人気PA用デジタル・コンソールProシリーズの最小/最軽量機種

MIDASPro2/Pro2C
 好きなコンソールは?と聞かれてMIDASの名を答えるPAエンジニアは多いでしょう。かく言う筆者もその1人で、大規模PAから録音まで広く使用されるそのサウンドは"さすが"の一言。これまでXL8、Pro9、Pro6、Pro3と4種類のデジタル・コンソールが発売されていますが、大きさは変われど、妥協無き音質や操作性の徹底ぶりが我々のようなファンを魅了し続ける理由だと思います。そして従来のノウハウをすべてまとめ、さらにコンパクト化されて昨年展示会で話題になったPro2(上の写真)とPro2C(写真①)がリリース。今回はPro2をテストしてみましょう。


Pro2C.jpg



▲写真① Pro2C。Pro2に比べトップ・パネル上のチャンネル数が8ch分少く、より小型化/軽量化を実現したモデル。性能はPro2と全く同じとなる


フェーダー数違いで2機種用意
46kg(Pro2Cは37kg)と超軽量


Pro2とPro2Cは、Pro2が16フェーダー、Pro2Cが8フェーダーとなるだけで、性能は同じ。会場規模や運搬を考慮し、Pro2Cをチョイスするのも良いでしょう。本体のみまたは本体と48イン/16アウトのI/OボックスDL251(写真②)が付属するセット以外にも、100mの双方向LANケーブルやハード・ケースが付属するツアーリング・パッケージなども用意されています。


 


251.jpg


▲写真② ツアーリング・パッケージなどに付属するI/OボックスDL251のリア・パネル。アナログ入力1〜48(XLR)とアナログ出力1〜16(XLR)という構成で、MIDI IN/OUT/THRU、AES/EBU入力1〜3(CAT5)、DIAGNOSTICS端子(D-Sub)も装備。またすべての出力をミュートするボタンも右上に搭載。リダンダントに対応するため電源は2つとなり、Pro2/Pro2Cとはイーサーネット・ケーブルで接続する。なお、サンプリング・レートはフロント・パネルより48/96kHzで切り替え可能だ


本シリーズは、多入出力に対応するI/Oボックスを追加すれば最高156入力/166出力まで拡張可能。DL251とのコンビのみでも64同時入力プロセッシング・チャンネル(56マイク入力/8リターン)、32アナログ出力(2つのモニター出力含む)となります。最上位機種のXL8と同じ40ビット/96kHz浮動小数点演算によりリッチでリアルで骨太なMIDASサウンドを再現します。


両機種共に275(H)×730.3(D)mm、幅はPro2が1,179.6mm、Pro2Cが882mmとかなり小型。さらに驚くべきは46kg(Pro2Cは37kg)という重量で、持ち運びが楽。本当にこのサイズから"あの音"が出るのか? そう勘ぐってしまう反面、カラフルなトップ・パネルからは、MIDASの卓の前に立ったときの安心感を得られます。


電源は標準でリダンダント(二重化)され、2系統。Pro2とDL251を2本のLANケーブルで接続すれば、リダンダントに対応したシステムの完成。"絶対の安心感"を得られます。これがプロの機材なんですよね!


モニターなどに便利な新機能MCA
最高28系統のDN370を使用可能


構成を見ていきましょう。トップ・パネルは前述の通りカラフルで、手前にはフェーダーを配置。同社デジ卓おなじみのトラック・ボールも健在です。中央上には15インチ日光下可視の大型のディスプレイを装備。昼の野外でも大丈夫なほど明りょうで表示も大きく、慌てず操作が可能で、明るさなどの設定や内部ルーティングはトラック・ボールを使って簡単に行えます。トラック・ボールの上部には入出力/パッチング/エフェクト/VCAなどのページにアクセスできるアサイン・ボタンが配置され、とっさの場合でも不自由を感じません。


画面右にチャンネル・サーフェス、チャンネル・フェーダー右にVCAフェーダー×8、ミュート・グループなどを配置し、POPグループ×6も装備。アサインされた任意のチャンネルを自動でまとめてくれるので、例えば外部PA乗り込み時には使用するチャンネルのみを表に出すといった使い方が想定できます。画面下には8つのアサイナブル・コントロール・ツマミを配置。画面で選択したエフェクトなどのパラメーターを直感的に制御できる新機能で、素早い操作に対応します。


またMCA(Mix Control Association)も新機能。これはモニター・オペレート時に頻繁に起こる"まとめてボリューム調整"の際に重宝する画期的な機能。例えば"コロガシにドラム3点とシーケンスを上げて"とドラマーにオーダーされ個々のつまみを調整しているときに、ベーシストから"上手ギターとドラム3点と歌を上げて"なんて言われたり......そんな経験はありませんか? MCAは、まとめておいたグループのフェーダーの上げ下げがなんとAUXごとに可能! ほかにも画面にすべてのメーターやフェーダー位置、ミュート/ソロの状況などを瞬時に表示するHOMEキー、各フェーダー上のレイヤー、セレクト、MUTEなどすぐに触りたいものが表面に配置されているので、基本的な操作が非常に楽。


内部にはMIDASと名コンビのグラフィックEQ=KLARK TEKNIK DN370を28系統、さらに40ビット浮動小数点演算の高品位エフェクトを内蔵し、6つのマルチチャンネルFXを立ち上げ可能。中でも今回の目玉はダイナミックEQで、"4バンドを自由にルーティングし、バンドごとにコンプレッション/エキスパンションできる"という優れモノ。なおエフェクト類は、今後のバージョン・アップで数も増えていくそうです。


リア・パネルには、マスターL/R出力、モノラル出力のほかに、Pro2に直接アナログ入出力できるXLR×8、モニター出力×2、複数のAES/EBU入出力、MIDI入出力、USBポート、クロック用のBNC、I/Oボックスと接続するためのイーサーネット端子×6と盛りだくさんで、USBフラッシュ・メモリーなどを介して簡単に同社他シリーズへデータのインポート/エクスポートも可能です。ちなみにPro2シリーズは将来的にAPPLE iPadとの連携が予告されており、グライコなどの遠隔操作が可能になるそうです。


EQするのに悩むほど
ストレートで芯のあるサウンド


テストを行った会場の常設システムは、筆者が使い慣れたMIDASの大型アナログ卓とKLARK TEKNIKのグラフィックEQという環境。それだけに、どれほど変わるのかすごく楽しみです。


スピーカーのアンプをオンにすると、いつも"ピー"というすごく小さいエアコンの高周波ノイズが乗るのですが、Pro2ではそのノイズがありません。マスター・フェーダーをユニティまで上げてもアンプ・ノイズしか聴こえず、卓のS/Nの良さや性能の素晴らしさが伝わります。パッチや各チャンネルのネーミング、グループ分け、トラックの色付けなど、"後々の操作を楽にする作業"を15分程度で完了。アナログのMIDASに慣れた耳にも違和感の無い太くストレートな音質で、EQするのがもったいないとさえ感じます。


続いてDN370でチューニング。帯域の切れ方や触り心地が実機と同じですごく好感触! 今回は音量が上がることにより起こる"高域の出過ぎ"を抑えるためにマスターにあらかじめダイナミックEQをインサート。ボーカルにはダイナミックEQと内蔵リバーブのKLARK TEKNIK DN780×2、そしてディレイをセットしておきます。


まず女性ボーカルもの(カラオケ)でチェック。早速ダイナミックEQが必要なタイミングが訪れました。ボーカルの2.8kHz辺りにかけてQ幅を若干広めにし、柔らかくコンプレッションするようにかけると、張って歌っているにもかかわらず耳に痛さが無く、またコンプによる圧迫感も無く自然で実に音楽的。これはアウトボードでも欲しい(笑)。続くダンス・ボーカル10人組のライブでは、覚えたてのMCA機能を駆使し、歌わないときはモニターに返しているマイクをまとめて下げます。マイクを振り回すライブのためいつもはハウリング寸前ですが、全く問題ありません。


アコギ、男性ボーカル、カホンという編成のバンドでも、ボーカルは先ほどと全く変わらず、EQするのに悩むくらい芯があるサウンド。ストレートかつ力強く、近接効果のある中低域を抜くのみで調整終了。アコギは70Hzにローカットを設定し、カホンは160Hz辺りの膨らみをカット。2kHz辺りのアタックを少し足せば簡単に締まったサウンドができました。音数が少ないほど単音ごとの音質でバランスの差が生まれるものなので、本当にPro2の音質の良さを実感できました。本番でも上位機種同様の音質をキープ。操作性も期待以上で、イージー・ミスが少なくなり、"現場に集中できる一品"であることが伝わります。


 


全世界のPAオペレーターの技術と経験、そしてアイディアを取り入れ、デジタル卓に不慣れなエンジニアでもアナログ・コンソールのように操作できるPro2は、現場やコスト、オペレーターを選ばない"新しい定番"となるでしょう。



リア_trim.jpg▲Pro2のリア・パネル(端子の構成はPro2Cと同じ)。左からDIAGNOSTICS端子(D-Sub)、MIDI IN/OUT/THRU、フット・スイッチ(フォーン)、VIDEO SYNC入力(BNC)、アナログ入力1〜8(XLR)、アナログ出力1〜8(XLR)、モニター出力L/R A(XLR)、モニター出力L/R B(XLR)、マスター出力モノ/L/R(XLR)、トーク・マイク入力(XLR)、トーク・マイク出力(XLR)、AES/EBU SYNC入出力(XLR)、AES/EBU 1&2/3&4入出力(XLR)、ワード・クロック入出力(BCN)、AES/EBU出力1〜6(CAT5)、電源部を挟みイーサーネット端子(CAT5)、USB端子×2、SCREEN端子(D-Sub)

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年5月号より)



MIDAS
Pro2/Pro2C
Pro2:3,622,500円 Pro2C:2,572,500円 ※いずれも単体価格
●システム最大入出力/156イン、166アウト ●マルチチャンネルFXエンジン/6 ●VCAグループ/8 ●POPグループ/6 ●MCAグループ/192 ●外形寸法/1179.6(W)×275(H)×730.3(D)mm(Pro2)、882(W)×275(H)×730.3(D)mm(Pro2C) ●重量/46kg(Pro2)、37kg(Pro2C)