マイク界の名匠によるマルチパターンの真空管コンデンサー・マイク

MOJAVE AUDIOMA-300

 1990年代後期に登場し、リボン・マイクの常識を覆したROYER R-121、コンデンサー・マイク並みに高感度でマイクプリの種類を限定しないリボン・マイクR-122、さらなる進化をたどり往年の名機への賛辞を込めて作られたSF-24。このようにROYERは数々の名機を世に送り出して来たわけだが、そのROYERの創始者であるデヴィッド・ロイヤー氏が展開しているもう1つのブランドがMOJAVE AUDIO。過去の名機の音質を引き継ぎつつ改良された最新モデルのMA-300は、現在手に入るであろうベスト・コンディションの真空管コンデンサー・マイクだ。

余裕あるPAD調整の範囲が頼もしく
指向性の変更も専用電源で行え便利


ロイヤー氏がMOJAVE AUDIOを立ち上げたのは1985年。こぢんまりとした工房ながら、ボブ・クリアマウンテンら著名エンジニアなどからマイクや数々のデバイスの受注をしていた。そして19 98年にROYERブランドから発表したR-121のヒットで、一気にロイヤー氏の名はレコーディング業界に知れ渡ったという経緯がある。


そんな氏が手掛けたMA-300は本体、専用電源、マイク・ケーブル、電源ケーブル、ショック・マウントで構成され、それらがすべて1つに収まるハード・ケースに収納されている。さらにマイク本体専用のケースが付属するので、スタジオ間の持ち運びの安全面だけでなく、マイク本体をデシケーターに収納する場合にもとても勝手が良い。


マイク本体に目を移すと新しいデザインのMOJAVE AUDIOのロゴと型番が大きく刻印されている。マイク・ヘッドの中にはゴールドに輝く直径1インチ、厚さ3ミクロンのダイアフラムがうっすら顔をのぞかせている。本体裏側には100Hz、−6dB/octのハイパス・フィルターと−15dBのPADスイッチが装備されている。このハイパス・フィルターはボーカルやアコギを録る際に使い勝手の良い機能と周波数帯である。またPAD調整の幅も考えられており、通常ボーカルを録るようなマイクでアンプやドラムなどを狙うと、どうしても−10dBのPADではまだ入力音が大きい場合が多い。本機は"出音の大きい楽器でも余裕を持って対応する"という頼もしさが感じられる仕様だ。


連続可変型の指向性切り替えは、専用電源のフロント・パネルに装備されている。通常使用時でもそうだが、マイクをセッティングした後に切り替える場合には電源側に付いていた方が何かと便利だ。その横にはゴールド・メッキが施されたオーディオ出力端子(XLR)とマイクからの入力端子(7ピンXLR)、リア・パネルには電源スイッチ、電圧切り替え115V/230V(115Vの位置で100Vにも対応)、電源コネクターと並ぶ。


レンジが広く高解像度なサウンド
クリアだがノイズは抑えられている


ここからはサウンドをチェック。今回は、NEUMANN U67のビンテージ機とリイシュー機を用いてボーカル、パーカッション、アコギで比較した。


まずはボーカル。音像フィールドが広くてフラットな、そして透明度が高いサウンドがする。とても情報量が多く、かといってキツいところも無くさすがリボン・マイクで名をはせたデヴィッド・ロイヤー氏が開発した機種だけあるなと感心した。本機をキャラの立ったマイクプリやコンプで味付けすると今まで使っていたマイクよりさらに違いがハッキリ出る素直なサウンドとも言えよう。


パーカッションではより空気感が含まれたクリアなサウンドでルーム感もうまくとらえられた。アコギに使っても妙にギラついたところも無く、やさしく温かい低域を聴かせてくれた。荒めのストロークを弾いてもらいチェックしたところ、U67のビンテージ機にとてもアタックの感じが似ていた。要するにかなり使えるサウンドである。


一通りチェックしての総評は、デヴィッド・ロイヤー氏が真空管マイクとして新発表したイメージ通りのクオリティのマイクだな、と感じた。レンジが広く、音の粒子も細かくて高解像度なので、録音後さまざまな処理を施しても高品位なサウンドは保たれる。中でも特に好印象だったのが、ボーカル。これはもう一度使いたいと思うほどであった。近ごろハイビット/ハイサンプリング・レートといった環境でレコーディングする機会が増えたが、どうしても歯擦音やリップ・ノイズが気になり、かえってミックス時にその処理に時間を取られることも多い。しかし本機は、クリアに聴こえつつ、そういったノイズ的なサウンドは抑えられている。このサウンド・クオリティを考えると本機の価格はとてもリーズナブルだと言える。


 


筆者は近ごろこれまで使い慣れたマイクや機材が、逆にサウンドとしてキツく感じられるようになっていた。本機はそういった定番と呼ばれたマイクを超越した、さらなる新世代マイクと言える。


撮影:川村容一

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▲専用電源のフロント・パネル。左から連続可変型の指向性切り替えツマミ(無〜単一〜双)、オーディオ出力(XLR)、マイク入力(7ピンXLR)


サウンド&レコーディング・マガジン 2012年5月号より)





MOJAVE AUDIO
MA-300
147,000円
●指向性/無〜単一〜双指向 ●周波数特性/20Hz〜20kHz(±3dB) ●感度/−37dB 1V/Pa ●最大音圧レベル/120dB SPL(135dB PAD ON) ●外形寸法/50(φ)×220(H)mm ●重量/453g ●付属品/ハード・ケース、マイク単体用ケース、専用電源、ショック・マウント、専用ケーブル