リアンプのルーティングをシンプルにしてくれるリアンプ・ボックス

RADIALReamp JCR
 レコーディング・テクニックのひとつ、"リアンプ"は本誌でもよく目にします。DIを使ってギターなどのドライ・サウンドを録音した後、それをアンプに入力し、アンプから出力される音をマイクで録音し直す手法です。さまざまなメリットがありますが、ミックス時に複数のアンプやエフェクターを試したり、セッティングを変えてじっくりとサウンド・メイクできることが最大の利点だと思います。リアンプ・ボックスは、そういったリアンプの接続を簡潔化するもの。今回レビューするReamp JCRは、初代リアンプ・ボックスのREAMP Reampを生み出したジョン・クニバーティ氏が開発したものです。

ライン・レベルの入力信号を
楽器レベルに変換して出力


Reamp JCRの用途としては、信号の変換をしてくれる魔法の箱とでも言いましょうか、入力はXLRとTRSフォーン、出力はTRSフォーンが用意されていて、レコーダーやオーディオI/Oからのライン出力をギターやベースのアンプに入力できるよう楽器レベルに変換してくれます。


実際リアンプを行うときは入出力のレベル調整が大切ですが、本機はリアンプに特化しているだけあり、出力レベル・ツマミが搭載されて手間要らず。この手軽さはうれしいし、モチベーションが上がります。もちろん位相反転、グラウンド・リフトなどベーシックな機能も付き、地味ながら非常に便利。筐体はスチール製のしっかりした作りとなっていて、これによりノイズ・シールドに優れているので、ノイズが混入することに対するストレスは感じません。


同社DI同様クリーンでワイドなサウンド
プラグイン音源のリアンプにも便利


ここからは実際の使用感をお伝えしましょう。今回はいつも使っている1966年製のFENDER Jazz BassとEPIPHONE Sheraton IIで試してみました。ちなみにケーブルはBELDEN 9395、MONSTER M Bass-6を採用しています。


使用してみて特に便利に感じたのは、ミュート・ボタンです。リアンプ時はアンプのセッティングやエフェクターの接続などをいろいろと試すことになるのですが、その都度このミュート・ボタンで音を消すことができます。またハイパス/ローパス/バイパスの切り替えスイッチが付いていて、ギターのローカットやベースのハイカットといった、録音時のサウンド・メイクに便利。リアンプ・ボックスを選ぶ上で、この2つの機能は大きなポイントになるのではないでしょうか。


サウンドの特徴としては、同社のDI同様良質のアメリカ製カスタム・トランスが使われているとのことで、非常にクリーンで色付けの無いサウンドはさすがです。20Hz〜20kHzと周波数特性もワイドで、変に硬いサウンドになることがなく、自然で伸びやかでした。レンジが広く感じられたのもパッシブ回路だからだと思います。リアンプは実際手間のかかる作業で、せっかくセットしたのに音質が変化してしまったら、気持ちも萎えるもの。その心配が無いのは、当然ですがうれしいですね。逆に言えば、使用するケーブルによってサウンドが大きく左右されることにもなります。


普段筆者はライン録音後、アンプ・シミュレーターをバス出力にかけて、素の音とアンプのサウンドをミックスして音を仕上げることが多いのですが、今回リアンプを試してあらためてアンプのマイク録りの良さを再認識しました。また同じ演奏で違うアンプを使用し聴き比べることによって、よりアンプの特徴を理解する機会にもなりました。個人的な発見としては、ソフトのRHODES音源のリアンプによるサウンド・メイク。プラグインのアンプ・シミュレーターではなかなか出し切れない空気感と存在感を得られました。パソコン内で完結しがちな音色のエディットも、この一手間で広がりと可能性を見つけられるのですね。


 


デジタル・プロセッシングが発達した昨今、さまざまなアンプ・シミュレーターやプラグイン・エフェクトがあり、アンプのマイク録りと"ほぼ変わらない"ほど高精度になっていますが、その"ほぼ"の部分を埋める方法の1つが"リアンプ"ではないでしょうか。実際にマイクで録音したアンプの音は密度が違うし、サウンドの抜けや厚みを感じられ、より生々しい音を得られます。音作りの方法は多岐にわたり、それぞれにメリットがありますが、そのチョイスは最終的なサウンドに影響を与えていくのです。



radial2.jpg



▲本体左側。ライン入出力(TRSフォーン)、ミュート・ボタン、フィルター切り替えスイッチ、出力レベル・ツマミを装備


 


radial1.jpg



▲本体右側。位相反転スイッチ、グラウンド・リフト・スイッチ、マイク入力(XLR)が並ぶ


サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)



RADIAL
Reamp JCR
36,750円
●周波数特性/20Hz〜20kHz ●最大入力レベル/+21dBu@20Hz ●外形寸法/140(W)×51(H)×89(D)mm ●重量/1kg