4基のモジュールを搭載し多彩な音作りが行えるアナログ・シンセ

VERMONAPerFourMer MKII
VERMONAと言えば、スプリング・リバーブを小箱に納めたRetroverbやアナログ・シンセ回路で構成されたキック専用音源のKick Lancetなど、ユニークな製品を次々とリリースしているメーカーです。しかも新興メーカーかと思いきや、30年以上前の旧東ドイツ時代からエレピやシンセ、PA機器などを製造してきた歴史ある会社です。東西ドイツの統一後は一時休業しましたが、HDB AUDIOのシンセ/エフェクター専門ブランドとして2001年に復活。そんなVERMONAの最新シンセがPerFourMer MKIIです。

シンプルな構成のモジュールを4基装備
ドッシリと安定した出音が好印象


PerFourMer MKII(以下PFMIIと略)は、4基のモノシンセ・モジュールを組み合わせた音作りが楽しめるアナログ・シンセです。およそ7Uサイズで、ラックに入れることも考慮されていますが、厚さが割と薄い(105mm)のでトップ・パネルを上にしてテーブル上に置くことも可能です。若干傾斜の付いたパネルにズラリと並ぶツマミ群が壮観ですが、全体的にモノトーンぽい色調なので見た目にうるささを感じさせません。そのパネルはガッシリした厚さで堅牢さを保持していますが、かと言ってズッシリ重いわけではないので持ち運びは楽でしょう。PFMIIには鍵盤が付いていないので、音源を鳴らすには外部のMIDIシーケンサーを使うのが簡単ですが、一応本体内にデモのシーケンス・パターンも用意されているので、それを使えば単独でサウンドを確認することもできます。また本機にはCV/Gate入力端子付きモデル(オープン・プライス/市場予想価格185,000円前後)もあり、それを使えば外部のアナログ・シーケンサーからのコントロールも可能になります(通常機も有料オプションでCV/Gate入力端子の追加に対応)。シンセ・モジュール1基あたりの基本構成は、VCO/VCF/VCA/LFO/EGを1つずつというシンプルなもので(写真①)、このモジュールが4基分並んでいます。VCOはサイン、三角、矩形、ノコギリ、ノイズというスタンダードな波形と外部入力が選べます。レンジ切り替えは4'~32'に加えてHiとLoが選べ、LoはLFOモード、Hiは鍵盤からの信号に依存されずに一定の周波数を発振させるもの。いわばLFOの高速スピード版としてSE音や後述するFMをするときに活躍します。パルス幅はLFOツマミでモジュレート可能ですが、マニュアルでの設定ツマミは無く、外部MIDI機器のモジュレーション・ホイールで制御する仕様になっています。さらにレガートの切り替えやベロシティによるVCAのON/OFF、オート・グライドなどもパネル上で設定可能。オシレーターだけで考えても、見た目以上の可能性を秘めていることが分かると思います。

▼写真① 1モジュール分の構成はVCO/VCF/VCA/LFO/EG。右端のEXT IN/VCO OUT端子は外部信号を入力する際に使用。Y字ケーブルを使うとVCOの信号をダイレクトに取り出すこともできる。OUT/INSERTはいわゆるパラ・アウトだが、Y字ケーブルを使って外部エフェクトのインサートも可能


VCFはおなじみのMOOGタイプ。-24dB/oct仕様で自己発振も可能です。EGはVCO/VCF共に正/逆のモジュレーションが可能です。VCAはEGやゲート(鍵盤ONで音が出て、離すとOFF)による音量調整に加え、ON(開放モード)もあります。これは常時VCAが開放状態=音が出っぱなしになるのでSE系の音作りで便利。本機のメイン・アウトは4基のモジュールがミックスされたステレオL/Rなので、パンを使えば各モジュールの定位がコントロールでき、そのためのツマミもVCAセクションにあります。LFOはノコギリ/矩形、サイン、そして往年のシンセ・ファンには垂ぜんモノのS&H(サンプル&ホールド)が搭載されています。肝心の音ですが、オシレーターの各波形は勇ましいまでのどっしり感......つまり重厚です。長時間放置してもピッチは安定し、S/Nも問題なく良いです。フィルター・レゾナンスを自己発振させた際の刺激的な響きも心地良く、とりわけフィルター・カットオフとレゾナンス、そしてEGのトライアングル・バランスが秀逸で、どのポジションにしてもイイ音になるところは設計の巧みさを感じます。個人的にはフィルター・レゾンナンスを加えた際の"ドイツ的"とも言える硬質な質感が非常に好みでありました。

フレーズ作りの幅が広がる
6種類のプレイ・モードを用意


では、本機の最大の特徴=4基のシンセ・モジュールを組み合わせた音作りについて言及していきましょう。パネル右下の方にあるPLAYMODEツマミ(写真②)がキモになります。このツマミではモノフォニック、デュオフォニック、ポリフォニックのモードがそれぞれ2種類、計6種類を選択可能。要は、4基のモジュールを臨機応変にリンクさせられるのです。

▶写真② PLAYMODEツマミ。入力されたフレーズは、どのモードかによって発音モジュールが変わる(MIDIチャンネルの設定によっても動作は異なるので、下記がすべてでないことに注意)


M1:モノフォニック1。全モジュールをトリガー
M2:モノフォニック2。モジュール1→2→3→4を順 番にトリガー
D1:デュオフォニック1。モジュール1+2と3+4を交互にトリガー
D2:デュオフォニック2。D1と似ているが、2音ポリと同じになる
P1:ポリフォニック1。4音ポリでノート・ホールドあり
P2:ポリフォニック2。4音ポリでノート・ホールド無し


まずは工場出荷時の状態でM1(モノフォニック1)にセットしてMIDI鍵盤を弾くと、4つのモジュールが同時に鳴ります。いわゆるユニゾン状態で、各モジュールのパラメーターを同じにすれば4VCOの分厚いサウンドが飛び出します。さらに、例えばモジュール1はベース、2はフルート、3は三角波を薄く鳴らした影のような役割、4は金属的で強力なアタック成分の音にし、それぞれ異なる定位にするとフレーズに広がりと芯ができ、立体感のある音が演出できます。いわゆるスタックとかレイヤーと呼ばれる手法ですね。パネルに4つのモジュールが整然と並んでいるので、パフォーマンスしながら各モジュールへ即座にアクセスできるのもミソです。次にM2(モノフォニック2)ですが、その前に本機の音作りに関する追加情報を。4つのモジュールのうち、2/3/4にはSYNCスイッチとFMツマミが用意されています。SYNCはオシレーター・シンクのことで2つのVCOを使いますが、本機では前段のモジュール(2だったら1、4だったら3)にシンクさせることができます。このスイッチではLFOシンクをかけることもでき、ONにすると前段のモジュールのLFOがマスターとなり、追従モジュールのスピード・ツマミが波形の位相ツマミに変わるのです。これは素晴らしいアイディアで、前段モジュールに対して任意の位相角度を設定できますから、コーラス的に使ったり、VCAのパンにかけてグルングルンに音を回すことができます。そしてFMもLFOシンクと同様、前段モジュールのオシレーターがソースとなり、行き先であるVCOかVCFにアサイン可能になっています。ここで、ソースとなるオシレーターを前述したHiモードにし、TUNEツマミをムンズと回せば、EMSシンセのようなワイド・レンジに及ぶピキュ~ンという周波数変調が実現できます。それを踏まえた上で、モードをM2にセットしてみます。M2では、本体に入力されたノートに沿って、モジュール1~4が順々に発音します。ドレミと弾いた場合、ドはモジュール1、レはモジュール2、ミはモジュール3が鳴るという具合です。その応用として、ドミソシという8分音符を繰り返すフレーズを作り、4つのモジュールのうち3番目だけオシレーター・シンクをかけた場合だと、ソの部分だけシンクがかかるのでアクセントを付けたように聴こえるというわけです。さらなる応用として、モジュール1〜3だけ繰り返すように設定してみるのも面白いです。4つのモジュールのMIDIチャンネルは個別に設定できるので、例えばモジュール1〜3までをch1、4だけch2にすると、フレーズを追うごとにアクセント・ポイントがズレてポリリズムのようになると同時に、モジュール4だけ違うフレーズを鳴らすといったことができます。余談ですが、MIDIチャンネルを個別に設定すれば、当然4つのモジュールを独立して扱うことも可能です。残りのP1/2(ポリフォニック1/2)はその名の通り、4つのモジュールを最大4音のポリフォニックで鳴らせるモード。またD1/2(デュオフォニック)は4つのモジュールが2系統の2ボイス・ユニットとなって発音します。これらの使い方による音色バリエーションはまだまだあるのですが、誌面が尽きました。PLAYMODEはMIDIチャンネルの設定との絡みがあるので、慣れないと混乱するかもしれませんが、理屈が分かると合理的でよく練られた設計だと思います。何よりフレーズのノートごとに音色を変えたり、レイヤーすることで新たな音を紡ぎ出すという考え方は既にありますが、本機のような形にまとめて提示してきた"コロンブスの卵的発想"には新鮮さと驚きを感じました。クラブ・パフォーマーやサウンド・クリエイターに強力レコメンド印を押させていただきます。

▼リア・パネル。写真はCV/Gate入力端子付属のモデルで、左からメイン・アウトL/R(フォーン)、Gate入力とCV入力を各4ch分(フォーン)、そしてMIDI THRU/IN。通常モデルにはCV/Gate入力端子は付いていないので注意




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)
VERMONA
PerFourMer MKII
オープン・プライス (市場予想価格/165,000円前後)
▪VCO/サイン波、三角波、矩形波(PW可変)、ノコギリ波、ノイズ、外部オーディオ入力▪VCF/24dB/oct ローパス・フィルター(自己発振可能)▪VCA/ドローン、Gate、EG▪LFO/サイン波、下降ノコギリ波、矩形波、サンプル&ホールド(0.05~250Hz)▪エンベロープ/ADSR▪電源仕様/AC90~240V▪外形寸法/435(W)×105(H)×315(D)mm▪重量/約3.8kg