録りからミックスまで現場で重宝する多機能チャンネル・ストリップ

RUPERT NEVE DESIGNSPortico II Channel Strip
RUPERT NEVE DESIGNSから、アナログ・コンソールで培ったノウハウを結集したチャンネル・ストリップPortico II Channel Stripが登場しました。高電圧動作のオペ・アンプと、新たに開発されたトランスを採用し、回路はもちろんRUPERTNEVE DESIGNSがこだわるフル・ディスクリート仕様。早速録音の現場で使ってみました。

ディスクリート回路によるクリアな音質
EQ部には独自のディエッサーを搭載


まずは入出力に関して。入力は背面に設置されるXLR端子のマイクとライン、フロントに設置されたスルー端子付きのDI(Hi-Z)フォーン入力、それに加えてコンプレッサーのセクションに関連したサイド・チェイン端子、リンク端子を背面に搭載します。マイク入力は+20dBu以上に対応するアンプを装備するので、ゲイン・スイッチの設定が0dB時ならPAD無しでライン・レベルの入力が可能です。ライン入力はマイク・ゲイン用アンプが1つ少ないだけで、ほかはマイク入力と変わりません。続いてDI (Hi-Z)入力は先述の通りスルーが付くので、ギター/ベースを直接本機のDI入力につないでスルーからアンプに送ることも可能です。出力はXLR端子1つのみ。クラスAのディスクリート回路を採用し、同社が独自に開発したトランスと相まって、クリアな音質です。フィルターはハイパスのみで、12dB/octのカーブで低周波帯域をカットするため、エアコンの低周波ノイズや定在波に効果を発揮し、EQやコンプの処理がしやすくなります。しかし、カットし過ぎると、後から低域の補正がしづらいのと、ピークも増えてしまうので注意が必要です。EQは低域/中低域/中高域/高域の4バンドで、中低域/中高域はQ可変式です。音質はナチュラルで、表示される周波数ポイントも分かりやすく使い勝手の良い印象です。中でも特筆すべきはPost Compスイッチで、本機の信号の流れは基本的にEQ→コンプですが、このボタンを押すと順序が逆転します。筆者は録音時はコンプ→EQが多く、大胆な音色変化が必要なときはEQ→コンプにするのでこれは便利です。またチャンネル・ストリップにしては珍しくディエッサーを搭載しますが、この回路は従来のディエッサーとは異なり、中高域で設定した帯域に存在する音を抑えてくれます。ボーカルの歯擦音のほか、ベースやギターのラインにかけても、中高域の嫌な帯域が抑えられて聴きやすくなりました。

ブレンドなど多機能なコンプレッサー
ビンテージ卓の風合いを加味するSilk


コンプレッサーのコントロールは、スレッショルド、レシオ、アタック、リリース、ブレンド、FF/FB、ゲイン、RMS/Peakがあります。特筆すべきはブレンドとFF/FB、RMS/Peakでしょう。ブレンドは簡単に言うとコンプをかけた音と、かけていない音をミックスする機能です。強めにコンプにしたいけど、元のニュアンスも残したいときは、この機能でハードなコンプに原音を混ぜるとナチュラルな音が得られます。要はエンジニアがミキサーで行う手法が本機なら簡単にできてしまうわけです。次にFF/FBですが、FFはVCAの前段出力を検知してアッテネート値を制御し、FBはVCA後段の出力を検知して制御します。そのためFFはパンチの効いたトーン、FBはスムーズでナチュラルなサウンドを得意とします。FFでレシオを高くすると、アグレッシブなサウンドも作れます。RMS/Peakはいずれかのレベルに反応する速さを設定します。楽器や演奏スタイルによってこれらを選択できるのは助かります。加えてリンク機能で本機を2台使えばステレオ仕様で使用できます。コンプはサイド・チェイン機能も搭載します。S/C HPFを押すと、コンプに入る内部のキーイン信号のみにハイパス・フィルターをかけられてスムーズなコンプレッションができる上、オーディオ信号には直接フィルターをかけないので、嫌なピークもできにくいです。S/C HPFとは別にサイド・チェイン入出力を使えば、本機のサウンドを外部EQに送って、コンプに反応させたい帯域を強調させてコンプレッションすることもできます。次に私が一番気に入ったSilk機能はPorticoシリーズ独特のもので、音楽的な高調波成分を調節してビンテージのクラスAコンソールのような音色が作り出せます。Silkは2種類の特性があり、Silk(ボタンが青点灯)する状態だと中高域がハッキリし、Silk+(赤点灯)だと低域がリッチになる印象です。TextureはSilkの量をゼロから2倍にまで調整します。例えばローが足りないベースにSilk+を押すと、ローエンドが伸びて安定感が得られます。トーン・コントロール的な感覚で使えるので、同じ楽器でもSilkを使えば、曲によって違う印象を得られるでしょう。実際に使用してみると、多機能なオールインワン・モデルで、スタジオ/自宅と環境を問わず、録音にはマイク以外にこれ1台で十分だと感じました。音色は最初、ビンテージのNEVEにはかなわないと感じましたが、Silkを使えば匹敵するポテンシャルを持っています。個人的にはディエッサーとSilkが気に入りました。ボーカルやギター録りにオススメしたいモデルです。

▼リア・パネル。右からマイク、ライン入力(XLR)とライン出力(XLR)に加え、サイド・チェインとリンク用の各センド/リターン(フォーン)を装備




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)

撮影/川村容一

RUPERT NEVE DESIGNS
Portico II Channel Strip
オープン・プライス (市場予想価格/ 315,000円前後)
▲リア・パネル。右からマイク、ライン入力(XLR)とライン出力(XLR)に加え、サイド・チェインとリンク用の各センド/リターン(フォーン)を装備