AIR BAND搭載の個性的なEQモジュールを再現したプラグイン

 "確かにこれもEQだよな"とうなってしまうほど個性的なプラグインEQがリリースされました。今回レビューするのは、PLUGIN ALLIANCEが一押しするMaag EQ4で、アメリカのベテラン・エンジニア、クリフ・マーグ氏が新たに立ち上げたブランド、MAAG AUDIOが発売しているAPI 500規格のEQ4をプラグイン化したもの。ちなみにPLUGIN ALLIANCEも新しいブランドで、"メーカーごとに異なる販売方式やオーソライズ、アップデーターのダウンロードなどを1つにまとめてしまおう"という試みで集まったメーカーの統合ブランドです。あちこちにアカウントを作ってオーソライズする手間が省けて便利ですね。では、早速レビューしていきましょう。

積極的な音作りに向き
ローエンドや中域の調整に長ける


Maag EQ4は、VST/Audio Units/RTAS/TDM/AAX形式で動作するプラグインで(5月にはVenueフォーマットにも対応)、Mac/Windowsに対応した6バンドのEQです。SUB/40/160/650Hzの周波数固定EQが4バンドあり、それぞれ+15/−4.5dBの調整が可能。さらに2.5kHzに周波数固定のシェルビングEQが1バンド、最大の特徴とも言える周波数可変でOFF/2.5/5/10/20/40kHzまで"ブーストのみ"できるシェルビングの"AIR BAND"EQという構成です。実機に無いLEVEL TRIMも付いておりレベル合わせに便利。実にシンプルで潔いです。今回は筆者が現在進行中のロック・バンドのリミックス素材を中心にテストしました。ほぼすべてのEQの周波数が固定されているので、正直なところ最初は"せっかくのプラグイン版なのだから周波数が可変でもいいんじゃないの?"と思いましたが、実際の使用感はどうでしょう?第一印象は、がんがんブーストして使うタイプで、積極的に音作りをする攻めのEQだと感じました。Q幅がかなり広く、実際に使用するとあくまで周波数は目安に過ぎない印象です。試しにROLAND TR-808にローバンドのEQをかけてみたところ、SUBと40Hzと160Hzの組み合わせで、タイトかつふくよかで伸びのあるローエンドを作ることができました。またひずんだギターのエッジを立たせて前にぐっと出したり、ブリッジ・ミュートしたときの"ズンッ"と来る感じを演出するのにも重宝しそう。ほかのリズム・マシンでも試してみましたが、こちらも張りのあるローエンドや押し出しのある中域との相性が良かったです。

極端な設定でも破たんせず
即戦力のプリセットも多数用意


続いてベースにプリセットの"Bass DI"を使用してみました。パラメーターは"そこまでやるか?"と思うくらい極端な設定ですが、意外にも破たんせずきちんとベースのおいしいツボを突いています。ほかのプリセットも試してみましたが、音量にバラつきはあるものの、LEVEL TRIMでレベルを合わせればどれも即戦力になりそうです。次はボーカル。650Hzのバンドをいじると声の張りが変わっていくのが分かります。これまた押し出しの強いキャラクターで、周波数を調整するというよりはミッドレンジの張り出し感を調節すると言った方が分かりやすいでしょう。また、2.5kHzのシェルビングとAIR BANDの組み合わせが秀逸で、エッジの立った硬い音から透明感のある音まで高域のニュアンスを調節することができます。シェルビングで少しカットしてエッジを落とし、AIR BANDで20kHzを思い切り持ち上げることで、奇麗に抜ける仕上がりになりました。AIR BANDでGAINを上げると、不自然にハイエンドを伸ばした感じにならないように、全体のレベルがうまく持ち上がるよう調整されていて、これまたいくら攻めても、破たんがありません。ハイエンドのキャラクターはシルキーというよりも武骨で透明感があり、コンプ感はあるけど突き刺さるような痛い音でもない......何とも個性的なサウンドです。きっとこれがクリフ・マーグ氏の理想としている音なのだろうと思います。一通り試して感じたのは、微調整をするEQと言うより、スネアやボーカルなどのアタック感や抜け、膨らみやエッジ感を調節するような、音のキャラクターをコントロールするエフェクターと言えるでしょう。全体的なキャラクターは骨太で硬く、透明感がありながらも押し出しが強いサウンドで、ボーカルやギターなどのトラックに合いそうです。位相のズレも少なく、動作も軽快です。当初持っていた、EQの周波数が固定されていることへの不安は、実際に使ってみるとあっさりと吹き飛びました。このEQは"キャラ作り"の度合いを決めるある種DJミキサーのEQ的と言えるので、周波数が固定されていても不便は感じません。この感覚はぜひ一度で味わってほしいと思います。操作子もそれほど多くないので、MIDIコントローラーにパラメーターを割り当て、ツマミを回しながらおいしいところまでブーストするような使い方が良いでしょう。個性的で面白いので、実機も試してみたくなりました。