強力な新パッチの搭載により表現力が向上したストリングス音源

AUDIOBROLA Scoring Strings 2.0
 フィルム・スコアやTVショウの音楽など、ウェストコーストのショウビズ界で活躍中の現役作曲家アンドリュー・ケレステスが開発したLA Scoring Strings (以下LASS)は、2010年の発売と同時に"仕事に使える"ストリングス音源として定番の地位を確立した、筆者周辺でも愛用者が多い製品だ。そのLASSが今回バージョン・アップを遂げてLASS2となった。評価の高い実用的なサウンドを受け継ぎつつ、さまざまな機能やモジュールの追加により大幅な表現力アップを果たしているようだ。早速レポートしていこう。

ノンビブラートやトリルも搭載し
実用性が高く洗練されたサンプル


いくら高機能の音源でも、肝心のサウンドが良くなければどうしようもない。特にストリングスのような誰もが知っている音色の場合には、サンプルの質が音源の価値に直結する。今回レビューするLASS2の特徴としてまず挙げられるのが、そのサンプルのクオリティの高さだ。


収録楽器は、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスだが、バイオリンのサンプルを元にしたセカンド・バイオリン用のパッチも用意されている。もちろんファーストとセカンドをユニゾンで演奏しても不要な干渉が起きないように調整されているので、標準的な五部編成のストリングス・アレンジを、何の制約もなく実現できる。奏法としては、ロング・トーンやスタッカート、ピチカートなど、一般的な奏法を網羅。さらに本バージョンでは、ロング・トーンでのビブラート/ノンビブラート、トリル、トレモロが追加されているので、ほとんどの楽曲で不足が生じることはないだろう。


収録サウンドは、いずれも明るく張りがある。強いリズム・セクションや派手なブラスの中でも存在感を失わないエッジの立ったサウンドだ。スタッカートやスピカート(弦の上で弓をバウンドさせて短く軽やかな音を出す)などの短く切って演奏したサンプルも食い付きが良く、アタックもそろっている。ありがちなサンプルのタイミングのふぞろいによるノリのもたつきは皆無と言っていい。また、ホール録音のような過剰なアンビエンスも無く、適度にドライで帯域の広い収録音はどのようなエフェクト処理も可能。まさに劇伴やCMなどに適したスコアリング・ストリングスだ。


このように粒のそろったサンプルの特徴により、LASS2のアンサンブル・パッチ(いわゆるストリングスの音色プリセット)では、何も考えずそのままMIDIキーボードで演奏してもストリングスらしいサウンドで演奏できる。曲作りの最初の段階などで、さまざまなフレーズを試したいときでも、上質な音色を使って"その気になって"アレンジを試せるし、場合によってはそのまま本チャンでも使えてしまうほどだ。


スクリプトを駆使したオリジナル・パッチで
よりリアルな表現も可能に


サンプルの実用度が高く、通常の演奏だけでもかなりの表現が行えるLASS2だが、演奏エンジンであるKontakt 5 Playerのスクリプトを駆使したオリジナル・パッチを使うことで非常にリアルで弦楽器らしい表現が可能になる(画面①②)。楽器ごとに用意されたロング・トーンのパッチでは、ベロシティをアーティキュレーションの変化に使用する。レガートで音と音をつなぐように弾いた場合、強く演奏すれば一弓で弾いたような完全なレガートに、中ぐらいの強さでレガートで演奏すれば目的の音に少しずり上がるようなポルタメントに、弱く演奏した場合は弦上で左手を滑らせたグリッサンドに変化する(チェロとコントラバスはグリッサンドは行われない)。



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▲画面① レガートのスクリプト画面。ベロシティによるレガートやポルタメントのコントロールなどが行える


 


Fig 2.jpg



▲画面② リズム・ページのスクリプト画面。フレーズのリズムに応じたベロシティの増減などを設定可能。"ペダルを踏んでいる間のみ適応させる"ようなことも可能だ


一方、強弱のコントロールにはすべてモジュレーション・ホイールを使う。弓の強さを変えたような音色変化を伴うクレッシェンドやディミニエンドが自由自在だ。さらにビブラートもコントローラーで可能。LFOによる機械的なモジュレーションではなくビブラート付きサンプルとのクロスフェードによるリアルな効果だ。こういった操作は、文章で書くと大変そうに思われるかもしれないが、実際に演奏するとすぐに慣れる。弱く弾けば音程の移行がポルタメント気味に甘くなるというのは感覚的に納得しやすいし、モジュレーションによる強弱も発音中に音量を変化させることの多いストリングスでは合理的だ。さらに、本バージョンから装備されたトレモロやトリル・サンプルを使ったパッチでも同様の奏法が可能で、ポルタメント付きトレモロなど高度な演奏が簡単に行える。トリルのステップ(音程幅)の設定も簡単で、使用していない鍵盤を使ってキー(調)を指定すれば、音階に応じた音程のトリルになる。


レガートだけでなく、スタッカートやスピカートにもスクリプト付きのパッチが用意されている。こういった短い音の連続では、同じサンプルの繰り返しが機械的な印象を与えることになりがちだ。これを避けるために、多くの音源では異なるサンプルを切り替えながら演奏するアンチマシンガンあるいはレピテーションと呼ばれる機能を装備している。LASS2でも当然同様の機能が装備されているが、同音の繰り返しだけでなく、異なる音程を経由した場合でも有効なのが優れている。"ソミソミ......"といったストリングスにありがちな繰り返しフレーズでも、毎回サンプルが切り替わるので、よりリアルな演奏になるわけだ。


また、こういった補正だけでなく、より積極的に演奏を補助するスクリプトも充実している。例えば、あらかじめリズム形に応じて強弱やタイミングなどを設定しておき、演奏に適用することができる。DAWに適当に打ち込んだだけの刻みフレーズでも、スクリプトを調節するだけでタイトで生き生きとした演奏に変わるわけだ。DAW本体で一つ一つのフレーズを修正するよりもはるかに簡単で直感的にフレーズのニュアンスを整えられるので非常に実用的だ。しかも、曲中で必要な個所でのみオンにして使用できる。


こういったスクリプトやパッチは、新搭載のARC(オーディオブロ・リモート・コントロール)スクリプトによってMIDIリモート・コントロールできる(画面③)。使わない鍵盤をスイッチにして音色やアーティキュレーションを切り替えることで、リアルタイムで表情豊かな演奏が可能だ。



Fig 4.jpg



▲画面③ ARCセクションでは、キー・スイッチなどを自由に設定可能。さまざまなスクリプトをMIDI鍵盤でリモート・コントロールできる


目的に応じた人数をチョイスして
編成や振り分けも自由に設定


一口にストリングスと言っても、実はさまざまな人数編成がある。クラシックのシンフォニーや映画のサントラのような大規模な編成の場合は、ファースト・バイオリンだけで十数人になるし、ポップスや通常の劇伴などでは4〜8人程度、さらにビートルズの「イエスタデイ」のような室内楽であれば、各パートそれぞれの楽器が1人ずつ......とさまざまだ。LASS2の最大の特徴の一つが、こういったさまざまなストリングスの編成にも柔軟に対応できる点にある(画面④)。



Fig 5.jpg



▲画面④ ARCセクションでは、ストリングスの各パートをステージ上に自由に配置して音像をコントロールすることもできる


例えばファースト・バイオリンなら、最大の16人編成のほか、その半分の8人編成、さらにその半分の4人編成を2種類に合わせて一人だけの演奏によるソロの音色を装備。それぞれのサウンドはよくそろっているので、どのように組み合わせても破綻がない。例えば、8人+4人で組み合わせれば12人編成になるし、全部足せば33人という超巨大編成になる。もちろん、ビオラ、チェロ、コントラバスも同様の編成を装備していて、目的に応じた人数をチョイスできる。


これらのパッチを使ったパート内での分割も自由に行える。例えば、ファースト・バイオリンを8人編成で演奏しつつ、途中で4人+4人に分割(divisi)してハモるといったことができるわけだ。こういった割り当ても、先に説明したスクリプトによって自動化されているので、単音または重音で弾くだけで自動的に人数の振り分けが行われる。従来の音源にあったような、重音で弾いた瞬間にいきなり人数が倍になるような不具合が無く、実にいい感じでハモってくれる。


また人数別の音色パッチを舞台上に配置し定位を振ったり、新搭載のコンボリューション・データによってリバーブを付加したりして、有名なストリングス・サウンドを再現したプリセットも付属。プリセットには"Psyco""Bat Man"といった名前が並んでいる。この状態でもARCによるアーティキュレーションは可能で、自由にポルタメントをかけたりハードに刻んだりして、"いかにもサントラ"というサウンドを演奏できる。


LASS2では、Kontakt 5対応のロスレス圧縮により、サンプル容量を17GBに軽減。64ビット環境ではメモリーを潤沢に使うことでさらに軽快な動作が実現できる。また奏法別のパッチを少なくする一方で、1つの音色の表現力を高めているので、パッチの選択に悩む必要が無い。動作環境も無償提供されるKontakt 5 Playerに準じてMac/Windows両対応、さらにVST/Audio Units/RTAS及びスタンド・アローンとしても使用でき、環境を選ばない。


 


LASS2は、誰もが想像するような典型的なストリングスの音色でありながら、情景描写的な表情も豊かだ。あらゆる意味で即戦力と言える。何か本格的なストリングス音源をと考えている人は、ぜひ検討すべき製品だ。


サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)



AUDIOBRO
LA Scoring Strings 2.0
147,000円
▪Mac/Mac OS X 10.6以降(10.7対応)、INTE L Core Duo 1.66GHz以上、2GB以上のRAM、V ST2.4/Audio Units/RTAS対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローン対応) ▪Windows/Windows XP/Vista/7、INTEL Pe ntium 4 2.4GHz/Core Duo 1.66GHz以上、2G B以上のRAM、VST2.4/RTAS対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローン対応)