複雑なモジュレーションなど充実した操作子を備えたソフト・シンセ

ROB PAPENBlade
海外では既に有名だったが、知る人ぞ知る存在であったROB PAPENの製品が、日本のディリゲントから販売されることになった。今回取り上げるのはThe 2011 NAMM Showで発表されて話題になったバーチャル・インストゥルメントのBlade。パラメーターが多いGUIは、何かやってくれそうだと期待させる面構え。従来のシンセサイザーとは異なる方式を採用した、なかなかの個性派のインストゥルメントだ。端的に言えば16ステップ方式のアルペジエイターを内蔵したシンセサイザーなのだが、一筋縄にはいかない複雑な音が出せる。一見するとパラメーターは難解に感じるが、分かってしまえばそうでもないので、できるだけ難しい言葉を使わずに説明していこう。

クールでダークなサウンドが魅力の
アディティブ・シンセシス方式


Bladeは16ボイスのシンセサイザーで、14種類のフィルターと21種類のディストーションに加えて、26種類のエフェクターを2基、さらに16ステップのアルペジエイターを搭載。Mac/Windowsで32/64ビットいずれでも動作し、VST/Audio Units/RTASに対応するプラグイン形式のソフト・シンセだ。気になるのは同社がうたう"アディティブ方式"である。通常のシンセサイザーの多くは、倍音を多く含んだ明るい音源をフィルターでカットして音色作りをする仕組みになっており、この方式を"減算方式"と呼ぶ。その一方でYAMAHA DX7などで知られるFM音源の中には、倍音を含まないサイン波を重ねて新たな倍音を作る"加算方式"がある。Bladeのアディティブ方式は後者を意味しているようだ。その理屈はともかく、アディティブはフィルターに頼ることなく音作りができるため、出音がクリアでブライトな印象になる。減算系のシンセサイザーのサウンドが"ファット"と形容詞されるのとは対照的なサウンドと言える。この方式を採用したBladeは、まさにアディティブ方式ならではの複雑な倍音変化を得ることができる。その出音の印象は、PPGやSEQUENTIAL ProphetVSのようなウェーブテーブル・シンセをほうふつさせるクールでダークな音色だ。

複数のパラメーターの同時操作で
個性的なサウンドが得られるXYパッド


BladeにおいてオシレーターにあたるセクションはGUI左側にあるHARMOLATORで、聞き慣れない名前のパラメーターが並ぶ(画面①)。スペースの都合上、全機能の紹介はできないが、TIMBRE TYPEが波形の選択で、ピッチの上げ下げはOCTAVEだ。ちなみにHARMOLATORの上部8つのパラメーターはどれも倍音の調整用で、実際には複雑なフィルターのような効果を得ることができる。

▼画面① HARMOLATORのセクション。"基音" の位置を決めて、その前後に倍音を付加し、偶数倍音と奇数倍音の比率などを調整......と言葉で説明すると難しそうだが、適当にいじっているだけでもそれっぽくなってくれる


まずはプリセットのサウンドを試してみたが、なかなか秀逸だった。開発者のロブ・パペン氏は10代のころからシンセサイザー・ミュージックに傾倒していただけあり、1960年代のクラウト・ロック的なパッドから、最新のダブステップ風のシーケンスまで、練られた音色を搭載する。これだけでも十分楽しめるが、Bladeは複雑なパラメーターを簡単かつ自在にコントロールできる点を忘れてはならない。GUI中央のXYパッドは、マウスでドラッグすることで縦軸方向と横軸方向に割り当てたパラメーターを同時にコントロールできる(画面②)。パッドの周囲に並んだツマミの下の青い文字をクリックすると、機能のアサインがON/OFFできる仕組みなので、複数のパラメーターをどんどん割り当てて試してほしい。

▼画面② 記録したマウスの動きを繰り返すことで複雑なモジュレーションをかけることができるXYパッド。外部コントローラーで動かすことももちろん可能。青い光の玉がリアルタイムで動き出す


これらのマウスの動きはBladeの中に記録が可能で、その動作をMIDIのテンポに合わせてループさせたり、後から編集することもできる。HARMOLATORのパラメーターを複数同時に動かすと、フィルターでは作れない倍音の変化が発生し、単純にドローンなフレーズだけでも幻想的な音空間を生み出せる。XYパッドの青い光の玉が音に合わせて生き物のように動くグラフィックも面白い。マウス操作だけでなく、外部コントローラーでパラメーターを操作すればライブでも活躍しそうだ。ほとんどのパラメーターは右クリック(MacではControl+クリック)でサブメニューが開き、コントロール・チェンジなどの設定に簡単にアクセスできる。コントローラーの設定を独立ファイルで保存が可能なのも便利だ。

ステップ・シーケンサーとしても使える
充実したアルペジエイター機能


アルペジエイターのセクションではTIE(次のステップと音をつなげる)、TUNE(ピッチ)、VEL(ベロシティ)をコントロールできるほか、任意のパラメーターのコントロールに使えるFREEがある。MODボタンをクリックしてモジュレーション設定画面(画面③)を表示させ、ソースからARP FREEを選ぶと、デスティネーションがFREEの数値でコントロールできる。シーケンスの設定はプリセットと同時に保存されるが、LOCKをONにすればプリセットを切り替えても、シーケンスの設定は維持される。

▼画面③ モジュレーション設定画面のひとつ。HARMOLATORのパラメーターをアルペジエイターでコントロールしたいときはここを使う。マトリクス的なモジュレーション機能の充実度は特筆すべき点


アルペジエイター部分の" FX"ボタンを押すと各エフェクトのパラメーターにアクセスできる(画面④)。ディレイ、リバーブなどの空間系が秀逸だが、コーラス、フランジャーなどとともにオート・パンやリング・モジュレーターなどの使えるエフェクトが26種類も入っている。さらにこれらのいずれかが2系統分使えるようになっており、そのバランスや幾つかのパラメーターをコントロール・チェンジで操作することもできるのだ。

▼画面④ FXセクションの画面。FX1とFX2は直列で接続され、各エフェクト・タイプごとにマッチしたパラメーターが表示される。EQもあるので重宝しそうだ。右端はパラメーター・コントロールの設定。MIDIのほか、Bladeのモジュレーション・ソースを使って動かせる


続いてフィルターについても解説しておきたい(画面⑤)。Bladeは先述の説明通り、加算方式によって倍音を生み出すシンセだが、フィルターもちゃんと搭載されている。フィルター特性とタイプの組み合わせは14種類から選択することが可能で、エンベロープでモジュレーションをかけることも簡単にできる。

▼画面⑤ DISTORTIONとFILTER。フィルターはデジタルらしいキレの良さで、−6dB/−12dB/−24dBタイプのフィルターを搭載。コム・フィルターなどの変わり種もあり面白い。ひずみの種類も充実していて、音程感の薄いダーティなサウンドも得意。Bladeのサウンドは意外とひずみ系が似合う


フィルターの横にある"DIST" はディストーションのことで、これまた20種類のひずみから選択可能だ。ツマミは2つしかないが、タイプを切り替えることで、これらのツマミの機能が切り替わるようになっている。ここまでザッと解説してきたが、Bladeはパラメーター類が充実していることで、音色の細かいコントロールができる点に魅力がある。だが、逆に操作子が多過ぎて、扱いにくいと感じるユーザーもいるかもしれないがご安心を。主要パラメーターのみを表示するEasy Screenモードを使えば、よりイージーな操作が可能だ。


大まかな機能の紹介だけで誌面が埋め尽くされてしまったが、流行の"アナログ回帰"とは真逆のアプローチで攻めてきた、Bladeのヌケの良いサウンドは新鮮だ。かっこいいシンセ・ベースやSEのようなサウンドも作れるので、ぜひチェックしてほしい。

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)
ROB PAPEN
Blade
オープン・プライス (市場予想価格/10,800円前後)
▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.4以降(10.4、10.5は32ビット、10.6以降は32/64ビット対応)、動作フォーマット:Audio Units/VST/RTAS▪Windows/Windows XP/Vista/7(32/64ビット)、動作フォーマット:VST/RTAS