(写真①)。パソコンからオケが流れる中、ノイズやシーケンスを足す目的で使用したのですが、オケが埋まっている個所であっても本機の出音は負けることなど一切無く、存在感を誇示していました。アリーナの会場でここまでの出音は、さすがにアナログの面目躍如といったところでしょうか。筐体の堅牢性も含め、ライブ使用においても何ら問題が無いことを明記しておきます。

▼写真① "WIRE12" の電気グルーヴ・ライブにてMinibruteを使用。横浜アリーナの大会場でもオケに埋もれないサウンドを鳴らしていた(Photo:Kyouko Ito)



▼リア・パネル。左の6つはCV/Gate関連で、ピッチ・アウト、ゲート・アウト、ゲート・イン、アンプ・イン、フィルター・イン、ピッチ・イン(以上モノラル・ミニ)、その右はヘッドフォン、マスター・アウト、オーディオ・イン(以上フォーン)。ゲート・ソース切り替えスイッチを挟んで、MIDI OUT/IN、USB端子をレイアウト。USB端子は、パソコンからのMIDIデータ伝送や専用ソフトMinibrute Connectiionによるパラメーター操作、ファームウェアのアップデートの際に用いる




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)

撮影/八島崇(写真①を除く)

ARTURIA
Minibrute
63,000円
▪信号回路/アナログ▪オシレーター・ミキサー/ノコギリ、矩形、三角、ホワイト・ノイズ、サブ(矩形、サイン)、オーディオ・イン▪エンベロープ/2(フィルター、アンプ)▪LFO/2(LFO1はサイン/三角/ノコギリ/矩形/ランダム×2から波形セレクトし、デスティネーション選択可能。LFO2はビブラート専用でトリル・アップ/トリル・ダウン/サインから波形セレクト)▪シグナル・エンハンサー機能/PWM、ウルトラ・ソウ、メタライザー▪アルペジエイター/4モード▪鍵盤数/25▪外形寸法/390(W)×70(H)×325(D)mm▪重量/4kg