即戦力となる100種類のプリセットを収録したオーケストラ音源

GARRITANGarritan Instant Orchestra
オーケストラ音源の老舗として有名なGARRITANから、低価格モデルのGarritan Instant Orchestra(以下GIO)が発売された。入門者向けモデルかと思っていたら、目的に特化した新しいタイプの音源で、実際に使ってみたら目からうろこが落ちる体験だった。その内容を早速レポートしていこう。

1.8GBという扱いやすい容量
CMや映画音楽に頻出するプリセット


GIOはMac/Windowsに対応し、VST2.4/Audio Units/RTAS/スタンドアローンで動作。再生エンジンにPROGUE ART ET TECHNOLOGIE Aria Playerを用いた16パート・マルチティンバーで、最大同時発音数128の音源である。容量が1.8GBと今時のストリングス系音源としては軽めなので、ノート・パソコンにも気楽にインストールできる。従来の大容量オーケストラ音源が楽器の音色にリアリティを追求し、各パートをユーザーが選んで組み合わせてオーケストラを作り上げるのに対して、GIOが革新的なのは最初からジャンルや雰囲気を想定した楽器アンサンブルのプリセットを100種類以上用意し、"すぐに使える"ようにプログラムされていることだ。ただし、弦・木管・金管にはソロ楽器のプログラムは無いため、その場合には同社のGarritan Personal Orchestraが推奨されている。収録されているアンサンブルのプリセットを紹介すると、メロディを採るのに最適なストリングスと木管を2種類ずつ組み合わせたアンサンブルEvolution1、13種類の弦と木管を組み合わせてモジュレーション・ホイールで音色の深みをコントロールするBig、金管を半音でぶつけたカオティックなサウンドから奇麗な和音までをコントロールするControl Your Chaos1、オケヒットとパーカッションの組み合わせWow Lots of Noise......と、楽器のパーツから組むと手間がかかるが、映画やCM音楽でよく耳にするようなアンサンブルをすぐにロードでき、これらを試していくだけでも相当に楽しい。アンサンブル名はPsychoやLots of Noiseといった、サウンドの雰囲気を表す単語からも検索できる。

ホイール操作で音色をクロスフェード
充実したグリッサンドやコード・パターン


個々のプログラムを見ると、まずBlended Texturesのフォルダーにはモジュレーション・ホイールで音色をクロスフェードできるものが集められている。例えばハープシコード+ストリングスの音色がハープ+ストリングスの音色に切り替わったり、ストリングス/コーラス/木管の3つの音色が次第にクロスフェードしたりと、こういった音色変化は実際のオーケストラ演奏ではあり得ないが、映画音楽においては映像のモーフィングのように説得力を持つこともある。不協和音のブラスがホイールの回転とともに和音に落ち着くような効果も有効性が高い。しかもキーボードで打ち込む際は、シンプルな和音にホイールのデータを加えるだけなので、複雑な演奏を簡単に実現できる点も魅力だ。個々の楽器単位のプログラム・フォルダーを見ていくと、Effect Patchesのフォルダーには、1つのキーを押すだけで不協和音を表現するカオティックなプログラムが30以上ある。例えばHarp and FXのフォルダにハープの音色は1つだけだが、グリッサンドやコードのパターンは19も存在する。オーケストラ・アレンジ経験者なら分かると思うが、ハープの用途は曲の区切りで駆け上がったり下がったりするグリッサンドが多く、このデータを作るのは手間がかかるもの。GIOなら曲のキーとテンポにマッチした鍵盤を1つ押すだけと実に容易。加えてパーカッション系の音色が充実している点も付け加えておきたい。また、音量・定位・エフェクト(アンビエンス)などはミキサー画面で調整できるほか、EQ、ADSR、ビブラートの深さとスピード、モジュレーション・ホイールによる音量変化などのエディットが可能。アンサンブル全体のアンビエンスは1種類だが、パートごとの出力も指定できるので、外部エフェクトで各パートの処理も可能だ。最後にGIOの動作の印象だが、非常に軽く、アンサンブルやプログラムの切り替えがスムーズなため、キーボードでの演奏に対する反応が良い印象だ。音色はさすがに小容量タイプなので最高にリアルではないが、アンサンブルやカオティックな特殊効果、パーカッシブな音色のクオリティは高く、メイン楽器のサポート的な使用には何ら過不足は無い。ライブ演奏でBlendedTexturesを使うのも一興だ。


GIOの最大の利点は、作曲の発想を広げる道具として役立つところだ。初めから雰囲気のある音色を使うことで、最終的な曲のイメージをつかむことができる。これは、従来のオーケストラ音源ではなかなか実現できなかったことで、その点でもGIOは革新的なアイディアの音源だと言える。

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年8月号より)
GARRITAN
Garritan Instant Orchestra
オープン・プライス (市場予想価格/18,900円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5以上、INTEL Core 2Duo 2GHz以上、2GB以上のRAM、7,200rpm以上のハード・ディスク、動作フォーマット:VST2.4/Audio Units/RTAS/スタンドアローン ▪Windows/Windows XP(SP2以降)/Vista/7、INTEL Pentium 4 2.8GHz以上、2GB以上のRAM、7,200rpm以上のハード・ディスク、動作フォーマット:VST2.4/RTAS/スタンドアローン